第10話 号泣
舞の出演した映画やドラマは、もちろん全部観ている。
そこで問題になってくるのは、作品によってはイケメン俳優たちとのラブシーンがあることだ。
だが、そういうシーンを観ても俺は嫉妬したりしない。
舞はこれまでずっと、俺のことを愛して、可愛いがって、お世話をしてくれたからな。そんなことでいちいち嫉妬していたら舞に失礼だ。
まあ、もちろんいい気持ちではない。
だから、そういったシーンがある場合は、あらかじめ教えておいてもらって、心の準備をしてから観ることにしている。
だが、あらかじめ教えておいてもらっても、心の準備をしていても、耐えられなかったシーンがある。
それは、舞が演じる女性が死んでしまうシーンだ。
前にドラマで、重い病気で余命がわずかと知りながら、それでも前を向いて強く生きる女性を演じたことがあった。
その女性はドラマの最後に、家族や友人に見守られながら亡くなってしまう。
俺はその悲しい結末をあらかじめ教えてもらって、心の準備をしていたにも関わらず、舞が死ぬシーンを観たあと、涙が止まらなくなってしまった。
そのあと舞に会ってドラマの感想を話している時にも、俺は号泣してしまった。
涙と震えが止まらない俺を、舞は優しく抱きしめ、慰めてくれた。
「もう泣かないで、公介。あれはドラマなんだから、ね?」
「うん、でも、でも……ううっ」
「ほら、おいで、公介。安心するまでこうしててあげる」
「舞……ぐすん、舞〜っ!」
舞は、俺が泣きやむまで、抱っこしてなでなでしてくれた……。
というわけで、舞が死んでしまうシーンは、事前に知っていても、心の準備をしていても、耐えられないことがわかった。
それ以来、舞がドラマや映画で死ぬシーンはまだないが、あってもたぶん観れないだろう。