46話 最楽への道
とある薬屋の作業部屋にて、長い黒髪の高身長の強そうな女性と弱そうな男性が調合中――
「ジュリさん、できたやつここに置いておきます」
「うぃ。じゃ、次これ頼むわ」 橙色の草が入った袋を渡す。
「はい」
この男はレトー、半年前からここで働き出した新人だ。外見は半袖・短パンで子供っぽいが、仕事はそれなりにこなすから最初は驚いた。聞けば年齢は私の3つ下という。しかも昔から薬の調合をしており、この手の作業は慣れているとの事。改めて人の見た目ってあてにならないと思う。
見た目のあての無さでいえば、私も同じ様なもの。女なのにガタイが良くて仁力適性が高かった事もあって、周りからよく「将来は絶対冒険者をやるべきだ」と言われたものだ。
私は他人の“〇〇だから○○すべき”って言い方が大嫌い。彼等は自分の理想を私に押し付けているだけで、当の本人の意思なんてみようともしていないから。言うだけ言って、人の将来保障もしてくれないくせに勝手な事を言うなっての。お前らは結局、正しい事・無難な事を言う自分に酔っているだけ。自分の精神安定剤代わりに私を利用するな。
現に私は、危険な事は怖いからしたくない。今の仕事の様に、誰にも気を遣わずに細かい作業を黙々としながら時間が流れるのを感じるのが好き。だから、今こうやってばぁちゃんの店で働けているだけでいい。だって、楽に毎日過ごせた方が絶対楽しいじゃん?
楽を追求した結果、私は他者との交流を極力避ける事にした。他者とのつながりが深まる程、そこに“他者からの期待に応えなくてはいけない”という強迫観念が勝手に芽生えて面倒になるから。更に、これは“恥”という概念を生むから厄介だ。他者と関わる程、他者に良く思われたい欲求が発生してより良く振る舞わなければいけなくなる。この欲求は際限がないから、囚われてしまったら最期だと思っていい。一生恥を気にして息苦しく生きる他なくなるから。
そんな生き地獄にわざわざ飛び込む必要はない。だから、私は他者と関わらない事を選んでいる。当然店の接客も任せっきり。おかげで、何のストレスも発生せずに毎日を送れている。賢いぞ、私。
接客に関しては人を雇えば済む事だからあまり気にしていない。現に年に何回かは人を雇っている。が、どいつもこいつもすぐに辞めていく。辞める理由は「職場の雰囲気が悪いから」だって。根性ないよね。ってか、職場に雰囲気とか求めるなっての。ここはお前らの遊び場じゃねーんだぞ。まぁ私にとっては遊び場だけど。
そんなわけで、接客はほぼばぁちゃんがやっていたのだが、半年前にようやくマシな人間が入ってきたのでばぁちゃんの負担は軽減された。軽減されたといっても、あいつは3,4日に一回しか来れないみたいでちょっとだけど。聞けば、ギルド職員をやっていてその休日に来ているのだとか。「職員は辞めないの?」と『とっとと辞めて私とばぁちゃんを楽させに来い』と言いたいのを我慢して命一杯気を遣って尋ねたら「続けなくてはいけない理由があるから無理です」だって。男は無駄に恰好つけるのが好きだね。まぁ最近になってコラルドっていう新たな奴隷――従業員を連れてきたからそれで許してやろう。
このガキはレトーと違って要領が良くて仕事を覚えるのが早い。私には劣るけど賢いと思う。良い人材だ。ただ、変に愛想笑いや気配りが上手かったり、気さくに話しかけたりするせいで世渡り上手感が出ていてはっきり言ってウザい。でも、ばぁちゃんはあいつの事、気に入っているんだよなぁ。あいつと話す時、やたら笑顔だし。もしかしてあんな孫が欲しかったとか? 期待に添えない孫でごめんなさいね。あーやっぱあいつうぜぇわ。
それと比べるとレトーの方は、会話は基本最小限で話しかけて来る事は滅多にないし、どちらかと言えば不愛想。人間としての良さを感じさせないのは私以下かも知れない。そうやって自分より下に思えるからか、一緒に作業していてもあまり負荷を感じない。気を遣う必要がないって思えるから。その点でいうと、コラルドより大分マシだ。
そういえば「給料はいらないから新薬を開発する為の材料と作業場を提供してほしい」って言っていたっけ。変わっている人は考え方も変わっているものだ。まぁちゃんと働くなら動機なんてものはどうでもいい。って事で、これには私もばぁちゃんも二つ返事で許可を出した。
暇になった時、あいつの作っている薬をみてやる事もある。作っているのは触れれば溶けたり、火傷するといった物騒なもの。何でも対魔物用らしい。ギルド職員故に、冒険者代行の時にでも使うのだろう。面倒そうな肉体労働、わざわざご苦労様って感じ。私が子供の頃から遊んでき――培ってきた試行錯誤から得た努力の結晶(知識・経験)を使えば改良何て容易いもの。適切な配合をする事でその殺傷力を数倍程度に高める事ができた。これによって町の平和が維持される事で、更なる安心・安定・安全が生まれる。それは私の夢である“最楽”へとつながる事。
やっぱり私って賢い。




