6話 ギルド職員、無能でもできる簡単なお仕事です
私がCランクになってから1か月経過した。依頼達成の方は順調で現在20個目だ。ここまで順調にこなせたのは自分に実力があったからと言いたいところだが、依頼用紙の注意事項によるものが大きい。依頼に対して毎回適切な対策や穴場ポイントなどが記載されているので、こちら側はそれに沿って行動するだけで簡単に依頼達成できるからだ。
また、簡単に依頼達成できるおかげで、空き時間が増えた。それを戦闘技術修練の時間に回しているので、現状はかなり効率的な形で冒険者の実力を上げていっていると思う。本当に注意事項さまさまだ。
依頼物納品後、すぐに掲示板から依頼用紙を選んで受付に提出する。今日の受付は小僧が担当だ。さすがに何回もこれを続けていることもあって、最初は小僧をみるたびにイライラしていたが、今は何も感じなくなった。手続き待機中、何気なく小僧の右手を見ると、手の甲あたりに保護綿が貼ってある。裏切り事件の制裁ダメージが深かったからと解釈していたが、それより前から貼っていた気がする。
(まぁどうでもいいか)
手続きが終了したので、準備に向かった。
――さらに1か月後
依頼の掛け持ちが解禁されたことで、月収金貨20枚は達成できたので冒険者としての仕事は順調だ。が、戦闘技術の向上の方はダメ。現にこの前、中型魔物討伐士の試験で落ちた。『惜しかった』とか手の届くような感想がでればよかったのだが、でてきたのは『受かる気がしない』だったので絶賛落ち込み中。小型は簡単に受かったので尚更効いている。
中型試験では熊型魔物・ベアール ( こげ茶色で体長2.5m。毛の深さと皮下脂肪により、打撃がほとんどきかない。弱点であるむき出しの鼻や眼球が魔力によって変異して硬化。普通の銃弾が当たってもダメージなし。最高速度は普通の熊と変わりないが、ひっかきや顎の力が通常の2倍以上に上がっているので、仁力強化なしの防具で攻撃を受けたら致命傷 )の討伐を試験官2人が同行し、ココエト森で行う。道具は支給される特殊銃と弾2発のみで他の道具の持ち込みは禁止。仁力により、攻撃力をどれだけあげられるかが肝となる。
道具に仁力を込める時、自分の込めた仁力の100%が道具に伝わるわけではない。その伝わりやすさは人によって違い、一般的にこれが伝わりやすい人ほど仁力適性が高い人と言われる。この適性は修練でどうにかできるものではない。つまり、生まれ持っての才能だ。
仁力の最大量も生まれつき高低差はあるものの、修練で底上げ可能なので、私のように仁力適性が低い人にも希望がある。仁力の最大量を高適性者の倍以上持てれば同等になれるからだ。だが、この希望を叶えるのは絶望的に難しい。
仁力の最大量を上げる修練は、瞑想と苦行を交互に行う事。瞑想は道具にだけ意識を集中して仁力をできるだけ速く多く込めることで、苦行は仁力が減っていく疲労感を抑えながらも平常を保つことである。要は毎日ぶっ倒れるまで特殊銃を撃てという話だ。これを1か月続けているが、5発撃ったところで仁力が終わる。初期から1発増えた程度だ。しかも瞑想部分での込め方が不十分らしく、威力は未だに岩( ※硬度は蛍石くらいのものとする )を貫通させるので精一杯。この程度の威力ではベアールを貫けない。おそらく厚さ1mの鉄を貫くくらいじゃないと無理だろう。
今のまま続けても無理ではないだろうが、5年…下手すれば10年かかりそうだ。我慢する覚悟はあるにはあるが、何か効率的な方法が別にあるのならそれを試したい。そうやって打開策はないか考えている内にジャックスさんの事を思い出す。ギルド長を除き、彼は自分が今まで見てきた冒険者の中で間違いなくトップクラス。彼の師事があれば可能ではないかと思う。だが、ギルド職員の仕事は忙しいと聞く。仮に師事してくれる事が叶ったとして彼にその暇はあるだろうか。
(やっぱり無理かなぁ…)
力なく笑う。“これが現実だ“と、自分に言い聞かせるように元々あった険しい道の方のレールに戻ろうとした。そんな時、ある男の顔を急に思い出す。そして、急に何か思いついたかのように引き出しから用紙を一枚引っ張り出した。その用紙には”ギルド職員募集中!“と書かれてある。幸い必要資格は私の持っているものばかりだった。
(よし! これならいけるぞ)
今度はニヤリと笑う。師事してくれる望みが薄いならば、近くに行って直接学べばいい。
かくして私は職員を目指すことにした。
職員になるにあたっての不安や心配は1つもない。
なぜなら、ギルド職員は無能でもできる簡単なお仕事だから。
モース硬度一覧表におけるダイヤモンドのチートっぷりを確認し、思わず変な笑いが出ました。