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53話 戦争で稼ごう

オールトは城の自室で兵器の見積り書を眺めていた。


「良い数値だ。これで今月分のノーム様への支援金も十分な額を用意できる」


 通常見積もりには原価に利益を上乗せした額が記載されるのだが、自国を守る為の兵器となれば利益の追求はない。見積り書の最終確認は彼に一任されていたので、改ざんによる着服が容易だった。だが、あまりにも大きすぎる額を着服すると軍資金の消費量から勘づかれてしまうので、バレないであろうラインを見極めながら行った。

 また、より高性能な兵器を開発させる事により、材料の種類がさらに増して構造が複雑化するので専門的な知識を持つ者でないと必要費用の精算ができなくなる。これを利用し、彼はわざとその様な兵器を多めに開発させた。この多額な出費に対して国民には「戦争に我が国が勝つには必要な事」とそれっぽい事を言っておけば、何も反論できない。こうなってしまうのは、国民には兵器への専門的知識がなく、製造工程に直接携わっていない為、不明確部分が多くなってしまうのが原因だ。このように判断材料が減らされれば、疑うきっかけをなくして無関心になってしまう。こんな感じで国民の兵器に関わる税金使用状況への興味が薄くなれば、税金を無駄使いし易くなるので大変都合がいい。

 更に、こうしてできあがった兵器は他国へ売る事ができる。良い兵器が手元にあるほど安全が確保される為、人は安心する。だからついつい買ってしまう。なぜなら、安心に際限は無いから。

そして、それらの兵器は新たな戦争を生む。戦争が始まれば、当然良い兵器がほしくなる。そしてまた兵器を買う。基本この繰り返し。安全・安心を捨てない限り、兵器は永遠に売れ続けるという仕組みだ。


(まったく、笑いが止まらんよ。この素晴らしい仕組みの根源にあるのは偉大なるノーム様の思考。無能な王の無価値な思いやり思考と比べ、こちらの方は10倍効率的かつ美しい程合理的な思考だ)


 ここで他国に兵器を売れば自国が危険になるという疑問が発生するのだが、これに関しても抜かりはなかった。実は王には無断で敵国と裏停戦協定を結んでいたのだ。戦争が長引けば儲かるのは向こうも同じなので利害は一致しており、案外協定は簡単に結べた。なので、戦場の騎士達は兵器を持っているのに兵器の使用を禁じられ、にらみ合い(威嚇射撃のやり合い)をさせられている。兵器を使用しないのはもちろん早期決着を防ぐ為と消耗・損害費を出さない様にする為だ。よって、現在行われている長期戦争は全て茶番である。なお、この茶番内情を知っているのは一部の人間だけで、他は真面目に戦争をさせられている。


 オールトは全てが自分の掌の上で回っているという感覚になり、満足そうな笑みを浮かべる。


「随分と楽しそうですね」

「ん…? ああ、シャロか」

「すみません。何度もノックしたのですが、返事がなかったもので勝手に入らせていただきました」


 そう言って、持ってきたコーヒーをテーブルに置く。


「別に構わんよ。いつもすまんなぁ」

「いえ、仕事ですので」


 上機嫌でグイっと飲み込む。


「いつも通りのとろける甘さで結構。もっとも、ウチの無能王ほどの甘さではないがな!」

「……」


 王の専属メイドが目の前にいるにも関わらず、王への暴言を吐いて高らかに笑うオールト。こんなにも不用心な理由は、彼女もノーム信仰者であり、王を利用する立場である事を知っているからだ。

 いきなり、目が見開かれて人が変わったかのように声を張り上げる。


「悪こそ合理的! 悪こそ絶対! ああ…気分がいいぞ」


 その後も連呼を続けるオールト。相当興奮したから、顔から汗が噴き出ていた。息も粗くなり、興奮を散らす様に頭をかく。

 数分後、ようやく満足して椅子に座る。そして無表情で黙って立っていたシャロに気づく。


「急に取り乱してすまなかったな」

「いえ」そう答えたシャロをジロジロ見る。

「お前はいつ見ても美しい。あんな王には勿体ないくらいだ。裏ではノーム様が居るから諦めるとして、表(城)では私に仕える気はないか?」

「ターロ様は至高のお方。あの方以外に仕える気はありません」


 シャロが放つ気迫に圧され、たじろぐオールト。だが、すぐに冷静さを取り戻して切り返す。


「そうだな。確かにそう答えるのが正しい。変な事を聞いてすまなかったな。もう下がっていいぞ」

「はい、失礼します」

 

