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思い出その3 私と一花ちゃんの初体験

 一花ちゃんが自分のお芝居を他の人に見られたくないというのもあって、私と一花ちゃんは私のお家で遊ぶようになった。

「へぇ、大きなお家。趣きがあって素敵ね」

「おばあちゃんのお家なの」

「……そうなんだ」

 一花ちゃんはバツが悪そうな顔をした。

 私に両親がいなくて、祖母と二人で暮らしていることはだいたいのクラスメイトは知ってることだった。

「おばあちゃん、耳が遠くなってるし、夕方くらいまでは寝てるから、大きい声を出しても怒られたりしないから心配ないよ」

「うん」


 私は私のお部屋に案内する。

「へぇ、これが仁美のお部屋なんだ。なんかすごい」

 私のお部屋をみられてちょっとだけ照れてしまう。

 私はDIYの趣味がある。

 部屋の壁や床や天井は、女の子向けのキッズスペースのようにファンシーな装飾を施していた。

 部屋には絵本ややおもちゃ、私が作ったイチゴのぬいぐるみ。

 ほかにも、本や古めかしいカセットテープなんかも散らばってる。

「こういうアナログでレトロなものって趣きがあるよね、可愛くて素敵」

「うん、おばあちゃんが古い本とか持ってるし、DVDプレーヤーとかだけじゃなくて、ラジカセとかそういうのも持ってて、結構面白いの。あとね、テレビとDVDデッキがあるから、何かアニメとか映画が見たいときは家の近くのレンタルショップとかで借りてるの」

「へぇー、そうなんだ」

 一花ちゃんがおみやげとして持ってきてくれたお菓子を食べながら、私たちはふたりでおしゃべりを楽しんだ。

 私は一花ちゃんが家に来てくれたのがうれしくて、ずっと話しっぱなしだった。

「一花ちゃん、今度はどんなお芝居ためしてみたいの? いま何かアニメとか見てるの?」

「ううん。最近はお父さんがまた勉強しろってうるさくてね。本当は昔やってたアニメがまた見たいんだけど、サブスクも禁止されてて見れないの」

「そうなんだ、じゃあ今度近くのレンタルショップで探しにいかない? 少し前のアニメなら、もしかしたらあるかもしれないし」

「あ、それ嬉しいかも。今度一緒に探しましょう」

「うん!」

 それ以来私と一花ちゃんは、二人で遊ぶ時間が増えていった。

 お菓子を食べながらおしゃべりしたり、

 アニメのDVDを近くのレンタルショップで借りて私のお家で鑑賞したり、

 何か気に入った本を見つけたら、それを私の前で一花ちゃんがお芝居してくれたりした。

 ああ、本当に楽しいなぁ。

「一花ちゃんの演技、声、本当に素敵」

「ありがと、そんな風に褒められるとなんか照れちゃうな」

 と、一花ちゃんは平めていたように手を打った。

「……あっ、ねぇ。仁美もやってみない?」

「えっ、私も?」

 ある時、そんな風に提案をされた。

「うん。せっかくだから二人で声のお芝居したいなって」

「む、無理だよぉ。だって私、お芝居なんてしたことないし、一花ちゃんみたいに声だって綺麗じゃないし」

 私は自分がお芝居するなんて考えたこともなかったので、手を振って否定した。

「そんなことないよ。仁美の声だってとてもかわいいもん。それに私一人でやるよりも、二人でお芝居した方が楽しいじゃない。ね、やってみようよ」

「う、うん。それじゃあ」

 一花ちゃんに押される形で、私もお芝居にチャレンジすることになった。

 私は一花ちゃんほど上手にお芝居できないけど、でも二人でするお芝居はとても楽しかった。

 一花ちゃんが二人でできそうなお芝居を、絵本とか小説とかから探して、それを一花ちゃんと私で演じる。

 それをスマホで録音して、それを二人で聞きながらお芝居について語りあう。

 たまに一花ちゃんがアドリブで私をからかうようなことを言ったりして、

 私もそれに合わせてヘンな返し方をしたりして。

 そこを何度も再生してそれが面白くて、ずっと二人で笑い合うこともあった。

 ああ、楽しいなぁ。

 一花ちゃんとこんなに楽しい時間が過ごせるなんて、本当に幸せ。

 そして夏休みに入ったある時、一花ちゃんがこんなことを言いだした。

「あのさ、ひとつやってみたいことがあるんだけど、いいかな」

「え? なに?」

「私たちの声のお芝居、動画にしてネットに上げてもいい?」

 そう一花ちゃんから提案された。

「え? 動画? ネット?」

「うん、ほら、動画サイトでさ、そういうのあるでしょ」

「こういうの自分たちの名前を出さずにできるから、活動名とか二人で決めてさ。ねぇ、やってもいい?」

「私、そういうのよく分からないんだけど……」

 私のスマホはあんまり性能よくないし、通信費が気になってあまり動画も見たりもしたことはなかった。

 亡くなったパパが保険に入っていたおかげで、私立の高校に入る程度の金銭的な蓄えはあった。

 だからといって湯水のように使うわけにもいかないので、私は質素な生活をしていたのだ。

「そのへんは心配しないで。私がやりたいんだから、私が何とかする。あとは仁美が良いって言ってくれれば。……クラスの子にバレるのは困るけど、せっかくの私たちのお芝居、やっぱり他の人に聞いてもらいたいなって思うの」

「うん、一花ちゃんがしたいようにしていいよ」

 一花ちゃんがやりたいなら、私が反対する理由なんてなかった。



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