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49話 面倒な運命

「あのぉ…」

「何だ?」

「今後の俺の処遇ってどうなるんでしょうか? ギルドの規定では性格に難のある行動・発言をした者は罰則を受けるとあったので今回の件はそれに該当するかと思いまして…」

「ああ、確かに該当するね。これに関しては僕がドーベンさんに詳しく報告しておくから、君は黙っている事。いいね?」

「はい」(“詳しく”とか最高じゃん…! これでクビ確定だ、やったね!)


 レトーは職員になってからずっと気が重いままだった。それはドーベンの厄介になっているという自責の念があったから。有能な者が無能な者に手を貸すという構図は彼の中ではタブーに当たる。現状がまさにそれで、職員として働いている限りは常に罪を犯している感覚になっていた。これは有能な者が無能な者に構って貴重な時間を無駄にしてほしくないという想いからきており、それがこの独特な思考の縛りを生み出している。

 この地獄から逃れるには職員という職務を放棄する必要があった。だが、ドーベンとの約束“弱い者は強い者に従わなくてはならない”が発動しているので辞職を申し出る事はできずにいた。

 そこで彼が考えたのが、自分ではなく他の職員から自分の辞職を申し出てもらうという方法。他の職員の評価・発言は約束の対象にならないので、約束を守りつつ辞められると考えた。そして、他の職員にクビ宣告をしてもらうには自身の評価を地の底まで落とす必要がある。これに関しては彼が人と信頼関係を再び築くことへの恐怖から日々他の職員に対し、不愛想に接していた事が活きて順調に進む。が、ドーベンやジャックスの様なお人好しにはあまり効果が無く、停滞感を覚えていた。

 そんな時にやってきたのが今回の捜索依頼。彼はこの状況を上手く使えば、ジャックスのお人好しを一瞬で突き破るくらいの悪評を叩き込めると考えた。なので、今回の彼のクズ発言・行動は全て演技となる。唯一演技でなかったのは彼の汚いニヤつき顔だけ。そうなったのは、あまりにも自分の思い通りに事が進むので、我慢ができなくなったからだろう。



 彼はブダシヤカに戻ってからもニヤケが止まらなった。もうすぐ自分がクビになるという未来が待ち遠しかったからだ。

 ギルド館で遅れて帰って来た事情を伝えてから、ジャックスが詳しい説明をドーベンにするという事でレトーは先に退勤した。


(辞めた後はどうすっかな…? とりあえず薬屋で、住み込みで働けるか聞いてみるか)


 職がなくなるというのに彼には何の不安はなかった。それは彼が地位や名誉、お金に興味がなく、一日一日を自分の満足ができる様に過ごせればいいとだけ思っているからだ。彼の中では未来や過去の重要性は低く、現在が強調されている。未来に重点を置かないからこそ、何も保ち続けようとしないからこそ不安がないのだ。


『失敗や無理な事を想定して不安に駆られるのでは無くて、その時が来たら対処するようにしたらいい。未来という不確定要素についてあれこれ考えても時間の無駄だからな。そんな事よりも今できる事に目を向けるべきなのだ』


これは彼の父親がよく言っていた教訓だ。それを思い出した彼は、少し寂しい顔をしながら寮へ向かった。



次の日――


 朝、早速レトーがジャックスに質問する。


「昨日の件はどうなりましたか?」

「どうなったって? そんなのわざわざ言うまでもないよ」

「でっ、ですよねぇ…!」右拳をグッと握る。


(クビの宣告って、いつされるんだろう? 今日かな?)


 ウキウキ気分で待つも、この日は何も起こらなかった。

 それが次の日も、そのまた次の日も続いたので改めて確認しにいった。


「あの…いつになったら知らせは来るのでしょうか…?」

「知らせ…? ああ、昇進の事か。残念ながら君はまだ勤務一年未満だからそういう話は来ないよ。まぁ君の実力があればいずれ確実にできるだろうけどね」

(昇進…? 何の話だ?)「いや、そうじゃなくてクビ宣告の話は…?」

「クビ宣告…? どういう事?」

「それはこっちの話です。どうして俺にクビ宣告が来ないんですか?」


 時が止まったかのように沈黙する2人。その中でジャックスが何か思い出したかの様な顔になり、沈黙を破った。


「君にその宣告は来ないよ」

「何で…?」

「それは君自身が一番知っているはずだけど?」

「はい? 意味が分からないんですけど…」

「それはこっちの台詞だよ。君って本当に面倒な人だね」


 クスクス笑うジャックスを見ながら呆然とするレトー。内心『それこそこっちの台詞だよ』とつっこんでいたが、その台詞に聞き覚えがあった事でようやくどういう流れになっているかを理解し始める。

 彼に向かって“面倒”と言い放った人物は過去に一人だけ居た。その人物は自分が有能だと認めて尊敬し、唯一友人と呼べる存在だった。

 自分の目の前にいる人物が、歳や能力などの友人との共通要素に、自分の複雑な思考への理解力という点が加わった事で何か運命じみたものを感じた。それに気づけた彼の表情は自然と緩む。そして、その気分のままこう返した。


「昔、友人に同じ事をよく言われました」

「へぇ… 君にそれを言うなんて中々面白い人だね。いつか会わせてほしいものだ」

「ええ、いつか…必ず……」


 “いつか必ず会える”というのは本当の事だ。ただ、レトー的にはその運命を少しでも長く捻じ曲げておきたい。なぜなら、この時にジャックスは彼にとっての有能な人物……つまり、自分の命よりも優先される存在になったからだ。

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