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22話 無能は成長せず、有能は成長する

 朝日がしっかり差し込むココヤト村の外周にて。


「今日もお疲れさーん」

「お疲れー じゃあ、また午後にね」

「おう」


 ラルスが手を振り去って行く。朝練後のもう何回やったか分からない定番のやり取り。改めていつ頃からか思い返してみると、なんと3年も経っている事が分かった。それくらい習慣化された日常にドップリ浸かりきっていたのだろう。時の流れは恐ろしい。そして、俺自身この3年間で何も成長している気がしないのも恐ろしい。まぁ無能にとってはそれが平常運転なわけだが。 反対に有能な人は素晴らしい成長を魅せているので、是非とも紹介させて頂きたい。

 

 ここでいう有能な人とは、もちろんラルスの事。彼は合同朝練で姉さんに専属指導される様になってから身体能力と仁力が向上したのはもちろんのこと、銃の技術も格段に向上した。朝練1年目で体力・仁力の基礎を完成させ、そこから姉さん直伝の狙撃練習が開始。その中で彼が毎日の様にやらされていたのが、木を揺らしてもらって落ちてきた落ち葉を100m先から全て打ち抜くというもの。わざわざ紙の様に舞う軽さの葉がついている木を選んでいるので確実に命中する軌道であっても銃弾の風圧でヒラリと外れてしまう。これを当てるには1発目で狙いの場所にわざと舞い上がらせたところへすぐに2発目を当てる必要がある。時間差の調整は1発目の仁力を抑え気味に込める事で2発目と合わせるようにするらしい。そもそも仁力を込めて命中させる軌道で撃つだけでも難しいはずなのにそこへ仁力の微調整と葉の誘導後の軌道まで考えなくてはならないとなればもはやお手上げだ。

 この時、俺は普通の銃の狙撃練習も兼ねて2人のやり取りを近くで見守っていた。で、『さすがに無理じゃね?』という表情をしながらラルスと顔を見合わせていると、「あんた、合図したらそこの木を揺らしなさい」と姉さんから指示を受けた。

 姉さんが100mくらい離れた所で右手を挙手。木を揺らすと落ち葉が5枚ヒラヒラ落ちてきた。瞬間、破裂音と共に音と圧が近づいてくる。しかも破裂音は連続して発生。


いくら何でも狙いをつけるの早すぎない? まだ落としたばっかりだよ?


 そんな俺の心配と驚きを無視して一枚の葉に弾が命中し穴があく。穴をあけた弾が気にめり込むのと同時にもう一発もめり込む。おそらくそれが誘導用の初弾だろう。


 本当にやりやがった、あの人…


 俺が引いていると、次々と木へ銃弾がめり込んでいく。そして、恐る恐る落ちてきた葉を全て確認すると見事な穴があいていた。それを見て俺の口もいつの間にか開く。すると次の瞬間、左耳をかすれるくらいの近距離を銃弾が横切り、後ろの木に着弾した。間抜けに開いた口を永遠に閉じさせる為かと思ったが、後ろを見てみてすぐにそうじゃないと気づく。先程の着弾場所には拳くらいの毒蜘蛛が尻を貫かれてヒクヒクと痙攣していたから。開いた口をそのままに、俺もしばらく蜘蛛と一緒にヒクヒクした。

 姉さんが戻って来て「ねっ、簡単でしょ?」と笑顔で言う。これが姉名物・無自覚有能マウントである。これにはさすがのラルスも「そうですね」と苦笑いする事しかできない。さておき、これでできる事が証明されたので(※ごく一部の限られた者だけ)、狙撃練習は無事開始されることになった。

始めの2か月間はあのラルスが一発も命中させることすらできないという難航の兆しをみせてどうなる事か不安だったが、3カ月目でようやく1発命中させる事に成功する。そして、命中する日と命中できない日が不規則に発生して苦しむ中、ようやく安定的に命中させることに成功した。その時で既に1年経っていたので、よく我慢して継続したと思う。

 そんなわけで、現在はその努力の成果もあって落ち葉に7割ほど命中させることができるようになった。成功確率が7割というが、これができれば他の標的狙撃は誘導用と仁力調整をしないで済む分、かなり容易になる。実際、彼の狙撃技術( 命中率や狙撃速度など )は同期の中ではトップだし、現役狩人メンバーの中でも上の方になるのではないだろうか。

 彼は現在、俺と同じ18歳。魔物狩りに参加するのもこの歳からだが、姉さんの強い推しもあって1年前から参加している。もちろん、毎日姉さんの鬼畜練習に耐えているだけあって即戦力になったそうで、隊の人達からの評判が良いみたいだ。全く、同期として誇らしいよ。…と、私情は一旦置いておいて、彼はそこでの働きが認められた事で近々責任ある仕事を任せられる様になったらしい。これはおそらくラルスが俺を驚かせる為に密かに教えてくれたのだが、家で姉さんが「そろそろ隊の指揮をやらせてみるか」と呟いているのを聞いていたので心底驚きはしなかった。が、わざわざ教えてくれているのと反応が薄くて彼がガッカリするのが気掛かりだったので、「本当に? やったじゃん!」と反応して乗り切った。

 

今日の午後、彼の初隊長の仕事であるヤックリ草採取が予定されている。狩人3名を指揮し、採取者3名を護衛するのが彼の役目。今回は俺も採取者として同行するので、彼の活躍が非常に楽しみである。一応隊員としての彼の動きは採取者として同行した時に何度か見ているが、魔物の気配の察知は誰よりも早かったし、撃退対応も早いので、何の問題もない。あと、ここ最近は近辺で大型魔物の出現情報はないのでイレギュラーも起きにくいはずだ。だから、いつも通りやればいつも通りできると思う。

 結論が出た所でそろそろ時間だ。

 俺は気楽な足取りで集合場所に向かった。

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