32話 プレゼントの行方
村外れの林。日中は静かな場所なのだが、夕方はある男の出現によってうるさくなる。そこへ最近ラルスが加わった事で更に騒音は増していた。音の他に爆風や針、破片などが飛びまくる為、周りの小動物にとってはいい迷惑である。
今日も散々辺りに迷惑をかけた後、静かになる。時間にして1時間程、これもいつもの事。
「お疲れ様」
「ああ、お疲れ。麻弾3号( 略:麻痺爆弾 )の針の速さはどうだった?」
「2号よりは早くなっているけどまだ遅いね。素早い魔物なら簡単にかわせるレベルだよ」
「やっぱりか。楽そうにかわしていたもんなぁ。はぁ、また微調整かぁ…」
麻弾は膨張粉( 膨張石を粉末状にしたもの )の体積膨張を利用した破裂で麻痺毒を塗った無数の針を飛ばす爆弾である。強い衝撃を与えると中の小さいカプセルが割れ、灼熱薬に水がふれてお湯が発生。それにより、粉が膨張する仕組みだ。
粉の量を多くするほど膨張速度も増して針の速さも増すのだが、爆発が早すぎて投げた本人が被弾する危険も増す。足止め用の爆弾で自分も足止めさせられていては本末転倒。そうならない為に灼熱薬を薄めて爆発時間を遅らせる方法もある。だが、あまりに遅いと相手が逃げたり、防御体制を整える時間を与えてしまうので遅らせすぎるのも問題だ。
ただ、それよりも問題なのが粉末量の調整。量が少し増えただけでも大きく速度変化するので調整は困難であり、仮に調整できたとしてもそれと全く同じ寮にするのも困難という非常に扱いにくい道具である。
そんな扱いにくい道具を使っていても彼はこの現状に不満を漏らさない。仁力を使えないからには、それなりのリスクを冒さないと他の人達と対等になれない事を今までの人生で学んできたからだ。
彼がブツブツ言いながらメモ帳に今日の結果や反省をページいっぱいにぎっちりと書くのをラルスが横からのぞき込む。
「毎回思うけど、よくそんなに書けるね。後から読むのも大変じゃない?」
「そうでもないぞ。ページの最初の文を読んだらその日の気持ちが思い出されるから、それと合わさって記憶も思い出される仕組みになっているからな」
「へぇー でも、思い出すってことはやっぱり読みにくいんじゃ…」
「分かればいいの、分かれば。 ん…? それより、まだそのネックレスをつけているのか?」
「うん。君からの大事なプレゼントだからね」
群れ騒動後、ラルスが隊長として初めて仕事をこなした事を記念して彼が送った円柱のような形のもの。
「嬉しいけど、そんなに気を遣わなくてもいいんだぜ?」
「別に気を遣っているわけではないけど。これのおかげでもしもの時が来ても何とかなるっていう安心感があるしね」
「あー中に入れてある特製爆弾の事な。所詮足止め程度だからそんなに信頼してもらっても困る」
「そう? おかげで最近の仕事は問題なく淡々とこなせているよ」
「それはお前が優秀なだけだから。ペンダント関係ないし」
「そうかなぁ?」
「そうなの」
(現に今までで一度もその爆弾を使っていないのだからな。そしてこれからもお前にそれを使う機会は訪れないだろうよ)
不服な顔をするラルスに彼は苦笑いした。
1か月後――
彼はまた苦笑いしている。しかし、今回の笑いは前回より重く、強張っている。対照的にラルスの方は明るい様子。その理由は、彼らの夕方の訓練に彼の姉が出席していた為である。
「な、何で姉さんが…?」
「ラルスに“面白いもの”を見せてくれるって言われてね」
「そ、そうだったんだ… ちょっとラルス君とお話ししたいのでお時間よろしいでしょうか?」
「別にいいけど、待たせておいてつまらないものを見せたらどうなるか、分かっているでしょうね?」
「はい、存じております…」
彼は青い顔でラルスを引っ張って姉と距離をとった後、小さい声で質した。
「これ、どういう事?」
「どういう事って、君へのプレゼントだよ」
「は? 嫌がらせじゃなくて?」
「うん。だって君はヴィエネさんに認められたいって常々思っていたわけだろう?」
「ま、まぁね…」
「だから、この秘密の訓練をみせればそれが叶うと思ったんだ」
「いや、叶わんだろ。むしろ悪化しそうなんですけど」
待たされて不機嫌そうな姉をチラ見。
「大丈夫だって。いつも通りやれば必ず認めてくれるよ」
「その自信はどこから…」
「日頃の積み重ねから、かな?」
「へぇ…」
(この天然お人好しの事だから、これをプレゼントとして選んだのは嫌がらせじゃなかった事だけは分かった。ただ、姉さんの審査の目を甘く見過ぎ。まぁ日頃から姉さんに褒められまくっているからその狂った認知になったのは分かるけどな。そういえば、俺がまともに褒められた時ってあったっけ…?)
