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43話 歪んだ決意

 町に向かう途中――


「職員になるにあたって、君には採用試験を受けてもらうことになる」

「試験って、適性とかをみるやつですよね?」

「そうだが…?」

「じゃあ、無理っす。俺、ドーベンさんみたいに強くないので」

「別に私並の強さはいらないさ。最低限の強さと知識があれば誰でも受かる」


(あとは良い人間性も必要だが、これも大丈夫だろう)


 ドーベンが優しい顔をして男の方を見ると、何やら慌てていた。


「ドーベンさんの最低限って、全然最低限の基準じゃないからなぁ… あのぉ、やっぱり無理っす。一応約束だから試験は全力でやりますけど、受からなくても怒らないでくださいね」

「いや、怒る。受からないって事は君が全力でやっていないという事だからな」

「って事は、もし落ちた場合は…」

「ん? 受かるまで一生受けさせるつもりだが…?」

「ひぇ…」


 大型魔物よりも厄介な魔物にでも遭遇した様子。そんな重い気持ちのままブダシヤカに到着した。


 初めての町だったが、驚きに浸る間もなくすぐにギルド館へ。

試験の手続きがトントン拍子に終了。通常なら飛び入り禁止の所を押し通したのは、ギルド内でのドーベンの権力・信頼の高さの裏付けだろう。


筆記試験は村での生活がいきて薬草・魔物関連で高得点を出して合格。

続いて実技試験。広い円状の闘技場に移動させられ、試験官から説明が入る。なお、ドーベンが試験官を務める事もできたが、贔屓する事が考えられたので、助言禁止の同行のみとなっている。


「今からヴェンダちゃんを3匹倒してもらいます。道具は何を使っても構いません。何か質問はありますか?」

「“さん”じゃなくて“ちゃん”でよかったですよね?」

「はい、そうですが――」

「よかったぁ、それなら何とかなりそうだ。すみません、道具って今から調達してきても構いませんか?」

「急に彼を試験に誘ったもので、道具を準備していないのですよ。私からもよろしくお願いします」

「…許可しましょう」

「ありがとうございます!」


 男はそのままどこかへ走っていった。


「あなたの話では、彼には仁力がないという事でしたよね?」

「ええ」

「でしたら、妙だ。特殊武器でないと魔物にはダメージを与えられないというのに一体どうするつもりでしょうか。それに一番妙だったのが、彼がヴェンダさんと口にした事。小型魔物ですら手に負えるか怪しいのに大型魔物を想定していたかのような口ぶりだった。彼は一体何者なのですか?」

「ただの無能ですよ」


 にっこりするドーベンに唖然とする試験官。

待つ事30分後、息を切らせた男が「近くにいっぱい居て助かったぁ」とぼやきながら戻ってきた。


「お待たせしました」

「…もう準備は終わったという事ですね?」

「はい」

「でしたら、試験を始めましょうか」


 ドーベンが檻に入れてあったヴェンダちゃん3匹を開放。そのままドーベンと試験官は上段の観客席の方に移動した。

 

試験官が補足する。


「危険を感じた場合は言ってください。助けに入りますので」

「分かりました。あっ、一応そちらも危ないかもしれないのでよける準備だけはお願いします。何分まだコントロールが難しくてたまに変な所に飛んでいくことがあるので…」


 試験官は男が何を言っているかよく分からなったが、言葉通り一応注意しておく事にした。


 早速ヴェンダちゃんが目の前の男を敵と認識したらしく、耳をそれに向かって飛ばす。男は慣れた様子でそれをかわしていった。


(無駄のない避け方、かなりの練習量が窺える)


 試験官が感心していると、男が避けながらヴェンダちゃんに接近していき何かの玉を当てた。玉から何か粘っこい液体が飛び出て付着したが、それによる状態変化はなく3匹とも元気なままだ。

 

男が小さな箱を取り出して中から昆虫を取り出した。


(あれはカブリトン…? まさか…!)


 試験官の予想通り、それをヴェンダちゃんに向かって投げた。そのまま腹部にまっすぐ飛んでいき貫いた。それだけでは仕留めるには至らず、まだもがいている。そこへすかさず、もう一匹投げ込んで止めを刺した。


(彼が最初に投げた玉にはカブリトンの好む蜜が入っていたのだろう。それにしても、カブリトンを攻撃に使うなんて聞いた事が無いし、見た事も無かった。ただの危ない魔物だと思っていたからなぁ。おそらく無能の彼だからこそその利用方法を思いつけたのだろう。ドーベンさんめ、全然ただの無能じゃないじゃないか)


ドーベンのようににっこりしながら、投げた時の隙を膨張石でカバーして耳を防弾する男を見た。そのまま2匹目、3匹目も危なげなく仕留めて試験は合格。この後のギルド長による面接も突破し、はれて職員に。職員採用された事で寮生活が可能になり、住む場所と食事場所が確保された。

その日はドーベンから職員の業務説明を受けて終了。


食事を済ませ、大浴場で体を洗った後、寮のベッドで横になりながら考える。


(職員でも冒険者の依頼をこなすって話だから、魔物を倒せないといけないのは納得だなぁ。何年か前の俺だったら受かってなかったかも)


 昔を思い出した事で、それと付随する様になくなったものも思い出してしまい、悲しい気持ちになってしまう。


(魔物討伐がある以上、弱いやつから死んでいくのなら俺はいつ死んでもおかしくない。こんな思い、2度としたくないし他の人にもしてほしくないなぁ…。 …なら、一層の事嫌われる様に努めるか… 方法はウザ絡みするとか、仕事でわざと足引っ張るとか…? いや、それだと推薦してくれたドーベンさんにもとばっちりが来る可能性がある。自然な感じで嫌われるには…そうだ! 不愛想な感じで接すればいいんだ!)


 決意を固める男。もちろん不愛想にするのは職員(仲間)に対してだけで、依頼主や客に対してはギルドの信用問題が関わってくるのでしないらしい。

「やったるぞー」という明日への興奮を抑えつつ男は眠りについた。


 

次の日は初出勤日。朝から職員が集められギルド長のあいさつの後、男が職員の前へ立たされ自己紹介する。


「今日からここで働かせて頂くことになったレトーです。よろしくお願いします」

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