第198話 箸
舞がアイドルになる前の日常。中学生の頃の話。
学校の昼休み。
舞と一緒に教室で弁当を食べる。
「あれ、マジかよ……」
「どうしたの、公介?」
「いや、弁当に箸が入ってないんだよ。母さんが入れ忘れたんだな」
「あらあら」
「しょうがない、シャーペンで食うか……」
「あはは、本当に?」
「はは、冗談だよ」
「大丈夫よ、私が食べさせてあげるわ」
「お願いしま〜す」
舞がせっせと俺に、昼ご飯を食べさせてくれる。
「はい、あ〜ん」
「あ〜ん、もぐもぐ、舞も食べろよ」
「ふふ、わかってるわ。はい、あ〜ん」
「もぐもぐ、舞、お前の弁当も俺に食わせてるぞ」
「わざとよ。それ美味しいでしょ?」
「うん、美味しい!」
俺の母さんの弁当も、舞のお母さんの弁当も美味しいぜ。
「舞、あ〜ん」
口を開けて次を待つ俺。
「はいはい、あ〜ん」
「あむ、もぐもぐ。はは、なんか俺、鳥の赤ちゃんみたいだな」
「ふふ、じゃあ私は鳥の親みたいに、口移しで食べさせてあげましょうか?」
「い、いや、さすがに学校でそれは……」
「うふふ、冗談よ。はい、あ〜ん」
「あ〜ん、もぐもぐ、美味しい!」
「私はすごく楽しいわ」
舞に昼ご飯を食べさせてもらった。