xx それぞれの刑執行〜ユーフェミア〜
陛下の処刑の時、私はお父様お母様と広場の一角に設られた貴賓席に座ってそれを眺めていました。王妃様や宰相様、この後追放となる殿下なども同じ席に座っています。
「先王ジョージ・グレンデルの断首刑を執り行う」
執行人の1人が厳かに告げると縄に繋がれた陛下が現れました。陛下は憔悴した面持ちながら自らの足で処刑台へ上がり、詰めかけた群衆と私達のいる貴賓席を眺めて執行人に何事かを言いました。
跪いた陛下の首が断頭台にかけられ、間をおかずにギロチンの刃が降って陛下の首が転がりました。
群衆から歓声が上がります。王妃様はかすかに首を振って立ち上がり、宰相様と共に会場を後にしました。私達も無言のまま立ち上がり馬車へ乗り込みます。
半刻ほど後、王宮のロビーに再び集まった私達は、平民用の簡素な服に身を包んだ元殿下を見送っていました。
「元王太子リチャードよ。これから貴殿は王族ではなく平民として生きていく。よく働き税を納めて健やかに暮らしなさい。生きて自らの罪を見つめることが貴殿の償いであると心得ることだ」
宰相様が感情のこもらない声でそう言いました。
「達者で過ごしてください」
王妃様の物憂げな声にも元殿下は返事をしません。明らかに納得のいっていない顔で憮然と頷きます。
「元王太子リチャード君」
お父様が冷たい声を出しました。
「追放に納得がいかないなら君も断頭台に行くかね?」
そこまで言われて初めて元殿下はお顔を上げました。恐れの目でお父様を見て、それから私に縋るような視線を向けました。何かを言おうとしているのか口をハクハクさせています。
「助けるわけありませんわよ。元殿下」
そう言って笑みを浮かべてから口元を扇子で隠します。私史上最高に嫌味な態度で元殿下を煽り、満足したので視線を外します。
元殿下は言葉にならない呻きを発していましたが、やがてガックリとうなだれました。衛兵に促されるまま王宮から出ていきます。
潔く処刑された陛下と違って最後まで見苦しい態度に全員がため息をついてその場は解散となりました。
その後しばらくして、王都の救貧院を元殿下らしき男性が訪ねてきたと宰相様から報告がありました。
当面の生活費としてそれなりのお金が渡されていたはずですが、使い切ってしまったのか盗まれでもしたのか、ボロボロの身なりでやってきた元殿下らしき男性は涙ながらに自分の半生を語ったそうです。
既定である3日間の寝食を与えられて救貧院を追い出された男性は、紹介された仕事に就いて住み込みで働いているそうです。
侯爵家を追放になった元侯爵令息と聖女ミーナの姿を見た者はおらず、宰相様にもその行方はわかっていないとのことでした。
フェリス様の婚約者をはじめとした元殿下の取り巻きの方々もそれぞれに放逐され、しばらく監視されたのち害となるようなら排除、そうでないなら捨て置かれるそうです。
こうして全ての関係者がそれぞれの結末を迎え、当家も王宮も新しい女王の為に動き始めるのでした。