41話 分かっているな
目を開ける。
薄暗く、共鳴石の灯りが辺りを照らす。それを元に周囲を確認。
それでここが地下の抜け道だとすぐに分かった。
最後の記憶は姉さんの腹パンだったので、何かの反省の為にここへ放り込まれたのだろう。
出入り口である真上の蓋は人が届かない高さにあり、いつも縄梯子を使っている。出るには梯子を降ろしてもらう必要があるのだが、蓋が今も閉じられているのはまだ反省が足りないという事。呼びかけても梯子を降ろしてくれる確率はかなり低そうだ。
魔人に包囲されているこんな非常時によくやるよ……そうだ! 魔人だ! こんなところに居る場合じゃない。早く戻らねば!
どれくらい気絶していたかは分からないが、村が危機的状況なのは変わらない。もしかしたら、もうすでに……いや、それはない。ダインさんを含め、狩人の人達は俺より遥かに有能だし、ラルスだっている。それに負傷しているとはいえ、姉さんもいる。あの人の負ける姿は想像できないから、きっと…きっと大丈夫だ。まだ、奮戦しているに決まっている。
自分に言い聞かせるように『きっと大丈夫』を心の中で唱え続ける。そうしていないと何か心の外から来る気持ち悪いものに押しつぶされそうだったから。
共鳴石を持って抜け道を早歩きで進んでいくと徐々に薄暗さがはれていき、外の光が差し込む場所に出た。そのまま外へ出ようとしたところで思い止まる。
森でまだ包囲要因として残っている魔人が居たら速攻でやられるな。…って、ラルスの話では、魔人に仁力探知能力があるんだったな。じゃあ、もうバレてるじゃん。
でも、俺には仁力がない。って、事は……
俺は無敵だ―!
少し高揚しつつ、辺りを警戒しながら外に出た。無敵とはいっても見られたら即死するちょろい無敵だから。しかも手持ちの道具は無し。故に即死なのだ。
辺りの物音や枝の揺れに細心の注意を払いつつ進む。途中ソックリ草を拾ってその場で雑に加工して気休め程度の麻痺玉をつくりながら。
俺にはまだ有能な人達の捨て駒になるっていう立派な役目がある。これを果たすまでは死ねない。
やられる気力の方は十分。その気力を進む力に変え、とうとう村外壁前に着いた。奮戦中というのに外壁内からは音が1つも聞こえないのが不自然だ。
ひょっとしてまだ包囲中の段階だったとか? だとしたら俺の運、今日使い果たしたわ。
魔人に1回も出会っていないとなれば、そういう事。
少し安心して歩みを進めた所で不安が再発する。
門が破壊されていたからだ。
俺の体は一気に警戒態勢を強める。音をたてない様に門だった場所を通過した。
中は廃墟と化しており、まともに建っている建物が1つもなかった。未だに静かなせいで余計に不安が加速する。それを確認する為、見たくないものを探す。できれば見たくないものが見つからず、見たいものが見つかるというように自分の予想が外れてくれる事を祈った。
だが、現実はこういう時に限って正確だった。
村中央の燃えた廃材が散らばる中で、カラスの群れを発見する。急いでそれらを追っ払うと“見たくないもの”がたくさん現れた。それは頭が無く、上半身下半身の皮膚がズタズタに引き裂かれている。カラスのついばみ程度でそうなると思えない。魔物にでも食い荒らされたのかと思う程の有様だった。無くなった頭はその辺に転がり、目玉や舌が飛び出している。顔をズタズタにされているせいで誰の頭か分からない状態だ。
魔物じゃない。絶対奴らのせいだ! きっと、魔物がやったと見せかけるためにわざとこうしたんだ。強者が弱者をどうしようが勝手だけど、いくら何でもこれはやり過ぎだろ…強者なら何でも許されるっていうのか…!? そんなの間違っている!
父さんの説法で何度も学んだ事だから、こういう日がいつか来るとは思っていたし、覚悟もしていたつもりだ。だけど、実際に見てみると、その理不尽さは俺の想像の数段階上をいっていた。想像を上回った事で、眠っていた憎しみが目を覚ます。
全員ぶっ殺す! もちろん死体はお前らがやったようにしてやるよ。
無意識に辺りを走っていた。まともな道具がないから負けるとか、そういうのは今はどうでもいい。とにかく奴らが憎い、見つけたらぶん殴る。そうした怒りだけで動いていた。
走り回っていると、何かを勢いよく蹴飛ばす。それに目をやると見覚えのあるものだったので驚く。
このペンダントって……
慌てて周りを見渡すと、人間だったものが地面に転がっていた。頭や右手がなく、相変わらず悲惨で識別が難しい状態だったが、俺には識別できた。
多分、お前なんだろう…? ラルス……
自分が姉の次に有能だと認めた友人。そんな奴が無能な俺より先に死ぬわけがない。
死ぬ順番が違う。先に死ぬのは俺でないといけない。何でだ?
怒り、悲しみを通り越して疑問が強く出た。しかし、その疑問の答えは出ない。
そうやって数分苦しんだことで、気持ち的に疲れてきて急に思考が落ち着く。
すると、今まで夢中で気づかなかった感覚――痛覚が戻って来た。
魔人を足止めした時に負った傷の痛み、そしてなぜか右の手の甲あたりの痛み。
覚えのない痛みだったのですぐにその原因を確認する。
見ると、自分の皮膚がナイフで傷つけられていた。その傷はよく見ると文字の様になっている。どうやら文のようで、こう書かれていた。
” 分かっているな ”
こんな事をわざわざ書く人は1人しかいない。誰が書いたかは特定できた。そして、その意味も理解する。
はいはい。分かっているよ。強者に奪われるのは自然の摂理だから仕方がないって話でしょ? 分かるよ、分かっているよ! けどさぁ、こんなにも理不尽だなんて聞いていないよ…
急に力が抜けて気づいたら泣き崩れていた。
俺はこの理不尽さによって新たな真理を学んだ。
「弱いは悪い」
自分に言い聞かせるように何度も繰り返し呟いた。
亡き友のペンダントを握りながら、彼にも伝わる様に。




