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ゴキブリ物語

作者: 虎次郎

 僕は、ゴキブリについて書く。何もゴキブリが好きなわけではない。むしろ嫌いである。家族からは、僕が、ゴキブリを見たら逃げ回ったりしているので、男のくせにとか、いいとこのお坊ちゃん育ちでもないにとか、とんでもない暴言をあびせられているのである。そんで、簡単に僕の家族の構成についてお話ししておこう。おじいちゃんとおばあちゃんそして息子、その嫁、高一の男の子小4の女の子の合計六人家族である。最近では珍しい二所帯家族である。言っておくが二所帯住宅ではない。従って狭い。ところがである、このおじいちゃんは一部屋を占領しているのである。なぜそうなっているのかは、ここでは省略して、次に進もう。

ゴキブリについては、日本人の皆が嫌いであろう。世界中の人が嫌いであろうと僕は思う。しかし、ゴキブリは人類より以前に地球に存在しているのである。3億年前からいる。しかも進化もあまりしていないのである。それらは化石が証明しているのである。人類の人口は今75億にたいしてゴキブリの数は1兆5千億である。概略そこらへんを頭に入れて、僕の話を聞いてくれたまえ。僕はほんのさっきゴキブリを殺した。俺は生き物を殺したのだから、仏教の五戒にふれる。不殺生戒にふれるのではないかと悩んだ。三途の川を渡って裁判にかけられるはずである。

    ゴキブリの言い分

  なぜ俺を殺した

  俺は何も悪いことをしていない

  夜、みんな、寝た後に

  流しの食べ物を漁って

   空腹を満たしただけだ 

  その後、あんたの寝床に入り

   あんたの足の裏で寝てただけだ

  あんたは吃驚して、飛び起きた

  俺を踏んづけて

   ハエたたきでたたき殺した

  俺には相方もいる、子供もたくさんいるのだ

    俺(人間側)の言い分

  何で俺の布団なんかにもぐりこんだ

  今まで俺の布団なんかに潜りこんだゴキブリなんかいない

お前は3センチぐらいの長さで

   背中が黒光りしているんだよ 

  頭の先の、黒い触覚見たいのは何だ

   ゆらゆら動いているよ、しかも2本だ

  足が6本もついていて 

足にはひげ見たいなものが

   いっぱいついているよ   

 怖すぎるよ、俺を精神的に恫喝するのは

  お前が悪い

 俺は正当防衛を主張する


いつだったか、もうだいぶ前に、昼飯に同僚とラーメン屋さんに行くことになった。そこはすごくおいしくて、昼時は行列をなすほどであった。僕らは少し時間を遅らせて1時に店に入ったのである。30席ぐらいあったが、昼の一時に入っても、ほぼ満席であった。店の内装は貧しかったし、側溝は汚れていた。5分位でラーメンが配膳されてきた。どんぶりに山盛りであった。最初の一匙を掬って口に入れたら、まさにとろける味であった。店員さんに聞くと、食材は、アサリ、ラーメン、あおさ、スープ、だそうだ。スープの中身は教えてくれなかった。ところがである、3分の2ぐらい食べたころに、下の方にアサリとあおさが絡んでるところに、ゴキブリの死骸が横たわっているのに仰天した。ゴキブリがラーメンやうどんに混入していることは、世間話に効いたことはあるけど、僕は初めてだ。

3センチぐらいの大きさである。店員さんを呼んで詰問すると、店員さんはこともなげに匙で、すくってゴキブリをごみ箱に慣れた手つきで放り投げたのである。[これはよくあることです。害にはなりませんので、どうぞ最後まで召し上がってください]と言って、せわしくほかの席に立ち去った。さすがに僕は最後まで食べる気はしなかった。友人たちはおいしいを連発して、しかも完食して店を出た。

 後ほど調べてみると、ゴキブリは昆虫の一種で食べられるらしい。ロンドンでは、酢で煮たゴキブリを天日で干し、頭と内臓を取り出し、生姜スープで煮て食べてるという記載がある。ロンドンに住んだことがある友人にこのことを聞いたところ、そんなことはないという。漢方薬としてのゴキブリは本当らしい。これは中国の話である。中華人民共和国薬典には薩摩ゴキブリが配合されている。肝硬変などに効くらしいが、僕は使ったことがないので、詳細はわからない。ゴキブリと聞いただけで体が拒否反応を起こすのである。

 ゴキブリの起源は3億年前である。人類のはるか先輩である。

 先日殺したゴキブリの相方が僕の部屋にいるらしい。夜中にヒーヒーと声がするのである。あたしの旦那を返してくれと叫んでいるようであった。仏教の五戒に、故意に生き物を殺してはいけないというのがあって、冥途の旅の途中に裁判官がいて、5戒について裁かれることになる。この裁判によって、天道から地獄道迄6道に分かれるという。不殺生戒は重罪に当たるが、これはみだりにとか、故意にとかの注釈が付いているので、人間に害を与えるかもしれないゴキブリを殺しても、自己防衛策として情状酌量の余地があるはずである。

 今は遺伝子工学の発達はすさまじいものがあり、甘くて、大きくて、日保ち性が良いトマトなどの改良はその例である。生物改良にもこのことは及んでおり、不妊治療等もその一端であろう。

 ゴキブリだって可愛くて、夜、害虫を食べてくれたらいいのだけど。唐揚げにすればおいしく食することができるように品種改良できたらいいのにと思う。

 

そうは言っても、夜中に出てくるゴキブリほど怖いものはないのです。近くにハエたたきと殺虫剤を置いとかないと安眠できないですよね!