 一礼して無表情のまま去って行くシャロを見ながら思う。


(偽りとはいえ、どこまでも役に忠実な女よ。やはりあの無能には勿体ない。いつか私の下に本当に置きたいものだ)


「王が死んでくれたらなぁ」


 頭をカリカリかきながら、またしても不用心な言葉を口に出すオールトであった



◇◇◇



ブダシヤカ薬屋にて、レトーが紙の上に乗せた白い粉をジュリにみせていた。


「こんなの拾ったんですけど何か分かります?」

「…ただの砂糖じゃん。ん…?」


 よく見ると四角い結晶の中に棒状の結晶が少量混ざっていた。


「お前…これをどこで拾った?」

「配達依頼で寄った町です。そこで開かれていた祭で遊び疲れて横になっている人からくすねてきました」


(どう考えても嘘だな)


「…分かった。話したくないって事ね。それならそれでいい。とにかくこいつは危険なものだから2度と関わるなとだけ伝えておく」

「危険なもの? 結局何なんです?」

「禁止薬物だよ」

「禁止されているって事は……」

「そう。昔出回っていたって事。特にクーアの方でね。服用すると興奮作用があってそれにより、集中力を何倍にも高められるってことで当時は流行っていたんだ。反面、柔軟な思考が奪われて何度も同じことを考えてしまう傾向になる。この特性を利用され、洗脳剤として使われることがあったんだ。飲んだ本人は思考力が鈍っているから、自分が洗脳されている事に気づけない。うまい事考えられているだろ?

 あと、依存性が高いから日頃から使用量が多い人は、毎日服用しないと無気力になり、不安定な感情になるといった禁断症状が発生する。で、薬は高額だからほとんどの重服用者が購入し続けられなくなって苦しんだ。

 この深刻な状況を受けて今の王様が5年前に薬物を取り締まったんだ。その時に製造源も潰しまくったおかげで再発は防がれ、国民の健康状態が緩和されてめでたしめでたし、ってのが大まかな歴史ね」

「そんな事が…」

「うん。特に重度の服用者は同じ事を大声で何度も繰り返したり、頭を掻きむしったりして落ち着きがなくて鬱陶しかったよ」

「随分と詳しいですね」

「…昔、馬鹿な家族が居てね。幸せに暮らしていたんだけど、温厚で優しかった父親がある時突然攻撃的になったんだ。それ以来、母親と娘は暴力に怯える毎日を送る。禁断症状が強く出ているから、この時すでに父親は重度の服用者だった。でも当時はそんな事だとは気づけずに、2人共必死で耐えながら父親が元に戻ってくれるのを信じて待ち続けたんだ。その結果、どうなったと思う?」

「……」

「父親が首を吊ったんだよ。戻るどころか去っていくなんてウケるだろ? で、待ち続けた母も後を追う様に去った。畳みかけてきて超ウケるんだけど。…んで、残った娘は待つ事も去る事もできずに泣き続けたって話ね。マジ傑作だろ?」


 ケタケタ笑うジュリ。反対にレトーは重い表情。

 暫く沈黙した後、重くなった口を開いた。


「…その娘さんは今どうしているんですか?」

「何か第1の人生は終わって、第2の人生が始まったとかで楽しくやっているらしいよ。…そんなわけでこいつには人の人生をぶっ壊す力があるから関わらない様にするこった。もっとも、さっきの家族の様に笑い話のネタをつくりたいなら別だけどな」

「…分かりました」


 徐にジュリが薬を火であぶる。すると、青白い火花がパチパチと散り始めた


「青く燃える火花が宝石みたいに輝いて綺麗なことから、こいつは ”青い宝石” って呼ばれているんだ。汚い結果を生むのに呼び名が宝石だなんて皮肉効きすぎだっつーの。こうやって大人しく燃えているだけなら綺麗なのによ…」


 燃え尽きるのを見届けた後、ジュリは「何か気分悪いからその辺散歩してくるわ」と言って部屋を出て行く。レトーはそれを見届けながら「やはり噛み合わないな…」と小声で呟いた。

トマホーク1発を作るのにいくらかかるのでしょうか?

爆薬だけでなく、ジェットエンジンやらセンサーなどのオプションがとにかく多そうだから一般人が見積もるのってかなり難しくなっていますね。これでは高いか安いかも分からないっていう…

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