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64話 虚言者は笑われる

 スライム騒動から一夜明けたブダシヤカ。朝日が差して視界が良好になり始めた頃から、仮眠を取っていた職員が起き上がって、町の外周捜索へ向かった。町内の方は昨日の夜から別のギルド職員数人が交代しながら巡回を続けている。結局昨夜はスライムと一度も遭遇しなかったので無傷であった。


 町民達は各々協力して炊き出しを行い、朝食を取った後、待機を続けた。


 スライム捜索を続けて半日が経過。どれだけ捜索しても気配すら感じられなかったので、町民に町内への外出は禁止とし、町内での自由行動は可能とする仮解放の様な指示を出した。一応この間も町内の巡回は続く。そして町民には、近くで変なものを発見した時はすぐにその巡回者に伝えて周りに避難を促す呼びかけをしてもらう様伝えた。


 外周捜索や巡回に加わらなかったギルド職員はギルド館で今回の騒動の考察を行っていた。内容はもちろん『誰かがスライムをけしかけたのではないか』という疑惑について。スライムの普段大人しい性質と生息地から考えればそう考えるのが妥当であった。


「という事は、最初スライムに追われていた男が怪しいですね」

「ああ。そう思って、朝食で町民全員が揃っている時に見張りをしていた人を連れてコッソリ見て回っていたんだけど、その男は見つからなかった」

「そりゃ逃げますよね。疑われる事も当然予想していた事でしょうし」

「…で、どこに逃げたかだが、今うちが戦争をしている相手国だと考えられる」

「戦争による恨み… そっか。それなら、この町を狙った理由も納得できますね」


 犯人が既に敵国周辺まで戻っているとするなら、捕まえるのは困難。よって、一先ず諦めるしかなかった。

 町の方は特に物品の破損被害は出ていないので大規模に復旧する必要はなかった。その為、ギルドの運営は明日にでも再開できそうだ。

 唯一の被害はスライムに操られた女性。今朝ドーベンが女性の遺族と一緒に墓をつくり、供養したところである。ドーベンは「私が不甲斐ないばかりに申し訳ありませんでした」と何度も遺族に謝っていたが、遺族は力のない笑顔で「あんたのせいじゃない事は分かっている。相手はスライム、仕方がない事さ。それよりも町を守ってくれてありがとう」と宥められるだけだった。


「そういえば、王国への応援要請はどうします?」

「これだけ捜してもいないんだ。もう断ろう」

「分かりました。では、誰か空いている人に伝令役をお願いしてきます」


 結局今日のギルド内での目立った仕事はこれくらいで、あっという間に夕方になった。

 職員達が明日に備えて掃除や整理をしていると、見覚えのある人物が20人くらいを引き連れてやって来た。そいつとドーベンの目が合う。


「随分と早い帰りだな」

「ええ。ちょっと向こうにもスライムが現れたので、こっちに帰って来ちゃいました」

「…それは大変だったな」

「ええ、そりゃもう。…ってそんな話をしにきたわけじゃないんですよ。王国から町に戻ろうか考えている時に丁度非難を考えている人達が居て、その人達を連れて来たんですけど、どこか仮移住できる場所ってありますか?」

「仮移住か、確か――」

「あっ、思い出した! 西地区で新築が建ったとかでそこへ移住して一気に空いた旧宿屋がありましたよね? そこを借りれないですかね? 20人くらいなら余裕で入れると思うんですけど」

「…分かった。この後、大家に許可をもらいに行こう」

「ありがとうございます。…後ですねぇ。彼等が暫くここに居ることを考えたら職も必要になると思うんです。なので、彼等にあった職をギルドで紹介するなんてことは可能でしょうか?」

「…ああ。最近は後継人不足・単純に人手不足の所が少しずつ増えてきているからこの人数であればすぐに手配できると思う」

「それはよかった。一応ここに居るホイロンさんは向こうでは有能なギルド職員だったので俺の倍以上良い仕事をしてくれると思います。俺の代わりにこの方を雇ってはいかがでしょうか?」「ちょっとレトー君。有能は言い過ぎ」「えっ? でも事実じゃ…」

「いいだろう。…但し、採用試験は一応受けてもらうが、よろしいかな?」

「もちろんです!」

「うむ。…ところでさっきの“俺の代わり”というのはどういう意味だ?」

「えっ? 分からないんですか? 俺はあの非常事態に早退とか抜かして勝手に非難した奴ですよ? そんな無責任な奴は、もうとっくにクビになっていて当然でしょうが!」

「…つまり、“代わり”はお前のクビで空いた枠という意味か?」

「そうですよ!」


 レトーの真剣な顔に反して笑いをヒクヒクしながら堪えるドーベン。見物していた職員達もつられる様に笑っていた。

 少し落ち着いてから返答する。

 

「いやーすまんすまん。最近痴呆がひどくてどうやら理解できていなかったらしい」

「嘘でしょ? “若いもんにはまだまだ負けん”ってめっちゃ言っていましたよね?」

「そうだっけか? それも忘れてしまっているな。いやー重症だぞ、これは。…そんなわけで、お前のクビの話はひとつも進んでいない。だから、これからも職員として働け」

「そんなぁ…」


 ヘナヘナと床に倒れるレトー。この間に職員達が避難者達と自己紹介を済ませていき、大家の許可が出るまで雑談をしていた。このさり気無い雑談で職適性を探っている様だ。

 無事許可が貰えたので、避難者達は職員数名に連れられ、宿屋へ向かった。

 

 レトーはまだ放心状態だった。そんな彼にジャックスが声をかける。


「お疲れ様。それにしても随分と手の込んだお土産を持って来たね」

「は? 何が? 手ぶらだけど」

「あっそ。なら、そういうことでいいよ」

「っていうか、何で誰も俺を非難しないんだよ! あれだけひどい事言ったんだぞ!? 普通迫害するか、最低でも出禁にするだろ?」

「そうだね。じゃあ、皆普通じゃないんだよ」


 レトーがしかめ面でジャックスを見た。


(彼はここがスライムに襲われている危険地帯だと知っていた。にも拘らず避難民をここへ連れてきた。そもそも非難はここが危険な状態のままでは成り立たない。ここが絶対に安全になっていると確信していたからこそ、非難希望者に非難を勧められたのだ。

 なぜそう確信したのか? 答えは簡単。誰かがここを安全にしたからだ。では、誰がここを安全にしたのか? その答えも簡単だ)


 ジャックスはその答えを見て笑った。

 そして、それを信じてよかったと心から思った。

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