ゴキブリは夜行性であり、夜になると巣から出て、餌や水、そして異性を求めて活動します。台所の広場で運動会をしていることだってあります。人間とあまり変わりませんね。

先ほど相方のゴキブリがヒーヒーと泣いて殺された旦那を探していると書きましたが、ある種のゴキブリは泣いて求愛行動をするそうです。これは事実だそうですよ。夜中にヒーヒーという声が微かに聞こえるので、僕はさっと飛び起き、電気をつけて、ふとんをはたいたり、隅の雑物をはねのけたら、一匹だけのゴキブリを見つけたが、一瞬にして逃げた。すばしこいのである。脚力が強く、足の周りには筋肉がしっかりついているからです。

反対に後ずさりとか、ひっくり返った場合の起き上がりは難しいようです。

家族を求めてさまよい歩いたのは僕だって同じであった。

先に大きな戦があった。戦が終わったその日に地元民に父と母が拉致された。京城での出来事であった。婆と僕はやっとの思いで内地へ引

+き上げてきたのである。僕は父と母を捜し求めた。ゴキブリと同じではないか。生き物としては全く同じではないか。



 夕方、くらい林の中を歩いていると、子猫が大木の前に佇み、時々キャンと言って木に登ろうとしている。何か獲物を見つけたみたいだ。何の獲物かと、よく見ていると、どうも相手はゴキブリである。子猫がキャンと飛びついてくると、ゴキブリはさっと上に行き、木の穴に隠れる。子猫があきらめて下に降りると、またゴキブリが出てきて、子猫の届きそうなところまで降りてくる。子猫がキャンと飛びつく。この繰り返しである。ゴキブリと子猫で遊んでいるみたいである。実際遊んでいるのであろう。ゴキブリにも子猫にも遊び心はあるのである。人間と一体どこが違うんだろう。

 ここの家族は6人家族であるが、それぞれ役割分担がある。おばあちゃんがゴキブリ担当ということに、いつしかなっている。みんながゴキブリ嫌いなのである。夕方、小4の女の子がゴキブリを見つけると、「おばあちゃんー」と大きな声で呼んでくる。やがてドラドラとおばあちゃんがハエ叩きを持って現れる。ここのおばあちゃんは家人に呼ばれると、ドラドラと言って、少し腰を曲げながらやって来る。だから、小4の女の子はドラドラおばあちゃんと呼んでいるのである。

おばあちゃんを見つけると、ゴキブリは電光石火いなくなる。ところが、おばあちゃんはゴキブリの隠れ場所をちゃんと、知っている。米びつの戸棚の裏側である。戸棚を動かすとゴキブリは、のこのこと出て来る。そこで、おばあちゃんは準備したハエ叩きでバチンとたたき殺す。そこで皆は、おばあちゃんをヤンヤと褒めちぎる。おばあちゃんの出番はそれくらいのもんだ。

 そして、九時のニュースを見ていると、南西諸島沖縄で新種のゴキブリ発見という音声が流れていた。新型コロナの拡大のニュースの後である。日本産ゴキブリは59種になったという。新種は、背中の後方に黄色い帯を持つ美しいルリゴキブリ属という。


ある寒い日の、夕食の終わった後、ボーとしながらテレビを見ていると、テーブルの下をヨタヨタと歩いている大きなゴキブリを見つけた。普通は人を見つけると、俊足なゴキブリはあっという間に穴に潜り込むものである。今日は違った。僕がハエたたきを準備しても、ヨタヨタとしか逃げない。逃げる気はあるが弱々しい。ゴキブリの成虫の寿命は3ヶ月ぐらいである。寿命が尽きたのかもしれない。この前、僕の布団の中に入り込んだゴキブリを殺したがその相方かもしれない。きっとそうだ、相方だ。

力尽きて死んでいく。子供をいっぱい生んでいるはずだ。その子供は卵から幼虫を経て2年ぐらいしたら成虫となり、きっと僕の前に現れるだろう。ヨタヨタ君よ、幸せだったかい。恋人との蜜月時代もあったのかい。失恋だってしたんだろうね。子育ては大変だったのだろうね。

 僕はヨタヨタ君を紙に包んで、そして少しのご飯粒とゴキブリの好きな花林糖を添えて裏の林に持って行った。まだ幾ばくかは生きられるはずである。途中知人の女性の言葉を思い出した。ゴキブリはネギが好物なんだって。僕は慌てて家に引き返し、新品のネギをみじん切りにして袋に入れて林の中に引き返したのである。

お前はもう暗い林の奥に帰っておくれ。やがて、ありに食われるだろうが、いいではないか。子供もいっぱい残しているんだから。原始社会、人間とライオンとが死闘を繰り広げ、人間はライオンの餌食となった。それでも子孫は残せたのである。

一代が過ぎまた一代が興る。ヨタヨタ君よ、ご苦労様と僕は心の中で叫んだ。



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