第216話 口移し
夜。
舞が仕事から帰ってきた。
「公介、今日は高級なお肉を買ってきたからね。ステーキにして、一緒に食べましょう」
「やったー!」
というわけで、舞が焼いてくれたステーキを食べる。
「いただきまーす。もぐもぐ、美味しいぜ!」
「ふふ、よかったわ」
舞とおしゃべりしながらステーキを食べる。
「ねえ、公介、お願いがあるんだけど……」
「なんだ?」
「このお肉なんだけど……」
「もうお腹いっぱいなのか? 残ったの食べてやろうか?」
「いいえ、公介に食べさせてほしいの」
「いいぞ、はい、あ〜ん」
「そうじゃなくて」
「え、どういうこと?」
「ほら、あれよ、あれ……」
「あれ? ああ、あれか!」
「うふふ、お願い」
子供の頃、舞と一緒に観た映画で、弱っている主人公がご飯をヒロインに口移しで食べさせてもらうシーンがあった。
舞はこれを気に入って、たまにおねだりされる。
「オーケー、まかせとけ!」
「お願いしま〜す!」
俺は舞の分の肉を口に含み、もぐもぐ咀嚼する。
舞を抱きしめてキスをする。
そして、口移しでお肉を食べさせてあげる。
「あむ、もぐもぐ、美味しいわ!」
「それはよかった」
国民的アイドルが、男が咀嚼した肉を口移しで食べさせてもらっているとは、誰も思わないだろうな。
「公介、おかわり〜」
「わかった、もぐもぐ……」
残ったお肉を、全部口移しで食べさせてあげた……。




