77話 未来に向けられた矛先
「オヌキスは、今どうしているのだろう?」
サミュレがそう心配してから1カ月が経過。
彼が長期間仕事であける事は過去に何度かあったので、最初の2週間はあまり気にしていなかった。が、彼には1カ月以上かかる場合は必ず連絡する様に伝えてある。それが無いという事は、何かトラブルに巻き込まれたという事。彼の安否確認の為、サミュレはオヌキス捜索依頼を出す目的で冒険者ギルドに来ていた。
受付に挨拶して軽く雑談していると、妙な噂を聞く。
「そういえば、この前クーア王国に行った奴が『ブダシヤカのギルド職員が魔人を1人倒した』という話を立ち聞きしたそうです。ここ数年は、同胞が倒されることはなかったですから珍しいですよね。また、ドーベンが動き出したという事でしょうか?」
「かもしれんな。…そのままずっと大人しくしていてくれればよかったのだが」
「全くですな」
ここで、ふと先程の噂とオヌキスの関連性を疑う。
(魔人といってもこの辺には、牛人の他に鶏人・豚人もいる。一概に牛人、ましてやオヌキスと断定できない。それにあいつは人間狩りに長けている。何か危険を察知すれば逃げる技術と判断は持ち合わせているからこそ、単独捕獲でも今まで生き残ってこれた。今回もおそらく…いや、絶対に大丈夫だろう。だからすぐに見つかる)
そう自分を納得させて、捜索依頼を提出した。
捜索はサミュレの予想通り2日という短期間で終了する。しかし、見つかったのはオヌキスの骨と装備していた防具だけであり、魂は依然として行方不明のままだった。
2度と帰ってこないであろう弟子の魂を悔やみつつ、墓をつくる。そして、つくりながらも人間…特にドーベンに対して激しく怒りを燃やした。
(この借りは必ず返す。だが、今怒りに身を任せて動くのは得策ではない。奴が1人の所を何人かで囲めば倒せはするだろうが、こちらの数名もやられてしまうからな。できればこちらに犠牲は出したくない。犠牲を出さずに奴を殺すにはどうしたらいいか…… そういえば、人間は老いによる身体の衰えも早いと聞く。ならば、敢えて何もせず奴の力が衰えるまで月日を重ねるか。それで奴の体に衰えが見られた時、一気に叩く。これでこちらの損出はなしだ)
考えがまとまったサミュレは、作り立てのオヌキスの墓に向かって勝利を約束するのであった。
◇◇◇
スライム騒動から半年経過。クーア王国は有力人材が抜けたこともあって、人材不足( 特に建築や鍛冶師などの技術者不足 )で復旧に時間がかかっており、ようやく騒動前の半分くらいの穴埋めができた。これからは、新しく登用した人材を育成していき、地盤を固めていく所だ。
ターロ自室。ターロは復旧の目処が立ち、1つ問題が去った事で、先送りにしていた問題を考え直していた。
(私はやられっぱなしが好きじゃない。この騒動の借りはきっちり返してやらないといけないよね。ブダシヤカの誰だかは特定できないけど、ブダシヤカにそいつが居るのは確か。なら、やるならやっぱりブダシヤカごとやっちゃうのが一番手っ取り早いかな。
今回の一件でそいつがブダシヤカの発展に力を入れている事が分かった。こちらに対する攻めは悪人のそれだったけど、自分の町に対しては善人なんだよね。つまり、そいつにとっては、ブダシヤカの町民は守るべき対象って事。そうやって、どうでもいい駒を大事にしていてくれるのなら、こちらはそこを遠慮なく攻めさせてもらおうかな。いやー急所が多いって攻めやすくて助かるよ。これだから善人はちょろい。特にその中でも悪人になり切れなかった中途半端な善人程ね)
微笑むターロにシャロが声をかける。
「どうやら良い見通しができたみたいですね」
「うん。だけど、一先ずは復旧が完了してからかな。それに、あいつの監視を掻い潜りながら行動しないといけないから、その辺が少し面倒かも」
「そうですね」ニコリ
その笑いに良からぬものを察したターロが冗談っぽく聞いてみた。
「最初から監視されていた事に気づいていたんではないだろうね?」
「はい、そうです」
「まさかとは思ったけどやっぱりかぁ。…ちっとばかり、ひどくないかな? 一応我々って仲間だしさ?」
「仲間だからこそです」
「おっとぉ、予想外の返答だ。 …どういう事かな?」引きつり笑顔
「人は困難に立ち向かう時にこそ成長する。人の成長する姿は美しい。その人が自分の思い人なら尚更。私はそれを間近で見届けたいのです」
「ふーん。でも、それって成長ってうまい言葉でくるんではるけど、要は私の苦しむ姿をみて楽しみたいって事だよね?」
「さすがターロ様。ご理解が早い」
「全然嬉しくないけど一応ありがとう。まぁだてに悪人やってないっていう話だよ」
「その言葉、年季が入った悪人が言うと説得力が違いますね。素晴らしいです」
「…シャロってさぁ、偶に私で遊ぶよね」
「偶にではありません。いつもです」
「あー分かった。今度からあいつだけでなく、シャロにも注意するよ――って、何で驚いた顔しているの?」
「てっきり、その方の特定を私に命令なさるのかと思いまして」
「そうすると困難にならないから、特定できてもどうせ教えてくれないでしょ?」
「よく分かっていらっしゃる…」
「その件は自分で何とかする。だから、妨害や奴に加担するとかはしないでほしいかな?」
「それはご心配なく。あくまで中立で見させていただきますので」
「頼むよ」(中立ねぇ。まぁ敵よりましかぁ)
最大の味方が中立だったのは衝撃事実だったが、ターロはあまり驚かない。それどころかすぐに受け入れてみせた。それは彼が長年悪人としてやってきていて、人の信用や立場がコロコロ移り変わることを知っているからだ。
自分の味方は自分のみ。これが悪人の彼が行き着いた真理である。




