地球と呼ばれる美しく、そして金色に輝く惑星
「美しい惑星だ。あれはなんと呼ばれる星だ?」
「えーっと、確か地球と呼ばれる惑星らしいですね」
「地球だと?」
サタンは聞き慣れない惑星にたじろいだが、今度は双眼鏡を取り出して、窓の外から青色をしている惑星を眺める。
彼が生まれ育ってきた惑星、ヴァルハラとは明らかに異質であるということが、表面を観察しても一目瞭然だった。そこには多様な生命体が繁栄しており、自然と調和しているのだ。
そんな麗しい地球に対して、ヴァルハラはまさに砂漠のようである。生物よりも無機質のほうが圧倒的に凌駕しており、機械的な世界なのである。
「むむ、何だあれは?あの金色の建築物は?」
すると望遠鏡によって拡張された視界は、太平洋を通り、一つの島国である日本に到着した。そこから南下して京都に行き着く。
京都の中央部分、そこには一際金色に輝きを放つ美しい建物があるのだ。
「美しい。絶対に、我の手に収めてやるぞ」
そう呟きながら拳をギュッと握り込んで、彼は決意したのだ。
そんな美しい地球を眺めながら、彼は意識を奪われていた。
すると隣に座る同じサタンと種族の者が喋りかけてきた。
「王子!通過中の惑星を観察する暇などありません!銀河遺産の保管活動として、これから向かう惑星について前もって―――」
口うるさく説教じみた言説をする彼に構わず、サタンは窓の外に視線を送り続ける。そしてサタンは彼の言葉を横切って、
「我は決めた」
「え?」
突然サタンがそんな事を言ったので、彼は戸惑ってしまった。一体何が彼の中で決まったのかと訊ねようとすると、サタンが席から立ち上がり、自分から説明し始めた。
「我は地球に降り立つ」
「は?」
と言われても、今現在、この赤船は銀河遺産の保護を目的として活動中であり、これから数光年先に位置する惑星に移動しなければならないのだ。
ヴァルハラの王子であるサタンがこんな辺鄙な場所にある地球などに一人で旅立ったら、銀河遺産という任務は大変な事になってしまう。
「王子、いけません!これから大事な任務があるのに―――」
「地球、気に入ったぞ!」
「ああ、待ってください!サタン殿!」
なので彼が必死に説得しようとするのだが、サタンはなりふり構わず、そのまま宇宙船メインホールから退出しようとする。彼の向かう方向は小型宇宙船が収納されている部屋である。
だがメインホールの扉の前でサタンは立ち止まり、独り言のように呟いた。
「地球よ、待っていろ。絶対に我の手に収めてやるからな」