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2話 魔石採掘、本来なら簡単なお仕事です 前編

 ギルド館前でジャックスさんと合流し、魔石採掘へと向かう。何かお荷物もぶつぶつ言いながらついてくるみたいだ。イラつくので無視しよう。


 今回向かう場所は町から軽く走って半日ほどの所にある洞窟だ。ここはオトナオオトカゲの住処になっているらしい。オトナオオトカゲは、名前通りの大きな茶色のトカゲで、最高移動速度は人間の全力疾走と同程度。しかもその速度を1時間維持できるので、逃げ切るのは道具を使わない限り無理だ。切った刃物が折れるほどの堅い皮膚を持ち、長い舌に獲物を巻き付けて食べる。唾液が病原体だらけなので、巻き付かれた時点で汚染されてしまう。群れをつくる事はなく、単独で行動する事が多い。


 障害物の無い所や閉所でみつかってしまえば即終了という事で、今回の依頼では隠密技術が試される。

私はそれほど高い身体能力と仁力を持っていない。凡人の私が冒険者としてやっていくには、この技術を磨くしかなかった。そんな訳で、他の人よりも多くこの技術を磨く時間をつくれたおかげで自信はある。


(一日中森の中に籠って魔物に気づかれない様に過ごした日々が懐かしいな)


過酷だった生活を思い出して苦笑いした。



◇◇◇



 洞窟付近に到着したところでオトナオオトカゲを探す。洞窟内で魔石採取中に戻ってこられた場合、出入口を塞がれる危険性があるからだ。一応今回の洞窟はY字型で出入口が2つあるのでその危険性はかなり緩和される。が、魔石が洞窟奥にしかなくて、その一本道で採取している所を塞がれたら終わりだ。それを防ぐ為に、トカゲの現在地を把握しておく事が重要となる。


 洞窟付近をしばらく探索していると、ノシノシと重量感のある大きな生き物が、長く生い茂った雑草をわけながら歩いていた。大きさは人間の3人分はあり、目当てのトカゲだと確信した。私は身を潜めたまま、ポケットから共鳴石 ( 2つに割ると割ったもの同士の距離が近い程、内側が黄緑色に発光する石。割ってから一日経つと発光効果はなくなる )の粉末が入った握りこぶしサイズの袋を取り出し、気づかれないタイミングを見計らってトカゲに向かって投げた。袋は破れやすい素材でできており、トカゲの皮膚にあたった瞬間にやぶれ、中から黄緑色の粉が飛散して皮膚に付着する。


(これで準備万端だ。朝から仕込んでおいてよかった)


 トカゲから離れつつポケットの中で発光が小さくなる石をみて喜んだ。ジャックスさんが「お見事」という具合に静かな拍手をしてくれていたので嬉しい反面少し恥ずかしくなった。なお、このような共鳴石を居場所探知機として利用する方法は、冒険者の中でよく使われている。そういえば、先程から約1名の姿が見えないが、居ても居なくても一緒なので放置だ。


 洞窟前まで戻り、石の光が消えるまで石とにらめっこ。完全に消えたのを確認してから洞窟に侵入する。するとクモの巣にひっかかった。住処と聞いているのに出入りしてない形跡があったことで、採掘に不安がよぎる。トカゲが住んでいないことで魔石が生成されていない可能性があるからだ。反対側の出入口を多用しているのだと無理矢理自分を納得させ、奥へと進む。

洞窟内は暗いので、仁力を込める事で効果発揮する暗視眼鏡を使う。装着して後ろを見ると、お荷物小僧がジャックスさんに眼鏡に仁力を込めてもらっていた。邪魔だから外で待っていてくれてもええんやで。

 分岐点まで進んでも魔石は見つからなかったので、奥に進む事になった。一応石はまだ光っておらず安全だ。小僧も石を確認していた。いつの間に付着させたのだろうか。とにかく2重確認ね、はいはい。


 数分歩くと赤色に鈍く光る石を発見。魔石である。それをタガネとハンマーで慎重に掘り出していく。一気に掘り出そうとすると割れて商品価値が下がってしまうので慎重に。

 

 5分ほど集中して作業し、ようやく掘り出す事に成功した。拳サイズの綺麗な魔石だ。損傷なく綺麗に掘り出せたことに私が満足していると、奥で2人がヒソヒソと話している。行ってみると、地面に動物の骨が散乱していた。よくみると人間の骨らしきものも混ざっている。そして、隅の方にはなぜか足をちぎられた人間サイズの黒い大蜘蛛がじたばたしている。それらの異様な光景をみて私は悪寒がした。それと同じタイミングで小僧が興奮しながら大きな声を出す。


「発掘は終わったみたいですね。 なら、急いでここを出ましょう!」


 小僧からはいつもの間抜けな雰囲気が吹き飛んでいたので、さすがの私もやばさを理解し、2人に続いて駆け出した。走っている最中、共鳴石を確認するとやや光っていた。


(不覚だ。採掘に集中し過ぎて気づかないなんて!)


