第23話 和解
客間でルチアとロレンツォは、カーラとカーラの祖父に向かい合って座っていた。ジーナがお茶とクッキーを出してくれる。
「……新聞、読んだ」
カーラはぶっきらぼうに言うと、ポケットから記事の切り抜きを取り出して机に置いた。
カーラはポツリポツリと語り始めた。
「今朝学校に行ったら、同級生たちがうちを見る目が全然変わっとったんよ」
カーラは手の甲のやけど跡をさすった。
「先生が朝の会で新聞記事を読み上げなさった。『黒龍の呪いは伝染しないと判明した。みんな今まで自分がカーラさんに言うた事を覚えとるか?』って」
カーラはニヤリと笑った。
「うちを散々いじめ倒した悪ガキどもが、並んで頭を下げた時はスカッとしたわ!」
そして、ポケットから金貨の詰まった袋を取り出した。
「これ、いじめっ子たちからもろた慰謝料。これでBDCCに行って、ヤケド痕の治療をしてもらうんよ!」
彼女の笑顔は晴れやかだった。
「良かったわね、カーラさん」
微笑むルチア。カーラは申し訳なさそうな顔をした。
「うち、ルチア様に酷い事言うたわ。帝国に嫁いだ裏切り聖女なんて言って……」
うなだれるカーラ。
「今回BDCCの改革に尽くして下さったのはロレンツォ様なんね。ルチア様が支えてくれたってインタビューでおっしゃってた。2人とも帝国のお方だけど、すごく素敵な方」
カーラは顔を上げた。その瞳はつきものが落ちたように澄んでいる。
「帝国人だからって、悪い奴って決めつけてごめんなさい」
ロレンツォの顔がパッと輝く。
「いいんだ。俺も君たちとの溝が埋まって嬉しいよ」
ロレンツォはカーラの手をとった。
「これからは、君たちと手を取り合って、黒龍の惨禍の償いをさせてほしい」
カーラとロレンツォは固く手を握りあった。
「でもな、ロレンツォ様……」
再び険しい顔になるカーラ。クッキーを皿から取ると、バリっと音を立てて食いちぎった。
「うち、黒龍の卵を落とした張本人のチェーザレ皇帝だけは許せんのよ」
カーラは拳を握りしめる。
「ロレンツォ様、チェーザレを詫びさせてください。被害者一人一人の前で地面に頭を擦りつけさせて、すまんかったと言わせて下さい」
「もちろんだ」
ロレンツォはうなずいた。
「他に何か俺が出来る事はあるか?」
問いかけるロレンツォ。
「実は……」
カーラの祖父が口を開く。
「インタビュー記事で読んだんですじゃ。ロレンツォ様が幼い頃、黒龍の被害の記憶を宿す品々を集めていらっしゃったと」
ロレンツォはうなずいた。
「お2人が作ろうとなさっている資料館に、そうした品々も共に展示して欲しいんですわい」
カーラの祖父は、持ってきた小包を開いた。中に入っていたのは、焼け焦げた血まみれのワンピース。
「ヴェラの遺品じゃ。こうしたものも展示したら、より黒龍の惨禍の恐ろしさが伝わると思うんじゃが……」
ロレンツォは涙ぐんだ。
「ありがとう。その案、ぜひ採用させてくれ」
翌日からロレンツォのところには、黒龍の死者の遺品を資料館で引き取って欲しいという依頼が殺到した。
ロレンツォは一軒一軒彼らの家を訪ねていった。どんな場末のバラックでも、嫌な顔一つせず。
ロレンツォは犠牲者の遺品を受け取る時、必ず持ち主の名前、遺族の名前、遺族の語る持ち主の思い出を書き留めた。
「黒龍の犠牲者14万人は、ただの数字じゃない」
それがロレンツォの口癖だった。
「1人1人に叶えたい夢があって、愛する人がいて。それぞれの人生が、あの日突然木っ端みじんにされたんだ。それを実感できるような資料館に出来たら……」
ルチアの記憶集め。
ロレンツォの遺品集め。
ペネロペの仮面開発。
叔父の根回しと資金提供。
黒龍の被害者たちの協力。
たくさんの人が力を合わせ……。
そして、ある暑い夏の日。
奇しくも、黒龍の惨禍から11年後の当日。
黒龍資料館は、ようやく開館にこぎつけた。




