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95話 上を行く者

 ここはワイル陣営。現在はレトー隊により制圧されている。

 兵長を含むワイル兵達は拘束し、人質とした後だ。


「それにしてもビックリしたよなぁ」

「ああ。別の部隊が出てきたら敵陣営を制圧に行くという真の作戦を隊長に“だけ”伝えていたなんてね。さすがコラルド君だと思ったよ」


 隊員達はこの作戦が完全にコラルドの指示によるものだと思い込んでいる。確かに彼にはその考えがあって、指示する予定だったのだが、それが早過ぎる事については誰も気づいていなかった。そして誰がそうしたのかも。そのせいで、評価はコラルドに集中する結果になる。これこそが、あの男の狙いであった。


「そういえば、隊長はどこ行ったの?」

「便所。長くなるから先に東側の援軍に向かってほしい、だってよ」

「相変わらず緩いねぇ…。緩めるのは――」

「それ以上は汚いから言うな。無駄に想像してしまうだろ?」

「…おう、すまん。それにしても、あんなのでよくコラルド君の教育係を務められたものだ」

「確かにそうだよなぁ。…実は教育する側じゃなくて教育される側だったりして」

「教育され係ってか? 皮肉効いているなぁ、それ」

「コラ、笑ってやるなよ」

「お前もじゃん」


 隊員達は笑いを堪えられないまま、和やかな雰囲気で援軍に向かうのだった。


 一方ブダシヤカ陣営では、テント内でコラルドが1人で次の報告であろう『東側の制圧』を期待して待っていた。


(最初の部隊を制圧した後に別の部隊を制圧するのは、迎え撃つ為の有効な準備がないから難しい。そこへさらに数の多さも加われば尚更。本格的な東側の制圧が始まるのはトーさんの隊が合流してからになるな)


 今回はかなり時間がかかると予想し、気長に待つモードに切り替えようとした所で、チリンと鈴の音が聞こえる。これは伝令が戻ってくる50m手前で鳴らす様にとコラルドが伝えていた事。陣営には1人なので、いつでも逃げられる様に警戒をしなければならない。が、陣営に近づいてくるのは味方だけでなく、敵の可能性もある。そこで、そうでない事を事前に知らせてもらう事にした。こうすることで、遠くから近づいてくる気配を感じても敵味方の区別ができる。


 先程鈴を鳴らした気配が近づいてくる。それを味方だと判断するはずだったが――


(報告が早過ぎる…)


 敵陣営を制圧したのなら、残された報告は東側の戦況報告か、他方の戦況報告。どちらも足止め段階なので、これほど早い報告には違和感しかない。不安が芽生え始めたコラルドの下へ気配が高速で迫り、丁度テントの外にまで来ていた。

 一瞬の静寂。その中に殺気を感じたコラルドは、すぐに地面へ身を伏せた。するとテントが横へ真二つに切られる。そのまま立っていれば、体は間違いなくあのテントの様になっていただろう。支えが切られて降って来たテントの屋根を隠れ蓑に使いながら、爆弾を投げて抵抗しつつ距離を取り、うまく木陰に逃げ込んだ。だが、敵はその木陰の木ごと切ってきた。

 切ったのは黒フードの人物。両手にはトンファー型の刃物武器が握られている。


(木を一太刀で切るなんてとんでもない切れ味だ…。避け続けなきゃやられる…!)


 続いて糸切爆弾を使うも逆に糸を切られて無効化された。なんとか距離を保ちながら逃げる中で、もう1人黒フードの人物が居る事に気づく。そいつは何もせずにこちらを窺っている様だ。目の前の人物には道具が効かないという事で、試しにそっちへ爆弾を投げてみた。すると、そいつを庇う様に人物が爆弾を破壊して爆風が当たらない様にする。


(なるほど、そういう関係ね)


 理解したコラルドは、攻撃型でない方を積極的に狙う事にした。これがうまくハマり、攻撃型を庇うのに固定化。これで距離を十分にとることに成功し、一先ずの安全は確保できた。

確保できた所で、こいつらを戦場に行かせたら危険だと判断し、言葉による足止めを決行する。


「鈴のルールを知っていたという事は、伝令の人から鈴を奪ったのですか? 伝令の人はどうしましたか?」


 少し間があってから、非攻撃型の方が返す。


「そんなのとっくに分かっているんじゃないの?」

「こちらはできるだけ無血でやっているというのに…」

「それはそっちが勝手に決めたルールでしょ? 勝手に決めたルールに、勝手に縛られているだなんて、ホント笑えるよ」

「こちらは1つも笑えないのですがね…。この場所を知れたのはその人の後をつけてきたからですね?」

「うん。こちらの陣営の近くをチョロチョロしていて目障りだったからすぐに気づいたよ。ウザかったのはここまで案内役として役に立ってくれた事で帳消しにしてあげようかな」

「…俺をわざわざ狙いに来た理由はなんです? あなた方の…特にあなたの前におられる方が戦に加われば戦況は大分優勢になると思いますけど」

「そんな事したら圧倒的過ぎてつまらないでしょ? 負ける可能性が少しくらいないと面白くないからね。 バランス調整みたいなものだよ。もっとも、負ける趣味もないから勝つ確率は常に高くしておくつもりだけど。君を狙う理由はその勝率をあげる為だよ」

「指揮官を潰せば敵は崩壊すると…。だが、残念でしたね。指揮官が潰されたのはそちらも同じでしょう?」

「あれはただの人形だから全然問題ないよ。むしろ使えなさ過ぎて邪魔だったから潰してくれて清々した。ありがとね」


(笑っている。って事は、本当に人形…つまりは捨て駒だったという事か。敵陣営自体がそうだとすると、それをわざわざ狙わせた意図は一体……)


 考えること数秒。ハッと気づいた。


「…まさか、こうしてこちらの陣営を俺一人にする為に、わざと自分達の陣営を手薄にしてこちらの残り戦力をおびき寄せたというのか…?」

「その通り。よく気づいたと褒めてあげたい所だけど、気づくのが遅すぎたからやっぱり褒めてあーげない」


 自身の作戦が完全に利用されていた事に気づき、落胆するコラルド。そして、目の前の人物こそが真の指揮官であったのを理解する。さらにそれは自分の上を行く知略を持つ者。すぐには埋める事の出来ない大きな差を思い知らされ、静かに敗北を覚悟するのだった。

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