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86話 ワイル国の影

 工作員騒動から数日後、出張から帰って来たコラルドに現状と指揮官任命の件が伝えられる。「トーさんめ、いっつも俺に面倒事を丸投げしやがって…」とイライラしたものの、数秒で切り替えて今後の予定を立て出した。この素早い適応にドーベンは『お前の見る目は正しかったようだな』と微笑んだ。

 “お前”の顔が浮かんだ事で、急遽有給を取った2人の事は気にならないのか尋ねると「全然。今頃2人共、たっぷりと有休を満喫しているだけですから。帰ってきたら思い切り背中を叩いてあげましょう」と答えたので、「分かっているじゃないか!」と一足先に背中をバンバンやった。



◇◇◇



 ワイル国には、1000人が住まう城下町がある。ただその内半分の数がクーアとの戦争で駆り出されているので、町で兵として戦えるのは城の警備兵を含めて300人程だ。非戦闘民が「この状況で宣戦布告して大丈夫なのかな?」と不安がる中、城では作戦会議が開かれていた。


 時計の長針が4時と8時を指すような鋭く尖った髭を蓄えている中肉中背の白髪天然パーマ男性が、重役6人が集まる円卓で偉そうに座っている。彼はゲシュタン。今年で歳が55になるこの国の王である。


 重役が状況整理として現状を説明中。


「ブダシヤカの戦力はギルド職員や冒険者・戦える町民を合わせた100人程度。こちらは300と数では勝っているのですが、向こうは1人1人が洗練されていて手強いので、数の差が埋められてしまうでしょう。しかし、向こうには防衛用の兵器が揃っておらず手薄。対するこちらは十分な数の兵器が揃っておりますので、戦力的には有利かと」

「こちらの兵器はほとんどクーア製のものだったな。自国の兵器で自国の町が潰されるとは実に滑稽。しかもこちらにそれを売ったせいで手薄になるなんてな」クククと嘲笑。

「…全くですなぁ」

「が、それでもまだ奴らは侮れない。優秀な奴がいる限り、いやらしい策を練ってその差を埋めてくれる事は十分に考えられるからな。他にも何か有利条件が必要だ…」

「ご心配なく。ブダシヤカにはすでに工作員を送っております。しかも彼等の主力となるであろう中堅ギルド職員に化けて。この潜入により、奴らの情報は筒抜け状態になり、対策が取りやすく、逆に利用もできるといった超絶有利状況を作れます。また、中堅という地位を活かして多少強引な内部工作もできるでしょうし、かなり余裕がある状態で開戦できるかと」

「素晴らしい働きだな。褒めて遣わす」

「有難き幸せ。…補足ですが、化け元となった職員を捕えているので、いざとなれば抑制役として利用できるかと」

「抜かりが無くて助かる。…勝負というのは戦う前から決まっているもの。これだけ有利条件が揃っている所に、最新兵器を加えればさらに勝率は上がる。絶対に負けが来ない安定した状況。戦とはこうでなくてはな」

「おっしゃる通りです」


 この後、兵士の徴兵や兵器の輸送準備、必要物資の確保などが話し合われて会議は終了。

 ゲシュタンは大満足で自室に戻る。すると、そこには彼の他に場違いな黒フードの2人が待っていた。


「その顔…順調そうで良かったよ」

「ええ、それはもう。全てはあなた様が、ブダシヤカの手薄情報を教えてくれたからです。感謝します」

「感謝は別にいいよ。丁度あの町に恨みがあっただけだしね」


 ゲシュタンがブダシヤカに宣戦布告したのはこの人物の助言によるもの。彼はクーアとの長期戦争を敢えて演じていたものの、双方の国が発展するので、自国に有利性が生まれない事を心配していた。そこに現れたのがこの話。敵国の町…しかもご丁寧に有力人材が揃った場所を簡単に滅ぼせるとなれば、くいつかないわけがない。有利性に目のくらんだ彼は飛びつく様にこの助言に乗った。


彼の“有利な状況を保って安心したい”という考え。

この“安心”というのは無限の利益を生む便利な言葉。

上手く扱えれば色々な人を支配できる。

なので、教育や政治などにも利用されている。

その中でもこの言葉を特に多く利用するのは――


 黒フードの影に隠れてチョビ髭男がニヤリと笑う。


――悪人である。


 ターロはこの機会をつくる為、数年かけてブダシヤカにあった兵器を『戦争で必要だから』と偽って少しずつクーアへ持ち出させていた。こうして戦力を十分に減らした所をノーム洗脳済みのゲシュタンを利用して攻めたわけだ。


(今回は魔物じゃなく人だ。人は魔物の様に誘導はしづらい。自意識っていうめんどくさいものが働くからね。…ただ、悪人にとってはその自意識が強ければ強い程洗脳しやすいから誘導しやすいのだけど。あの時のスライム野郎なら同じことができるだろうけど、さすがに国王までは誘導返しできないでしょ。時間や準備が足りないだろうし、そもそもこまで辿り着くのが容易じゃないしね)


 1週間という時間制限を設け、準備を焦らせる事で正常な思考を奪う。こうして“妙案を仕掛ける“という相手の不確定要素を潰しておくことで、戦況は不変のものとなる。つまり、準備段階で確定的な有利性を持っている方が勝つという事。


(勝率が高い方が必ず勝つ。なんてつまらない戦いなのだろう)


 敗者となるであろう人物をフードの影越しに冷笑するのであった。

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