39話 まずは一匹
村長の指示で建物を次々と燃やしていく村人達。これは隠し抜け道の出入口の蓋を廃材に紛れ込ませて見つけにくくする為だ。幸い魔人側は、包囲された事でこちらの気が動転したと思ってくれるので、この行動の不自然さを隠す事ができる。
粗方燃やし終わった後、村人達は火の拡がりの無い広場へ向かう。広場では膨張石と鉄板を組み合わせた四方を囲む簡易的な防壁ができており、そこへ避難する形に。なお、膨張石が触れ合うと萎んでしまうので、距離間隔はシビアに行われた。
防壁の上には見張り役としてダインが立たされていた。
「ヴィエネさん、本当に奴らは私を狙ってくるでしょうか?」
「ええ、かなりの確率でね」
ヴィエネは、こちらが魔人の仁力感知能力を知っていて、それに魔人達がまだ気づいていないという今の状況を何とか活かせないか考えていた。
感知能力がある以上、どこに隠れてもばれてしまう。それなら一層の事、隠れなければいい。そうした逆転の発想から、誰かをわざと第一標的となりやすい位置に置いて囮にする事で相手の位置情報を特定し、狙撃する方法を思いついた。囮役は危険ではあるが、最初に狙われる可能性が高いという事で、遠距離攻撃に対して十分警戒する事ができる。一応ダインの下には2人控えており、彼等は覗き穴から遠距離攻撃がみえ次第、ダインを防壁内に下がらせるか、飛んできた武器そのものを狙撃で撃ち落とす役割を持つ。
村人全員が防壁内に揃った所でヴィエネが役割分担を開始。お年寄りと子供には銃の予備と銃弾を渡し、弾がなくなったらすぐに渡してもらって使い終わった銃にすぐ弾を補充する様に指示。空いた人には膨張石が時間経過で萎んだ時に再度設置する事をお願いし、膨張石とお湯を持たせている。
他は狩人でなくても一応銃は扱えるという事で隙間から狙撃もしくは威嚇射撃をしてもらう。
分担が終わりかけた頃、遠くで何かの破裂音が聞こえた後、崩れる音が聞こえた。
「ヴィエネさん、これって…」
「ええ、あいつらが外壁を壊した音で間違いないと思うわ。火事を起こすくらい動転している今が好機だと思って、早急に潰しに来たのでしょう。予定通りじゃない。返り討ちにしてやるわ」
敵に攻め込まれようとしている非常時というのに、慌てふためく者は1人もいなかった。各自が役割分担された役をやりきろうと集中している。これは彼等が“川に水が流れる様に物事はなる様にしかならない”と現実を受け入れているからだ。過去や未来に捕らわれず、今だけを見る。彼等の集中力が途切れないのはその為である。村長はそんな彼等の様子を見て満足そうに微笑んだ後、自身も銃を構え集中状態に入った。
その数秒後、ダイン補助係の1人が何かに気づく。
「2時の方向、来ます!」
「分かった、任せろ!」
ダインめがけて飛んできた矢をもう1人の補助係が撃ち落とす。途端に爆発が起きる。どうやら矢に衝撃で誘発する爆弾を取り付けていたらしい。ある程度距離の空いたところで落とせたので少量の爆風と小石を浴びるだけで済んだ。
「助かった、ありがとう!」
「いちいち礼はいらないぞ? これから浴びるほど来るからな」
「そうだった… そういえば、ヴィエネさんは――」
「ダイン、よくやったわ。今、初弾の上にグニ弾を重ね当てしたから一体の動きは暫く防げると思うわ」
「さすがヴィエネさん! さっきの爆風に紛れて撃っていたのですね?」
「ええ…っていうか、全然さすがじゃないわよ。どうせ再生で負傷をなかった事にされるんだから。やっぱり、急所を狙い撃って確実に仕留めないと埒が明かないわ」
魔人の急所は人間と同じく脳と心臓。どちらかを破壊する事ができれば再生能力も使えなくなる。しかし、当然ながら魔人側もそれは知っている為、その周辺防御は堅く、防護板を入れたり、兜をつけている事がほとんどだ。
「脳…心臓…」
ダインがブツブツやり始めると後ろ側から爆発音が。どうやら、ダインの見張りのない反対側の防壁が攻撃されたらしい。攻撃はその方角を監視していた者が爆発物を撃ち落としたのだろう。
「どうやら敵さんは、包囲みたく四方から攻撃する方針に切り替えたみたいね」
「って事は連中、この囮の意図にもう気づいたって事ですか?」
「それは考えにくいわ。多分急いで攻め立てようとしているだけよ」
「だとしたら分が悪いですね。もう少し、狙撃を続けて牽制状況を作り出したかったのに…」
魔人との戦力差的に速攻された場合は勝機がない。勝機をつくるには、できるだけ負傷・疲弊させる事。つまり、持久戦に持っていくしか村側には勝機がない。
防壁内がやや重たい空気に包まれた時、ダインが急にブツブツをやめてヴィエネに聞く。
「急所を狙える様にすればいいのですね?」
「…ええ、できたらね」(急に何なの?)
