王女様は魔女がお好き
省略していた部分、書いておきたかったなとパッと思いついて書いただけですので短いです。
ちゃんと恋する乙女になっている王女様が可愛いです。
皆、口を揃えて『魔女は恐ろしい』と言う。
でもそれは違う。
そして、違うと言うことを知っているのは多分私だけだ。
「今日はご要望通り綺麗に髪を結いましたけれど、王女様からそんなご要望があるなんて…もしかして気になる方でも出来たのですか?」
髪をお団子にして結んでいる黒髪の侍女が私の髪を綺麗に仕上げてから鏡の前でニコッとした。
「えぇ。」
「…えっ!?本当なのですか!?」
侍女は驚いて口を開いている。侍女の名前はアンナ。アンナは私が10歳になった時に一番最初に仲良くなった侍女だ。彼女は私の城に来て間も無かったから仲良くなれるだろうと思って私から仲良くなれるように努めた。今は友人のように相談に乗り合ったり出来るほど仲が良かった。
「嘘。…本当は将来を誓った仲なの。今日はその記念日でね…その方は覚えていないだろうけれど着飾っておこうと思って。」
私が首にネックレスを付けながら話すと、アンナは嬉しそうな顔をして私の手を取った。
「王女様にそんな方がいたなんて!それで、その方はどなたなんですか!?まさか、村一番の色男、ロイスとかいいませんよね?あいつは駄目です!顔は良くても王女様とじゃ身分も合いませんし、農業をしているのでいつも顔に土をつけて…はぁ、もうちょっと身なりに気を遣えばいいのですが。」
早口でそう話すアンナの口ぶりはまるで恋する乙女のように見えてクスッと笑った。
「違うわ。アンナには一番に紹介したいの。今日の午後は空いてるかしら?」
「はい。掃除に、窓拭きをしたら時間が空いてますので!」
「じゃあ、夕暮れの日が差し込む頃、私の部屋で。」
アンナと約束をした後、私は城を出てこっそり森の奥へと入っていった。
森の奥、洞窟の近くの木の下で林檎を一つ齧りながら猫を撫でているその人の後ろから「わっ!」と声をかけた。すると、驚いたのか猫は逃げ去っていき、赤髪の女性はこちらを振り向いてごくりと喉の音を鳴らして林檎を胃に流し込んだ。
「フィ、フィリア…!」
「魔女さん、少し遅れてしまいましたわね。支度にちょっと時間がかかって…。」
憂いたように言いながら、煌びやかなネックレスを見せつけるように背中の方へと手で髪を流す仕草をする。すると、魔女さんはゴホンと咳払いをしてハンカチーフを自身の隣に敷いた。
座れということだろう。
私はそれに甘えてゆっくりと隣に座り魔女さんの肩に頭を乗せた。
「今日は何の日か分かりますか?」
「……そんな着飾られて分からないわけがないだろ。あれだろ。あれ。」
落ち着かない様子の魔女さんに追い打ちをかけるように次は手を絡ませて繋いだ。
「あれって何の事を指してますの?」
「だ、だからあれだろ?…私達の」
「結婚記念日、ですわよね?」
すると、魔女さんは何か言いたげな表情をしてこちらを向いた。
「そうだけど…!あぁ、もういいや。面倒臭い。」
きっと私が先に言ったのが気に食わないのだろう。
「面倒臭いって酷いですわ!」
「そもそも、結婚記念日って言ったって、誓いを立てただけで正式には結婚してないだろ。」
そう言いつつも魔女さんは手を握り返してくれる。顔はそっぽを向いているけれど。
「正式な結婚だなんて、出来たらいいんですけれど。」
この国で、同性同士の結婚も、ましてや魔女との結婚だなんて許されるわけがない。
「でもいいんですの。私達、こうして愛し合ってるじゃありませんか。私達はあの日、結婚したんです。そういう事にしましょう?」
私が魔女さんの肩に頭を乗せたまま目線を送ると、魔女さんは「そうだな」と私の頭を優しく撫でてくれた。
「私、魔女さんのこと、皆さんに知ってもらいたいですわ。」
試しにぽつりと呟くように言ってみると、魔女さんは正面を向いたまま黙ってしまった。
「きっと分かって貰えますわ。皆さん、魔女がどんな存在なのか誤解しているだけですもの。私から話せば…」
「無理だ、フィリア。」
魔女さんは握る手の力を強めて口にした。
「私は誰よりも知ってる。古から魔女は恐れられてきた。王が国を統治するのが当たり前のように、魔女が忌み嫌われる存在であるのが当たり前なんだ。それを変えられるわけがない。」
きっと魔女さんは、今までも私が知らない所で、ずっと傷付いてきたのだろう。その苦しみを全て私が分かることは出来ないけれど、それでも、これから魔女さんが傷付くことがないようにしてあげたい。貴女の未来は、私と共に幸せになることだと証明しなければ。
