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37話 狂人の道具

(奴め…カブリトンにも毒を塗っていたな?)


 麻痺成分により、細胞活性も鈍化する。再生がいつもより遅かったので毒に気づく事ができた。すぐに気づけなったのは痛みにより、感覚が麻痺したと勘違いしていたから。また、突然高威力の新しい道具を使われ、混乱していた事も気づくのが遅れた要因となっていた。

再生は思ったより時間がかかりそうだったので、完治は諦めて止血程度に。

「ふんっ!」と体に一瞬だけ力を入れて筋肉を瞬間的に膨張させて体へ刺さっていた針を皮膚から押し出す。そして、近くに生えていた匂いのキツイ花をむしり取って握りつぶし、それを体中に塗りたくった。


(簡単だがこれでカブリトン対策は十分だろう。では、さっさと終わらせるか)


 簡単な対策で十分だと思ったのは、男があれ以来カブリトンを使ってこないから。木を貫通する威力なので、木越しに攻撃する事はいくらでもできたはずだ。それをしないのは、それができないからに他ならず、制御の難しさを公言している様なものだ。そして、こちらが隙を見せた時に初めて使ったという事となれば、それが気づかれた状態であれば容易に回避が可能だと言っているもの。


(無論、一匹だけしか持っていなかったという事も考えられるが、こいつはそこまで甘くはないだろう)



 サミュレが物陰から突然姿を現し、向かってきた事で驚く男。が、驚きながらも相変わらずカウントだけは続けている。


「同じ手はくわん」


 男が左手をポケットに手を入れた瞬間、それに投げナイフを命中させて防いだ。さらに数本追加した事で完全に左腕を使えないくらい状態にする。

 カウントが終わる前にサミュレは一旦距離を取った。その直後、爆弾が爆発して針が飛散する。サミュレは木に隠れてやり過ごしたが、負傷させられ回避が遅れた男は針を浴びる事になった。浴びた後、すぐに動き出したのを見るに麻弾ではなく蜜弾だった模様。


(これで奴の攻撃は完全に封じた)


 蜜のマーキングが自身にされた状態ではカブリトンの攻撃対象は全て自身に向かう。サミュレは相手を確実に仕留める為、突発的に攻撃してきたと見せかけ、相手の切り札を潰す作戦を成功させたのだ。

 ほくそ笑むサミュレの耳に男の声が入ってくる。


「いやーお見事! これでこちらはもうカブリトンを投げられませんよ。さすが魔人ですねぇ、恐れ入りました」


(白々しい。この期に及んで何が狙いだ)


 切り札が使えない今、男に新たな逆転の手が残されていないのは明白。カブリトン以上の威力の道具を隠していたとすれば、先程隙を見せた時に使ってこちらに重傷を負わせておくべきだったからだ。

 本当に万策尽きて、精神疲弊させるだけの挑発かもしれない。とにかく、こちらに不利に働く手段が相手に無いのであれば攻撃あるのみ。こうしている間にも逃げている2人との距離は開いていくのだから。


 サミュレは接近戦を仕掛ける。遠距離攻撃の場合、膨張石やグニ膜で防がれて時間がかかる事を踏んで最短を選んだ。

 近づくサミュレに対し男は「うわぁ、来るなぁ」と情けない様子で逃げる仕草をする。そして派手にズッコケた。


「助けてくれぇ」


 そのまま尻餅をついた様な格好でこちらを向いて後ずさりしていく。

 追い詰める様に男の正面まで来ると、急に立ち上がって体に抱きついてきた。丁度その後ろには男がさっきズッコケた際に落とした爆弾が転がっている。


(自爆で相打ちにでもするつもりか。芸がないな…)


 哀れな目で男を見るサミュレ。必死にしがみつく姿は本当にこれしか手が残されていなかったのだと思わせる。例え別の爆弾の誘爆を狙っていようが爆弾程度の威力では魔人に重傷を負わせることはできない。その事実を知っているのにこの有り様なのは相当追い込まれているのだろう。男の心理状態を分析し終わった所でサミュレは勝ちを確信する。そして、再び男の顔を見ると、あの憎たらしい顔をしていた。その顔に若干の不安を感じた瞬間、カウントが終わって爆発が起きる。皮肉な事に爆風や破片は男が全て盾となる形で受け止めてくれたので、サミュレに傷はなかった。代わりに男の背中は皮膚が爛れるほどの傷を受けており、息も上がっている。


「どれ、すぐに楽にしてやろう」手刀の為、右腕を引く。

「お前…もな…」

「!?」


 途端に無数の痛みが腹部辺りに広がる。前は男で隠れて見えなかったので背中の方を見ると、貫通穴が3か所開いており、そこから流血していた。痛みには覚えがあったのですぐに攻撃手段が分かったが、それをどうやって作動させたのかが分からない。男の両手はずっと塞がっていたから。その間、唯一起きたのは爆弾の爆発だけ。

 

「まさか、爆風で…!?」


 サミュレの推測通り、爆発の風圧によって近くに隠されていたカブリトンの密閉ケースの蓋が開く事で蜜の匂いが届き、それの突進に繋がったのだ。この時サミュレはケースの存在を知らなったが、爆風が突進に繋がったと察する事はできた。


(何て奴だ… 自身を的に私を狙ってくるなんて。それにしても、驚くべきは切り替えの早さ。蜜によるマーキングがバレたと知るや否や私に蜜を塗るのは不可能と考え、自身を囮にする方法を思いついた。そして、それを悟られぬ様、敢えて情けない姿を演じて何かを匂わせ、逸らす事に努めたのだ)


驚く中で、聞き慣れたものが再開。


「3……2……」

「いつの間に! ええぃ、離れろ!!」


 男の体は接着剤の様なもので密着状態になっており、剥がれにくい状態に。

 もがいている間にカウントが終わり、爆発音が。今度は近くからではなく、少し離れた所からだった。

 音の数秒後、再びサミュレの体に痛覚が。今度は右太ももを貫かれ、立っている事がままならなくなる。

 ここで、男の服ごと破り、ようやく密着から解放される。

 が、またしても不気味な声を耳にする。


「5……4……」


(こいつ、一体どこまでやる気だ…)


 大量出血で止血すらままならない虫の息で尚も攻撃態勢を続ける男にゾッとする。

 思えば男の行動は最初から時間稼ぎをする事に一貫していた。


どうすれば、相手を少しでも長くこの場にとどめておくことができるのか?


 その答えが現在のサミュレの重症という状態。そして、その状態に持っていくまでの過程も全て時間稼ぎに含まれる。


 この様な計算されつくした行動はベテランであれば可能ではあるが、目の前の男はそれと程遠い印象。 

 よって、この事態は異常である。

 しかし、その中でも更に異常なものがあった。それこそがこの男の一貫性である。


(こいつの捨て身行動には何の躊躇もみられなかった。まるで自分の命を道具として捉えているみたいに… そんな生き物がこの世にいていいのか? 生命活動を思考から切り離すなんて狂っているとしか言いようがない! …おそらく、こいつには命よりも大事な何か絶対的なものがあるのだろう。それがこのような狂気じみた行動を可能しているのだ)


 その絶対的なものが、自身が散々馬鹿にしていた人間の愚かな思考によって生まれたのではないかと思い恐怖する。


(弱者のこいつでさえこれなら、当然他の村の連中は更に厄介な可能性がある。急いで待機している者達に伝え、村を滅ぼさなくては!)


 この負傷状態で逃亡者を狩るのは不可能と判断。

 迫るカウントから逃げる様にサミュレはこの場を去った。

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