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眠れる怪物

 スライムは大人しい。


 そう心の中で語るのは、例の不運な魔物使いの男。

 彼は8日間をフルに使ってようやくスライムを見つけ出す事に成功した。泉の近くで見つけたのは5匹。要求は3匹だったが、そこから器用に3匹だけ連れていくのは不可能だ。その理由は奴らを釣る方法にあった。


 スライムは雑食の上に小食。お腹がすけば、その辺のものを適当に捕食して飢えを凌ぐ毎日を送っている。その為、“大人しい魔物”とされている訳だが、それはあくまで仮の姿。好物を目の前にすれば、たちまち気が狂ったかのように興奮して一気に狂暴化する。こうなるとそれ欲しさに近づく生物は邪魔者と判断され手当たり次第に捕食。手に入れるまでどこまで追い続ける執着心と高い耐久力・殺傷能力を持つ事から“眠れる怪物”と呼ばれることもあった。

 そんなスライムの好物は高濃度の仁力。膨大な潜在仁力と高い仁力適性を持った人物が近くで一気にその力を解放すればたちまち興奮させる事が可能だ。が、そのような存在はこの世界に数人しか居ない。なので、一般人には縁のない話になる。

 しかし、これは特殊加工された魔石を使えば一般人でも可能になる。加工によって仁力を一定期間貯蔵できるので、一般的な仁力の者でも5日ほどあれば、高濃度の仁力が込められた魔石をつくる事ができる。

 このように魔石を持って近づく事で誘導する為、連れていく数の調整はできないというわけだ。

 

 夕方。魔物使いは安全地帯を見つけ、そこですぐに休息をとる。これから不眠不休でブダシヤカまで誘導しながら向かわなければならないからである。

 これまで相当疲労していたからか、男が起きたのは半日後だった。日が昇っていたのは都合がよく、そのままスライム達の居る洞窟までゆっくりと近づいていく。すると、地面にへばりついてフニャフニャしていた姿が一変し、きれいな丸い球体になる。そして、その姿で男の方へ転がり出した。もちろん5匹とも。


 スライムの転がる速さは人間の走る速さと同程度。こちらのスタミナが有限なのに対し、奴らのスタミナは無尽蔵なので、ここから丸一日かかるブダシヤカまで到達する前に追いつかれてしまう。が、それは何も障害物が無かったらの話。森の中を木々を避けながら進めば、木々にぶつかってはじけ飛んで元の球体に戻って転がるという時間ロスを引き起こしてくれる。さらに進路上に生物が居れば、それを体内に取り込んで養分を吸いながら移動するので、この時にも時間ロスが発生。これらをうまく活用すれば、実質つなぎを入れつつ走れるので、目的地までなんとか持たせる事が可能だ。

それでも走り続けるのは相当堪える。ましてや魔物に追われながらという緊張感の中でのそれは体力以上に精神力も酷使されるとなれば尚更。

「はぁはぁ…」と肩で息をしながら走る男の目はブダシヤカではなく別の方向を見ている様だった。この意志の固さであればおそらくは――



◇◇◇



ブダシヤカ・ギルド館にて、休憩時間に中堅職員の男女が雑談中。


「レトー君が休憩中に寝ているなんて珍しいね」

「昨日も寝ていたよ? それに昼休憩の時も食べ終わったらすぐに寝てたし」

「そうなの? 何か徹夜でやってたりしてるのかなぁ? これで仕事に差し支えがでるのならやめさせないと。ここは上司として俺が正しく・丁寧に・ミッチリと指導してやらないとな」

「ウザッ… 確かに休憩中はあの様子だけど、仕事中はきちっと切り替えてやっているから今の所全然仕事に差し支えないし。そんなに意気込んでウザ絡みしようとしなくても、多分その辺の事はちゃんとやるでしょ、彼」

「それは俺も分かっているよ。でもなぁ。これはチャンス…いや、仕方のない事なんだよ。上司として後輩を良い方向に導くのは当然の事だろ?」

「はいそこ、上司という立場を利用して自分を正当化しようとしない。そうやって小汚く近寄るよりか、ジャックス君みたく毎日地道に話しかける様にしたら? 結果、今は昼休憩中も一緒に居ること多いし」

「分かってるよ、俺だって… でもさぁ、断られるのって辛いじゃん…」

「あんたは子供か… そんなんだとジャックス君にどんどん先越されちゃうよ? それでもいいの?」

「よくない…でも、ジャックス君は別次元過ぎてしょうがない感じも。だって、彼って最初からずば抜けてたじゃん…」

「あー確かにね。皆“凄い新人が来た”みたいになってたもん。そーなると、確かにあんたじゃ無理かー」

「もう少し励ましてくれてもいいんじゃない?」

チラッ「…さっ、仕事戻ろー」

「ちょっとぉ?」


 2人が茶番を繰り広げる一方で、町をぐるっと1周囲った5m程ある石壁上の展望台に居た見張りが望遠鏡で奇妙なものを発見してしまう。彼は最初それが自分の錯覚だと思うが、2度見した時にそれが現実だと気づく。

 急いで別の見張りにこれを知らせる。


「男の人が複数のスライムに追われながらこちらに来ている。至急応援を呼びに行ってくれ!」

「スライムだって? それも複数って… 嘘だろ?」


 滅多に起こらない事象故に疑うも、伝えた彼の真剣な顔と、黙って力強く首を横に振る様子から察して急ぎ警備詰所とギルド館へ向かった。

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