私はもう幸せだから。乳母とも侍女とも村人とも周りの皆と仲良くなることが出来た。"追いやられた王女"からただの"王女"になることが出来た。だからきっと魔女さんも"忌み嫌われる魔女"からただの"人間"として暮らせるようになるはず。私がそうしてみせる。
「魔女さん、後で私の部屋に一緒に来てくれませんか?」
夕陽が窓から差し込んでチラチラと部屋の隅を照らしている。私はその近くにあるテーブルに座り、アンナが来るのを待っていた。
コンコンッ
ドアのノック音が聞こえる。
「王女様、アンナです。」
「入っていいわ。」
ドアが開き、アンナは私の目の前までゆっくりと歩いてきた。
「約束のお時間だと思い来ましたが、合っていたようですね。良かったです!」
嬉しそうにするアンナを横目に私は隣でぶっきらぼうに立っている魔女さんを右手で指しアンナに紹介した。
「今朝、紹介すると言っていたでしょう?彼女が私の愛する人で、将来を誓った人よ。」
簡潔に、事実を口にした。アンナは魔女さんの方を見てパチパチと二度瞬きをして黙り、私に目線を移して跪き、私の手を握った。
「王女様、女性の方と愛を誓われたのですね。」
アンナのその目は好奇心でもなく、同情でも哀れみでもなかった。
「駄目だと言わないの?」
「そんな事言えるわけがございません!王女様が愛された方ならば性別を問わずして私は応援致しますから!」
これで魔女だと言えばどうなるのだろうか?
不安で一瞬決意が揺らいだが、私は勇気を振り絞って話を続けた。
「アンナ、あのね、魔女って分かるかしら?」
「えぇ、勿論存じております。」
「…魔女は恐ろしいものだと昔から言われてきたでしょう?でもね、本当は違うの。ただ人とは違って魔法を使えるだけ。心は私たちと同じ、人間と一緒で傷付いたり、人を傷付けたくないと思っているのよ。」
「………」
アンナは私の話を真摯に聞いてくれているようだった。
「彼女はね…魔女なの。」
私がそう言うとアンナは驚き「えっ!?」と声に出したが、その後は何やら深く考え込むように視線を逸らしてしまった。
「私は魔女さんを愛してるの。お願い。魔女さんは皆を傷付けたりしないから、アンナからも皆にそう伝えてくれないかしら?私と一緒に。」
魔女さんは私の片方の手を握った。私はそれに驚いて魔女さんの方を見つめていると、アンナはそんな私達の様子を見て立ち上がり頭を下げた。
「勿論です王女様。私からも他の皆に魔女の噂は間違いだと伝えましょう。」
「本当に!?」
「はい。心優しい王女様が私を呼び寄せて言うほどなのですから、そうなのでしょう。魔女は恐ろしくないと。そして、王女様は魔女様と愛し合っているということ、私アンナは応援致します!村の人も皆、話せば分かってくださるはずです!」
「ありがとう、アンナ。」
ふと隣の魔女さんを見ると、魔女さんは私を見て手を握ったまま微笑んでくれた。魔女さんの気持ちは分からない。まだ不安かもしれない。でもきっと認めてもらえるから。大丈夫。
私も魔女さんに微笑み返した。
こうしてアンナから城に務める執事や侍女、乳母に村人たちまでに私の話は伝わり、堂々と魔女さんを城に招いて仲良く過ごしていると、日を置いて徐々に認められるようになった。皆、魔女さんを受け入れてくれたのだ。
「祝福されるって良いですわね。」
天気の良い午前、庭園で魔女さんと手を繋ぎ散歩をしていてそう言った。心からそう思ったから。
「あぁ、そうだな。…幸せだ。ありがとうフィリア。」
魔女さんは私のおでこにキスを落として、くしゃくしゃと髪を撫でた。私はそれが心地良くて魔女さんの腕に抱きついた。
幸せだ。
私は生きてきて今一番幸せだと感じているかもしれない。
私達の愛が愛でないと言うならばなんだと言うのだろうか。
これから誰に否定されようとも、皆が私達を認めてくれて、魔女さんが隣にいる。それが全てだと思った。
「魔女さん、後で村の皆さんに午前の挨拶をしに行きましょう!」
「挨拶?」
「えぇ、挨拶ですわ!皆さんの顔を見て挨拶をすることで、より繋がりを感じれると思いますの!」
魔女さんの幸せはそこにあるはず。
「さ、行きましょう!」
少し面倒臭そうに頭をかいた魔女さんの手を引っ張って村の方へと歩き進んだ。
それが二人の幸せな未来の為だと信じて。
投稿するか迷っていた話になりますが、読んでいただいた方ありがとうございます。
また感想、レビュー頂ければ幸いです!お待ちしてます!