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06 流浪の伯爵家〜ユーフェミア〜

 「ユーフェミア。また釣書が届いているけど見るかい?」

 朝食の後、お父様がいくつかの封筒を持ち上げて見せてくれます。王都の屋敷に届けられた郵便は自動転移の魔法具によりお父様のカバンの中へと届くので流浪の身といえどまったく不便は感じません。

 私からお手紙を出す場合には距離に応じた日数がかかるのですけれど、それもまた旅の醍醐味。その不便さも楽しまなくては損ですわね。

 「あなた。婚約破棄したばかりだというのに皆様気が早すぎないかしら?」

 お父様の隣に座ったお母様がため息と共に吐き出します。お母様も私と一緒に釣書を確認するので、あまりの多さにありがたい気持ちとウンザリする気持ちが半々といったところでしょうか。

 「確かに気が早いとは思うけど、それだけユーフェミアが魅力的ということだろう。早めに声をかけてチャンスを確保したいんだと思うよ」

 「私としても学園を卒業した年で婚約者がいないというのは多少心細くもありますので、早めに良いお相手を決めていただけると嬉しいですわ」

 正直なところ夜会のエスコートなどはお父様にお願いすれば充分なのですが、そうなるとお母様のエスコートをする男性がいませんし、何より父離れできていないと思われるのはかなり恥ずかしくもありますので、我が家の伝統と秘密を守れる殿方なら多少目をつぶってでも婚約者にしたいのです。

 「この際だからユーフェミアが気に入った相手を選ぶといいよ。誰か好きな相手はいないのかい?」

 お父様の言葉に少し考えてしまいます。

 「生まれた時から殿下の婚約者でしたから、正直言って恋愛を意識したことはないのです。誰でも良いとは言いませんが、やはり親族や一緒に国を出た家の中からお父様とお母様に決めて頂ければ充分かと」

 「ユーフェミア。ユフィちゃん。貴女には本当に酷い立場を押し付けて申し訳ないと思っているわ」

 お母様が何度目かもわからない謝罪をしてくれます。陛下からの王命とその背景は何度となく両親から聞かされ謝られてきたので、私はこれ以上お二人に心を痛めて欲しくはないのです。

 でもそうなると私の意思で婚約者を決めねばならなくなり、恋愛とはなんでしょうかという感じの私としては二の足を踏んでしまう状況です。


 「いっそのことお見合いパーティーをしてみてはいかがでしょうか」

 声をかけてきたのは執事のイグナシオ。お祖父様の時代から仕えてくれている我が家の生き字引でお父様の信頼も厚く、領政から財務から暗部の手配まで何でもこなすスーパーお爺ちゃんです。

 「旦那様は奥様と恋愛結婚でしたが、先代様の時代はお見合いパーティーでお相手を選ぶのが多数派だったと記憶しておりますぞ」

 まあ、と私は声を上げて手を合わせます。

 「とっても素敵ね。お見合いパーティーなんて私にピッタリよ。そのパーティーで一番魔力の高い殿方に誓約の魔法をかけてしまえば跡継ぎは問題ないわ。イグナシオありがとう。お父様お母様もそれでいいでしょう?」

 殿下がいかに愚かとはいえ王族に誓約の魔法をかけることはできませんでしたので、親族あるいは近しい家の令息に念の為に誓約の魔法を受け入れてもらえれば当家の秘密は守られますし跡継ぎも確保できるでしょう。

 「ユーフェミア。お見合いと面接は違うからね。魔力はないよりはあったほうがいいけど、君との相性が一番大事になるから、もうちょっと複雑に考えておいてくれ。でもお見合いパーティーということであればすぐにでも手配して招待しようか」

 「かしこまりました」

 お父様の言葉にイグナシオが礼をして部屋から出ていきます。今までの釣書の苦労がなんだったのかという申し訳ない気持ちを表すためにお母様のお側に寄って手を握ります。

 「お母様も一緒に選んでくださいね」

 お母様が手を握り返してくれます。

 「ユフィちゃんがそれでいいなら一緒に意見を出させてもらうわね」


 「ところで王国の方は大丈夫ですの?」

 一息ついたところでお父様に聞いてみます。大丈夫なはずがないとは分かっていますしフェリス様やお友達から色々と聞いてもいますけど、お父様のお考えの通りに行動するのでその確認のための問いかけです。

 「概ね予想通りかな。ただ宰相の顔が日に日に朽ち果てていってるのを見ているのが少し心苦しくもある」

 王宮に張り巡らせた当家の監視魔法により各所の様子はお父様が手に取るように把握しておられます。私もお父様に許可をいただいた範囲は時おり覗かせていただいているのですが、まあ上から下まで大混乱というかまさに開戦前夜という空気で非常にピリピリしているようです。

 そんな中でフェリス様から送られてきた魔力ネットワークのスレッド?では王妃様らしき方が降臨されて色々と内情を暴露されていらっしゃる様子。お母様と仲良しで私も何度かお茶にお誘い頂いているご縁で王妃様のことは心から尊敬しておりますが、今回のことはさすがに当家と王家の問題なので早いところ愚か者二人を断罪して王妃様には恩赦をという流れに持っていかねばと気を引き締めます。

 そんな時ふいに王宮監視の魔法具から声が聞こえてきました。

 「エルンスト!どこだ!エルンスト!」

 宰相様の悲痛な叫び声に緊張が走ります。お父様が指を鳴らすと映像投影用のスクリーン魔法が起動して私達の目前に大きなスクリーンが現れました。そこにはグッタリした王妃様を横抱きに抱えた宰相様が必死の形相で宙空に向かってお父様を呼ぶ姿が映し出されました。

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