彼が過去の記憶を瞬時に思い出すも姉に褒められた記憶は出てこなかった。それにより、未来の予想も終える。
(残念だが、プレゼントは台無しになりそうだ。どう考えてもしごかれる事決定。しかもお前にもとばっちりがくるぞ、多分。まぁ恨むなら見通しが甘かったって自分を恨んでくれ)
未来を受け入れたおかげで、彼の体から緊張が消えた。しかし、その背中はどこか哀愁を纏っている。
「相談はすんだの?」
「ええ、まぁ…」
「じゃあ、とっとと見せて頂戴」
「はい…」
若干イラつく姉をも受け入れつつ、訓練が始まった。彼がラルスの練習弾( 弾をグニグニ成分で覆って殺傷能力を軽減させた弾 )を避けながら爆弾を投げて隠れ、それをかわしたラルスの狙撃をまた避ける……の繰り返し。そこに姉が来たからといって派手な演出を加えようとする卑しさはなく、淡々としたいつも通りのつまらない光景が拡がっていた。
ヴィエネはその光景を少し離れた場所から眺めている。時折飛んでくる針や爆弾の破片を防ぎながら。つまらない光景である為、安全圏まで離れないのは彼女なりの暇つぶしなのだろうか、その無表情からは真意を読み取れそうにもない。
そのまま淡々と時間が経過して訓練が終わる。2人が息を切らしているところへヴィエネがやって来た、無表情のまま。彼はその表情で未来を悟り、そして確定させた。そんな彼に質問が飛んでくる。
「あの爆弾の爆発… 火薬ではないわね。何なの?」
「膨張石の粉末だよ。衝撃を与えると中の灼熱薬と水が反応してお湯がつくられてそれで爆発する仕組み」
「それなら薬の成分で爆発時間をコントロールできるか… なら、訓練中ずっと何かブツブツ呟いていたのはその爆発タイミングを計る為ね」
「うん…」(理解早っ…)
「で、火薬の爆弾を使わないのは導火線で相手に爆発タイミングを知られてしまうとい事と爆発威力の引き上げってところかしら?」
「そうです…」
「ふーん」
そう言うと、ヴィエネが少し考え込む。
(膨張石の用途は防御と落石くらい。その用途は粉にすれば台無しになるのだけど、それをこいつは利用した。無能なものに価値を見出す思考は無能のこいつならではって事かしらね)
一瞬だけ表情に変化があったのだが、すぐに無表情へ戻る。当然2人は気づかない。
やや待って、ヴィエネが口を開く。
「これを実戦で試した事はまだないわよね?」
「うん」
「じゃあ明日試しましょう」
「えっ…?」
急遽決定した実戦訓練。彼女の提案に拒否権は存在しないので黙って従うしかなかった。
彼は理解している。つまらないものをみせた事により、しごきの場が実戦という形で整ったという事に。それ故、今夜はいつもより早めに就寝した。
翌日の狩り後。仕留めた獲物を他の隊員が運んで村へ帰る中、昨日の3人が残っていた。3人は適当な獲物としてヴェンダちゃんを見つける。「ほら、とっとと試してきなさい」と背中を押された男が1人、獲物に立ち向かった。彼は耳攻撃を慣れた様子でかわしつつ、爆弾を投げた。彼が木の裏に逃げ込むと、つぶやきが終わった所で爆発。無数の針が獲物に刺さる。そして、しばらく耳弾を乱射したのち倒れた。痙攣している模様。
それを確認してからヴィエネが彼に近寄る。
「麻痺まで数秒だったし、まぁまぁじゃない?」
「まだ小型の魔物だからね。でかい奴にはもっと時間もかかるだろうし、効かないかもしれない」
「あっそう。なら、次はでかい奴で試してみるわよ」
「分かった」
無表情だが、行動意欲は伺える姉の発言。褒められていないながらも、彼はそれを嬉しく思った。そうして自然と緩んだ表情をみて、ラルスの表情も同様に緩む。不思議とそれにつられて場の雰囲気も緩んでいる様に思えた。
「さぁ、行こう」
「ああ」
道具の整理を終え、ラルスの手を取って立ち上がろうとした時の事。急に2人は突き飛ばされる。そして目の前には血しぶき、耳には銃声が鳴り響いた。
2人の表情から察するに、その光景は緩んだ雰囲気を引き締めるのには十分過ぎるほどだったらしい。




