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80話 教育係の行方

 レトーはドーベンに呼び出され、一つお願いされる。


「えっ? 俺にコラルドの教育係を任せたいですって?」

「そうだ」

「いやいや、どう考えても不適任ですって!」

「なぜそう思うんだ?」

「あいつが俺より優秀だからですよ。俺みたいな出来損ないにつけるよりか、優秀な人に着けた方があいつの為になると思いません? もちろん思いますよね? で、優秀な人と言えば、ジャックスです。彼に任せておけばまず間違いないと思いますよ。出来損ないの俺でも使い物になるくらいにしてくれた信頼と実績がありますからね。それに、コラルドはジャックスの事をもの凄く尊敬しています。ですから、ジャックスこそ彼の教育係にふさわしいと思います」


 マシンガンの様に自分の言葉を次々と撃ち込む事によって、相手を黙らせて勢いで主導権を握ろうとする彼お得意の切り口。流されやすい人であれば、これにつられて流されてしまうのだが、そうでない人には全く効果がない。ドーベンもその一人だ。


(さてさて、どうしたものか…)


 ドーベンは彼がコラルドに対して行っている賭けや特訓の事をジャックスから聞かされている為、大体の事情は知っている。知っていたからこそ、彼が適任だと判断したわけだ。それ故に、どうしても彼に任せたいという気持ちは曲げられなかった。

 嫌がる相手を説得するのは骨が折れる。ましてや歪んだ思考を持った相手となれば尚更だ。

暫く顎に手をやりながら熟考する。


(なんとかして、こいつの持っている習性を利用できないものか… そういえば、こいつは優秀な人間に対してのリスペクトが異常だったな。その異常さを今回は利用させてもらうとしよう)


 熟考を終え、口を開く。


「話は変わるが… 実は最近、ジャックスから悩みごとの相談を受けていてな…」

「あいつの悩み事…?」

「…やっぱり、やめておく。お前にはちと酷な話になるのでな」

「いや、俺の事なんか気にしなくていいんで、ぜひ聞かせてください」


 熱い視線を送るレトーを見て掴みがうまくいった事を確信するドーベン。

 それから、やや申し訳なさそうな演技をしながら続ける。


「…分かった。なら話そう。お前は、あいつがその持ち前の善意から色々な事を我慢しているのは知っているな?」

「はい」

「それに加えて、あいつは我慢強い。今まで辛いことがあっても我慢の許容範囲内で収まっていたからこそ悩みを私に悩みを持ってくることはなかった。それが最近になって、ついに我慢が限界に達してしまったらしい」

「話の流れ的にその原因って…」ゆっくりと自分を指差す。

「そう、お前だよ。長期間に渡るお前の補佐が原因で精神疲労がかなり溜まっていたらしい」

「そんなぁ… 言ってくれればよかったのに」

「そうだな。しかし、あいつがそれをお前に言えると思うか?」

「…俺に気を遣って言えないでしょうね」

「だろう?」

「なんて事だ…。俺のせいであいつは…!」

「だが、お前はお前で、やれる事を精一杯やっているじゃないか。だから、お前のせいではないよ」

「いや、俺のせいですよ! 俺がもっと頑張っていればあいつに負担がかかる事はなかったんだ…!」


 落ち込むレトーをなだめながら続ける。


「この事はあいつ自身が勝手に抱え込んだようなものだから、自分で解決策を見つけ出してほしいと思っている。だから、私はあえて何も助言せずに見守る事にした。その方が将来的には奴の為になるだろう。こんな話を急に切り出してすまなかったな」

「いえ…」


 一呼吸間をおいて。


「…そういえば、何の話をしていたんだっけか…?」

「コラルドの教育係の話です」

「…そうだった、そうだった。一応その話についてだが、“優秀な人物をつけてあの子を立派に育てたい”というお前の意見は確かにその通りだと思った。それはギルド長として、この町に優秀な人物を増やしていくという私の願望にも当てはまる。よって、お前の意見を通そうと思った」

「ということは…」

「ああ、コラルド君をジャックスにつけ――」

「それはダメです!」

「なぜだ?」

「それ、聞きます? 悪趣味ですよ? 分かっているくせに」

「ちっとも分からんな。…で、ダメだとしたら誰がジャックスの代わりに教育係をするんだ?」

「…れがします」ボソボソ

「ん? なんだって? 聞こえんなぁ」

「俺がします!」

「…本当にいいんだな? それで」

「ええ。っていうか、俺に拒否権はないでしょ?」

「そういえばそうだったな。弱者と強者の関係…久々過ぎて忘れていたぞ」

「大事な事なので忘れないでください。それを護って律義に職員を続けている自分がおそろしくマヌケに見えますから…」

「すまんすまん」


 ドーベンが豪快に笑ったところで、話は終了した。

 

 部屋を出てドアを閉めた所で、今まで重く険しい表情だったものが一変して、軽快な表情になる。


(ふぅ…やっと終わったよ。俺を何とかして教育係にしたいからって、今回のは強引すぎだろ。

 ってか、あいつが俺の補佐で精神疲労を抱えているって何? それが本当なら、なんで毎日ニコニコでついてくるんだよ。あれが嘘だとしたら狂人過ぎて怖いわ。まぁこちらとしては、その嘘が実は本当で精神疲労爆発させてくれた方が、あいつが俺に構うのを防げるから好都合なんですけどね。あいつは俺なんかに構っていないで、おやっさんを越える為に、もっと優秀な人と絡むべきだと思うし。

 それはそうとあいつこの前、おやっさんの愚痴を言ってたよ。『言いたい事があってもなかなか言い出しづらい』って。だから、精神疲労の話を聞いた時、思わず笑いそうになったからね。こちらをうまく誘導しようとしている人間が突然ブーメラン発言して自滅したようなものだから。とにかくあのタイミングでのブーメランは卑怯。

 でも丁度そのブーメラン発言の時に、教育係のうまい利用方法を思いついちゃったから感謝だな。この方法を使えば俺の未来は一気に明るくなる)


 どうやら彼はわざと教育係になった模様。

 そんな彼は、気持ち悪い笑みを浮かべながら仕事に戻った。

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