 警戒を怠った事に対する自分の未熟さを実感する。そして自分の不注意で同行者の命を危険に晒してしまっている情けなさも。が、後悔していても仕方がない。今は一刻も早くここから出るしかないのだから。

 移動中、ジャックスさんから先程ヒソヒソ話していた内容を伝えられる。


「あの人骨が冒険者のものだとして、採掘中に洞窟最奥で殺されたと仮定する。そうすると、その冒険者も共鳴石を使ってトカゲの留守時を確認してから入ったはずだし、採掘中も石を確認して警戒していたはずだ。接近に気づかないわけがない。それに、あんな大きい魔物がこんな洞窟の中を歩けばどうなると思う?」

「音で気づきますね」

「そう。だから奴らはこちらに気づかれない様にゆっくり近づいてきているんだよ」

「あれ…? それだとおかしくないですか? 奴は洞窟の外から戻って来た。だから、中に私達が居ることは知らないはず。なのに、どうして居るかのように行動しているんですか?」

「ここに入る時、蜘蛛の巣があったのは覚えているかな? おそらく奴らはここを出る際に蜘蛛に糸を吐かせて入り口を覆ってから洞窟を離れたんだ」

「なるほど…。戻ってきたとき蜘蛛の巣が破られた跡があれば、中に大きめの生物が迷い込んだと判断できる」

「そういう事。つまり、これは奴らの仕掛けた罠だ。それにしても、今回のような自分の領域に追い込んでから獲物を狩る方法は蜘蛛と似ている。蜘蛛から学習するなんて魔物も賢くなったものだね」


 苦笑いするジャックスさん。それにつられて私も苦笑いするしかなかった。

奥にいた蜘蛛は予備品で、他にも携帯しているはず。だから、足をちぎって動けなくしていたのだ。


(あの蜘蛛みたいに死を待つだけになりたくない。とにかく、分岐点まで無事に辿り着くんだ)


 祈る様な思いで走っていると、その祈りが通じたのか、トカゲに遭遇することなく分岐点までたどり着いた。これでひとまず追い詰められる線は消えたので、ちょっとだけ安心する。 

まず、私達の入って来た道の方を進む。進むほど石の光量が増えたので、こちら側から近づいてきているのが分かった。なら、反対側の出口から出ればいい。

 本来ならとっくにトカゲと遭遇してもおかしくない時間。それでもまだそうならないのは、トカゲが私達に気づかれない様に音を殺してゆっくり進んでいるからだろう。だが、今回はその慎重さが仇となり、おかげで私達の逃げきる時間が確保される。私は8割方終わったと思い、安堵した。そして、Uターンして反対の出入口に向かおうとした瞬間――


 地面に何か堅いものがぶつかる音と共に目に巨大な石が現れ、道を塞いだ。幸い私とジャックスさんは潰されずに無傷だ。小僧の安否も一応心配しようとしたとき出現した石が膨張石( 表面に気泡が割れた様な小さい穴がいくつもあるのが特徴。普段は鶏の卵サイズの石だが、お湯をかけて10秒ほど経ってから地面に思いきり叩きつけるなどの強い衝撃を与えると急激に膨らむ。そして、大体10分後に萎んでいく。使用上の難点は、1分以上経ってから叩きつけても膨張しない事。なお、膨張石同士が触れると粉々に砕けるので、膨張石に挟まれて圧死する心配はない。堅さは普通の岩より少し硬め )だったことに気づく。


 石の後ろ側から声が聞こえる。


「俺、鈍足で逃げ切れるか分かんないから餌役よろしく。じゃーねぇ!」


私は呆然とした。

希望から絶望に叩き落される瞬間。これほど辛いものはない。


(いくらクズでもここまでするか? 本当に救いようのない奴!)


 落ち込む気持ちに怒る気持ちが勝る。


「この、裏切り――」

「裏切り者め! 見損なったぞ!!」


 私の怒りに被せて、かつそれを拡大する様にジャックスさんの罵倒が響き渡った。あれ程温厚だったジャックスさんが怒るなんて。しばらく怒りを忘れて驚き、立ち尽くす。もう逃げていったのか、その裏切り者からの返事は聞こえなかった。

 目の前の石…というより岩は頑丈でとても破壊できないし、10分もここで待機できない。なぜなら、ちょうど視線の向こうから大きな生き物がこちらにゆっくりと近づいてきている姿が見えてきたからだ。

 この状況、おそらくジャックスさん1人なら簡単に逃げ切る事ができるだろう。彼は強いから。だが、今回は私も居る。彼の性格上、私を見捨てる事はできないはずだ。自分の力の無さが情けない。


(こうなったのも全てあいつのせいだ)


 私は悪い期待通り余計な事をしてくれた人物を死ぬほど恨んだ。

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