第41話 一人芝居
舞は今日、主演をつとめた映画の舞台挨拶があるらしい。
テレビの芸能ニュースでさっそく取り上げられていた。
俺は外に出られないので、もちろん映画館にも行けない。
ああ、舞の新しい映画、早く家でも観られるようになってくれ〜。
舞とよく行った映画館を思い出すな。
隣に座って、ポップコーンを二人で食べながら映画を観た。
怖い映画の時は、舞は俺を安心させるように手を繋いでくれた。
悲しい映画で俺が泣いている時は、舞が慰めるように俺の太ももを優しく撫でてくれたっけ。
その舞と一緒に何度も通った映画館で、舞が主演の映画を初めて観た時の感動は忘れられない。
周りのお客さんたちが、スクリーンに映る舞の美貌にうっとりしているのが雰囲気でわかった。
俺は「どうだ、あの主役の女優が俺の彼女なんだぞ!」と、叫びたい気持ちだったが、もちろん我慢した。
舞が帰宅。
「舞〜! おかえり〜!」
「ただいま〜、公介」
さっそく舞に抱きつく。
「舞、舞〜」
「ん〜、可愛いわ、公介」
舞に甘えてから、映画の話をする。
「舞、ニュースで見たよ。映画の舞台挨拶」
「ええ、お客さんの反応もいい感じでよかったわ」
「おもしろそうな映画だもんな〜」
「公介は観に行けないものね……う〜ん」
「舞、気にしなくていいんだぞ。家で観るのを楽しみにしているからさ」
「そうだ! 映画の内容を一人芝居で表現してあげるわ」
「ええっ……いや、それは観てみたいけど、仕事で疲れてる舞にそんなことしてもらうのはな〜、申し訳ないよ」
「大丈夫よ。ストーリーは短くまとめて芝居するから」
「それならいいか……じゃあ、お願いします」
お菓子とジュースを用意して、俺はソファーに座り、舞がその前に立つ。
一人芝居が始まる。
国民的アイドルで、大きな映画祭で賞をもらったこともある女優に、一対一で芝居を観せてもらうなんて、なんて贅沢なんだろう。
「ふう……ありがとうございました」
汗までかいて熱演してくれた舞が、丁寧にお辞儀する。
「舞、素晴らしかったよ。感動した!」
俺は涙を流しながら拍手した。
「うふふ、よろこんでもらえてよかったわ。公介……」
舞は俺の涙を拭うと、優しくキスをしてくれた。
国民的アイドルの、一人芝居を堪能させてもらった……。




