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92話 軍師は辛いよ

 大爆発の音はワイル陣営にも届き、


「砲撃の音にしては大き過ぎる…」

「敵が兵器を隠し持っていて、それにやられたとか…?」

「だとしたら、かなりまずいんじゃないか?」


 などの動揺や不安を生んだ。

 この中で唯一動揺していなかったのは、ターロとシャロだけ。


(なんらかの細工が作動したのだろう。あの爆発音の規模的に大砲の火薬群に引火したっぽいね。とすれば、細工は火薬にしてあったって事かな? 何か爆発を誘発するような反応性の高いものを、火薬群に混ぜていたとみた。

 何か細工はしてくると思っていたけど、まさか火薬とはねぇ。試し撃ちで砲弾と火薬の方には何も問題がなかった事が、そこへの不信感を無くさせたわけか。そりゃ点検で問題なかったら大丈夫だって思っちゃうよね。そこから火薬の粉や砲弾を分解して隅々まで調べるってなったら面倒過ぎるもの。

 それに、その時は早く準備を済ませて進軍するのを優先していたから、細かい事は気にせず最低限必要な箇所だけ正常である事を確認できればいいって考えだった。そんな感じで今回はだらけちゃう所と焦って余裕のない所をうまい事つかれちゃったみたい。

 大砲に関しては嫌な予感がずっとしていたから、警戒はずっとしていた。だから、大砲での攻撃に向かわせたのは最小人数の20人にしたんだよね。結果それが活きて、被害は最小限に抑えられたと。…まずまずかな。全大砲を失ったのは痛いけど、戦力は温存できているし、まだまだ戦える。

 砲撃が始まってしばらくたってからの大爆発だったから、最低でも門程度なら破壊できているだろう。ならば、そこから町内へ侵入していくのが妥当――って向こうも考えているはずだから、今頃通路に罠を設置したり、伏兵を配置したりで忙しくやっているだろうね。時間をかければかける程相手の準備が整ってしまうから、整う前に動くべきだ。だけど正直不安だなぁ、こいつら…)


 現在クーアとの戦争に参加しているのが1軍だとすると、ここに居る兵達は2軍。そもそも能力で劣る者だったからこそ、クーアとの戦争に参加できなかった。そんな残りもの連中だからこそ、ターロは彼らの能力をどこまで信じていいか分からない。結局、変に期待はせず、“1言った事を1で返す”という単純動作ができるだけの存在として認識する事で落ち着いた。


(となると、行動開始と終了の時に逐一報告してもらわないといけなくなるね。次の行動に移るときに見当違いの事をされたらたまったものじゃないし…。あーめんどくさー)


 だるい気持ちを抑えつつ、兵士達を集めてこれからの作戦を説明する――前に現状を簡単に説明しておかなくてはいけないのを思い出して、結局怠さに負けてしまう。そのままやや気の抜けた声で現状説明を開始。それが兵士達には『この混乱状況でもあんな余裕のある雰囲気で話すなんて、どれ程の修羅場を潜り抜けてきたのだろう』と、格の違いを見せつける結果となり、尊敬の念を抱かせた。それに気づいたターロが、さらに怠さを感じたのは言うまでもない。


「――というわけで、これから80人を2つに分けて40人の隊をつくります。先に行く方をA隊、後をB隊とでも呼びましょうか。まず、A隊が東で戦っているワイル兵達に合流して挟撃を仕掛けます。で、勝ったらそのままブダシヤカへ侵攻してもらって、その後をB隊が追う。以上、何か質問はありますか?」

「なぜ2つに分ける必要があるのですか?」

「失礼ながら私もそう思います。そのまま数で押し切った方が、早く突破できて有効だと思うのですが…」

(さっきの説明聞いていたのか? やっぱり駄目だわ、こいつら)


 呆れつつも、それを空気には出さずにやんわりと答えるターロ。


「敵の罠や伏兵などの準備が疎かになっていると言いましたが、これはあくまで仮定の話。短時間で準備万端の状態で待ち構えている場合、こちらは確実に痛手を負います。その時の補助としてB隊が必要なのです。…いいですか? 大体の戦場では自分の思い通りに事が運ぶのは稀です。ですから、事態は常に最悪な事が起こると想定して置く事が大事。そちらの方が損害は少なく事を運べるので、結果的に勝率が高まるのです」

「確かに…」「納得しました!」


 この後も兵士達から「さすが軍師殿」攻撃を受け続け、説明しきった頃にはターロの気力は底をつきかけていた。フラフラになりながらも「行動の前後に、必ず私に報告を入れる事… あと、罠や伏兵を見つけた時にも……」と最低限守ってほしい約束を伝える。そして、「行って参ります」と元気よく出ていくA隊を見送った。


 東側に入る。仲間のワイル兵が通った雑草の踏み鳴らし跡を辿り、道中の罠や伏兵を警戒しながら進む。すると、丁度それらしきものを見つけた。そこは生い茂る草木もなく、地面がむき出している。そんな森の中の開けたちょっとしたスペース。そこになぜか無造作に置かれた茂み。しかも茂みが少しずれて、“それ”が思い切り見えていた。

 “それ”を見た兵士は半笑いで他の兵士に問いかける。


「どう見ても落とし穴だよな?」

「ああ。間違いなく」

「落とし穴って普通目視で発見できないような分かりにくい所に仕掛けるよな? 深い草原地帯の中とか。どうしてこんな分かりやすい所に」茂みをどかしながら笑いを堪える。

「当たり前の事も忘れるくらい連中が焦っているって事じゃないか?」

「なら、軍師殿の言う“最悪”の事態ではなく、“最高”の事態なわけだ」

「ふふ、その通りだよ」


 分かりやすい落とし穴が1つではなく、数10個はあった。前列にあった茂みを開けたら全部穴だったので残りもそれだと確信。しかも穴は、人が3人は入れる程広く、深さもそれなりにあり、底にはちゃんと木を削って作ったトゲが敷き詰められていた。


「良いデキではあるんだが、場所がなぁ」思わず噴き出す。

「笑ってやるな。可哀そうだろ?」

「そう思うならハマってあげなよ」

「それは遠慮しておこう」

「優しくないねぇ」


 笑い合う兵士達はそのまま優しさをみせることなく、落とし穴地帯を迂回していった。そして、陣営に向けて罠を突破した事を報告する。“分かりやすい落とし穴”という笑いネタ兼最高の事態である事を示す内容を。

 伝令係が行ったのを見て兵士が呟く。


「このまま次の報告が来るまで待つか?」

「敵はいかにも疲労困憊していそうな弱った状態なわけだろ? 待っている時間が無駄な気がする。今が攻め時でしょ?」

「だよなぁ!」


 最悪な事態なら躊躇したが最高の事態なら躊躇する必要はない。むしろどんどん進むべきだ。そう判断した彼らは意気揚々と進む。最高の事態での勝利を目指して。


 しかしこの後、彼らがそこへ到達する事はなかった。


 なぜなら、彼等の姿が突然消えてしまったからだ。

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