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94話 勝手な行動

 ワイル陣営にA隊が落とし穴を見つけて進行したと報告が入る。その時の落とし穴がずさんなデキだった事を聞いてターロが小刻みに震えながら口を開いた。


「敵にはまともな指揮官がいる。そいつがわざわざそんな落とし穴をつくるって事は、明らかにそれ以外の意図があるって事でしょ? どうして分からないかなぁ?」


 不機嫌なターロに兵長がおずおずと聞く。


「意図というのは、一体…?」

「奇襲をかけるなりして大打撃を与えるって意図だよ。多分落とし穴に兵でも伏せているんじゃないかな? それだとさっきの穴を強調させた演出も納得できるし」

「…とすれば、今頃A隊は……」

「やられているだろうね、確実に」


 ぶっきらぼうに答えるターロ。あまりのやってられなさに、いつの間にか丁寧口調が消えてしまっていた。これを聞いていた兵長とB隊は、あまりの驚きに言葉を失う。40人という数がそれよりも少ない数に…しかもタネを知っていればどうって事ない策によって壊滅させられたと聞かされたのだから。

 誰も次の言葉を発せなくなっている中で、ターロがいち早く発する。


「すぐにB隊を向かわせよう。奇襲を仕掛けられてボコボコにされているとはいえ、数はいるのだから多少は敵の伏兵の足止めや戦力削りはできるでしょ。そうやって、少しだけ弱っている伏兵達を連戦させる様にして潰そうか。で、その後は当初の目的通り、東側の敵を挟撃で潰してもらう。…分かった?」

「はい!」

「あ、分かっていると思うけど、わざとらしい罠を見つけても今度は馬鹿みたいに警戒を解かないでね?」

「はい…!」


 ターロの無感情命令に恐怖を感じたB隊がビビリながらも返事をし、そのまま東側へ向かった。陣営にはターロ、シャロ、兵長、護衛5人だけが残る…かに思われたが、ターロとシャロも離れた。


「どこへ行かれるので?」

「なぁに、B隊にこっそりついて行って現場で指揮を取ろうと思ってね」

「なるほど… いちいち報告をし合うよりもその方が効率的ですね。いってらっしゃいませ」

「ああ」


(何が“なるほど”だよ。こっちがお前らのあまりの使えなさにイライラしているの分からないかなぁ? 自分で動いた方が手っ取り早いと思ったから離れただけ。ってなわけで、ここからは自由にやらせてもらうよ)



◇◇◇



 コラルドの落とし穴作戦は伏兵による奇襲で、応援に来た敵の主力隊を制圧する事が表向きの目的。真の目的は敵陣営を攻める事にあった。というのも、数の差がある以上はこちらの分散した戦力では長引けば長引くほど不利になると考えていたからだ。そうさせない為にはこの戦の早期決着が必須。そして、それには敵の指揮官を潰すのが一番と考えた。

 しかし、敵陣営には当然指揮官を守る為の護衛隊が残されているだろうから、簡単にはいかない。それを簡単にするには、その護衛を何とかする必要がある。幸いな事に、敵の方も兵糧や弾薬の制限がある事から早期決着を望んでいる可能性は高い。これにより、焦りが発生。敵は早期決着させるなら、砲撃で障害をある程度破壊して攻めやすくした東側を制圧するのが第一と考える。そこへ主力隊がやられた報告を受ければ、どうなるか……態勢を整える為、すぐに別の隊を送らざるを得なくなる。例えそれが自身の護衛を削る行為だとしても。


 敵陣営が手薄になる事を考慮して、敵陣営を直接叩くのをレトー隊に任せるつもりでいた。ジャックス隊と協力して伏兵奇襲を成功させた後に、増援が来るのを見届けてから敵陣営を探しに向かってもらう。ジャックス隊はそのまま東側のワイル兵を挟撃で制圧した後、増援を迎え撃つ流れ。

 全員にはまだ敵陣営叩きの件を伝えていなかった。敵陣営が手薄になる確率は高いものの、まだ確定できていない。敵の別部隊が動かずに陣営で持久戦をする態勢になったり、部隊をさらに分けて東側以外の箇所を攻める方向に切り替えるのも考えられる。そうなった場合、現場で味方が混乱する事態になるかもしれない。この様な余計な混乱を防ぐ為に、敢えて伝えない事を選択した。また、約一名が数時間前に「ついていくのがやっと」と発言したのもある。察しの悪い人にはできるだけノイズとなる様な情報を少なくしておかないと変な行動にでやすい。伝えないのは、その防止の為でもあった。

 というわけで、敵の残り主力部隊が現れたのを確認した後に『敵陣営を探して制圧してほしい』と伝令するつもりでいる。


 ブダシヤカ陣営にはコラルドが作戦の指示・情報の中継役として1人だけ残る。当初は護衛を何人か残す予定だったが、「ただでさえ少ない戦力を自分の護衛で割く事はできない。自分の身は自分で守る」という熱い物言いにより、承認された。


 現在の戦はコラルドの予想通りに進んでいる。その証拠に、先程伝令から「伏兵による奇襲が成功し、制圧完了した」と受けている。

 何時間か経って、その伝令が再び戻ってきた。伝令が告げたのは「別の主力隊が動き始めました」という期待通りの一言。「ご苦労様です」とねぎらってから、レトー隊に敵陣営制圧の件を伝えてほしいと頼んだ。そして、伝令は再び戦場へ。


(とりあえず予定が確定できてよかった。これで早期決着が望める。…次の伝令は『敵陣営を見つけた』がいいな)


 期待しながら待つ事数分、先程とは別の伝令がやって来る。それを見て『早すぎない? 何か悪い知らせかな?』と少し不安に。

そんなコラルドを余所に、伝えられたものは驚きの内容だった。


「レトー隊、敵陣営を制圧しました」

「はい…?」


 思わず耳を疑う。が、伝令係は大真面目な顔をしているので真実の様だ。


(工程を何個もすっ飛ばしている…。どうして制圧がこんなにも早いんだ? どうやって敵陣営を早く見つけられた? どうして別の主力隊が動いたのを早めに知れたんだ? そもそもなぜ敵陣営制圧の件を知っていたのか?)


 考える事数秒。レトーが取りそうな行動を予測しつつ、持ち前の頭の回転の早さで答えに行き着く。


(別の主力隊の動きは、敵の伝令役か偵察者を追跡する事で知れたんだ。そのどちらかは必ず敵陣営まで戻るから、それで陣営の場所も分かるし、主力隊が出て行くタイミングも分かる。別隊の動きを待つというロスを最小限に減らす事で最速の早期決着が可能。俺のやろうとしている事を察しただけではなく、先読みして効率的なルートを導き出すなんて…。やはりトーさんは、トーさんだった…!)


 喜ぶコラルドだったが、1つ疑問が残る。


(でも、そこまで先読みできているなら、あの情けない発言は何だったんだろ? 新しいボケ? あ、もしかして自分の評価を下げる為のやつかな。何もこんな時にまでやらなくても…)


 コラルドの尊敬の念は上下を繰り返し、結局はいつもの所で落ち着くのであった。

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