第30話 未来へ
1年後の朝。黒龍の惨禍からちょうど12年後の夏の日。
「今年もこの日は混むな」
黒龍資料館前の長蛇の列を見て、ロレンツォは嬉しそうだった。
「ありがたいじゃない。この猛暑だって言うのに」
ルチアも頬をほころばせる。
「連邦の書記長、遅いわね」
ルチアは腕時計をチラリと見た。
「あの人はわざと他人を待たせる事で有名なんだ。気長に待とう」
苦笑するロレンツォ。
今年も黒龍が召喚された日付が巡ってきた。
ルチアたちは、連邦の書記長を黒龍資料館に招待した。黒龍の恐ろしさを知ってもらって、黒龍の卵の廃絶のための交渉に持ち込む予定なのだ。
「この交渉、絶対成功させないとな」
ロレンツォの決意は固い。
「ええ。新しい世代の子供たちのためにも」
大きくなったお腹をさするルチア。そこには、ロレンツォとルチアの初めての子供が宿っていた。
「この子が大きくなる頃には、黒龍の卵なんてない世界になっているといいんだが」
ロレンツォはルチアのお腹にそっと手を添えた。
「きっと出来るわよ。だって……」
ルチアは微笑んだ。
「私たちは、永遠に死者の声に耳を傾け続ける」
ルチアは黒龍資料館を仰いだ。死者の記憶、生きた証を託された資料館。
「死者たちを忘れない限り、いつかは幸せな未来がやってくるわ」
その時、プラタナスの並木の向こうから、黒づくめの馬車が現れた。連邦の旗を屋根にはためかせている。
「お出ましね。行きましょう!」
「ああ!」
前に向かって歩き出すルチアたち。死者の記憶を引き継ぐ館は、そんな2人を優しく見守っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
重いテーマですが、最後は絶対にハッピーエンドにしようと思っていました。
楽しんでいただけたなら幸いです。
連載お付き合いありがとうございました。
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