「分かりました。この私にお任せください!」
「えっ…? ちょ――」
ダインが防壁地帯を飛び出し、先程発砲があった所へ向かって駆け出す。「申し訳ありませんが、援護を頼みます!」と笑顔で言いながら。
突然のダインの特攻。補助係の制止は当然間に合わなかった。今から連れ戻そうとしたところで、余計な被害を出すだけだと判断し、その場に留まった。代わりに、今自分のすべき事“ダインの援護”に全神経を集中させる。
(絶対護り切る)
その強い想いをのせた銃弾は彼に対する魔人の攻撃を次々と撃ち落としていく。
援護を続けていく中で、その様子を見ていた全員がダインの行動の意図を理解し、心の中で『馬鹿野郎が』と彼を称えた。
防壁からの距離がある程度開くと、ダインへの援護射撃が急に止んだ。
(さすがだ、皆。心遣い感謝する)
ダインが微笑みながら魔人の攻撃(矢や爆弾)をかわしていく。今まで援護によって撃ち落とされていた攻撃を全て自己処理しなければならなくなり、運動量が遥かに増した。それでも前へ移動していく。そうやってしばらく耐えていると物陰から1人の魔人が痺れを切らしたように飛び出した。飛び出すのにやや時間をあけたのはここなら援護射撃が届かないと踏んでだろう。
「1人でご苦労さん。手間が省けて助かるよ、死ね」
出会って即、ダインの心臓めがけて槍を突き出す。
ダインが気づいた時には既にその先端が心臓を通過した後だった。
時間差で流血が始まり、ダインの顔色がみるみる悪くなっていく。その様子を見て、「まずは一匹」という具合で満足げに槍を引き抜こうとした――
が、簡単に抜けない。
何かにひっかかっている様だった。
舌打ちしながらひっかかりを取る為、前後に振っていると先端に刺していた物体がこちらへスルスルと近づいてきた。それが握っている手元まで来たところでそれの顔を確認すると不気味な笑みを浮かべている。
「まさか…?」と思った時にはもう遅い。魔人が気づいた時には兜が外され遠くに投げられた後だった。
「手間が省けた…のは…… こちらの方…だ」
ダインの言葉と共に魔人の頭部に向かって無数の銃弾が浴びせられる。瞬く間に頭部の原型が無くなり、それを失った体が血を放出しながら倒れた。
「まずは…いっぴ――」
言いかけた所で今度はダインの頭部に矢が刺さる。そして爆発。
頭部は骨片や皮膚片、血をまき散らしながらばらけた。
「ちっ、油断するからだ」
物陰に潜んだままだった傭兵仲間が、倒れた体を見ながら呟いた。
魔人は残り9人。
村人は当初50人だったが、周辺偵察でかなりの数が殺されて現在30人。数的には有利だが、唯一魔人に対抗できる力があると思われるヴィエネは負傷を引きづっており、銃は撃てるが、まともに移動できない状態。戦闘可能な狩人と戦闘不能な者は丁度半分。
以上の事から、状況的にどちらが有利かは言うまでもない。




