婚約破棄されたけど、その後の求婚者が大渋滞
「ジョアン! 君との婚約を破棄する! そしてこのピンクブロンドのマリー男爵令嬢と真実の愛に生きる僕レナード18歳の王太子」
さぁ説明的なセリフから始まりました。今宵の夜会の婚約破棄! 私はジョアン。16歳の公爵令嬢。
突然の王太子殿下からの婚約破棄に息がつまりそう。
そんな。家と家の繋がりのための政略的な婚約といえども、王太子殿下の勝手が許されていいわけないのに。
私は……私はこれからの未来どうしたらいいの?
「だったら俺が立候補してもいいかな?」
「じゃ俺も」
「私も」
「僕も」
「ばってんがおいどんも」
えええー!? いったいなにが起こったの? 殿下に婚約破棄されたとたん、あちらこちらで手があがって、求婚され始めたんですけど?
今宵の夜会は各国から高貴な方々がお見えになっている大パーティー!
この中には王太子さま以上のいい男がいたりして? こりゃ運が回ってきたー!
でも私、外国の方とかあまり知らないのよね……。
「お嬢様。私が説明いたしましょうか?」
そういってきたのは銀髪、銀縁メガネの執事のクラウンだわ。当年とって28歳。彼が知らない人を教えてくれるのね。助かるぅ。
クラウンは手を上げて一人一人紹介してくれた。
「まずは左の一番奥の席。隣国の皇太子殿下、カミーユ様」
「よろしく、お嬢様」
あら。隣国の皇太子と言えば我が国よりも大きい国だわ。イケ顔だし、クールな感じがいいわね。こりゃ候補でしょ。
「その隣におわしますのが、獣人の王ヴォルフ様」
「コンニチワン。人間の姫よ。我が国に来たら四番目の妃にしてあげる」
うぉい! もう人でないのが出てきたよ? 早すぎない? 犬顔だし、そんで四番目って。一番目じゃないのね。でもモフモフの体毛の下は筋肉質でフェロモンがプンプン。男の人にはわからないみたいだけど、女を誘うなにかが出てる。動物怖い。誘惑されそう。
「お隣、地獄の帝王ヴィスターク陛下」
「ウェーハハハ。ワシの年齢、十万二十四歳。お前ら人間は全て私の奴隷になるのだぁー!」
物騒! なにこれ。地獄の帝王って、地上の人でもないのね。十万二十四歳! ……つまり二十四歳ね。
「そして、宇宙皇帝シブゥ・タルタリィン陛下」
「こんにちわお嬢さん」
げぇ! 宇宙皇帝なんて人が出てきちゃったよ。シワだらけの老人だし。なんでこんな人まで?
「こちらはギターの神様、サミー・ジンドラクスさん」
「あなたにこの曲を捧げます」
いや神様いうてるけど。平民でしょ? カリスマ性はあるだろうけど。
えー、こん中だったら隣国の皇太子カミーユ殿下しかいないじゃん?
「カミーユ殿下は女性ですけどね」
「はぁ?」
そう言えば某アニメの人は、「女の名前」って言われてキレてたもんね。つか皇太子って……女性でもいいのかぁ。皇位を引き継げば。女性が女性に求婚。そういう世界の人ね。異文化はわからない……。
えー、じゃあまともなのギターの神様しかいないじゃないのぉ。他にいないわけ?
「くっくっく。では私も名乗りを上げさせて貰おうか」
「う! この臭いは! フルーツの王様! ドリアン!」
いや王様だけれど。王様だけれども。なんだフルーツの王様って。フルーツじゃん?
「ふん。貴様がフルーツの王様など、片腹痛いわ」
「あ、あなたは! フルーツ王国、福島!!」
いやいやいや……。なに、福島って。地方名じゃない。しかもフルーツ王国を僭称るのは山梨、山形、岡山などたくさん。そのなかで、わざわざ福島を選ぶのは筆者が福島出身だからだわ。
なによぉ。もう人がいないじゃない!
「だったら、我々四王も仲間に加えていただこうか」
よ、四王ですって?
「まさか! あなたは! 毎日歩いてます。ウォーキング!」
「日々の健康のため、毎日続けましょう」
「休みには家族でお出かけ。ハイキング!」
「バスケットにはサンドイッチをつめてね」
「脱がすの大変。ストッキング!」
「脚線美をお見せしましょう」
「なろう不正の温床。ランキング!」
「あくまでもウワサです」
いやキングはつくけど。つくけれども~。どれもこれも王ではないから。それに別に高貴なのを求めてるわけじゃない!
「いったい誰を選ぶんです、ジョアンどの!」
「僕ですか?」
「私でしょ?」
「ばってんがおいどんできまりたい!」
いや九州キャラいた? あん中に。いないの出てこないで。ただでさえ渋滞してるんだから。
「「「さぁさぁさぁさぁ!!」」」
うう。こいつら全員で手を出してきた。つまり婚約者にするものの手を握れってことだろ? かくなる上はッ!
「ごめんなさい」
「ごめんなさいだぁ」
私が謝ると、すかさずクラウンが同じ言葉をアナウンスした。そして私にマイクを向ける。
「どうして『ごめんなさい』でした?」
「うーん。私はもっと背が高くて包容力のある人がよかったかな?」
手を出してきた人たちをみると……悲しそうだ~。でもホラ。みんな若いし、これからよ。ウン。
「「「チックショーーーッ!!」」」
えー!? 突然みなさんが涙を流しながら怒り出したわ! きっと悔しいのね。私もさっき婚約破棄された身だし。わかるわかる。
「こうなったら、このピンクブロンドの男爵令嬢は地獄へ連れていく!」
「え? なんで私が!?」
「お前、性格悪そうだからいい悪霊になれるぞ」
「そんなんなりたくない! あー!!」
あら。ヴィスタークさんに、男爵令嬢の……ナントカさんが連れていかれちゃったわ。もう名前覚えてない。
「じゃワシは腹いせに王太子殿下を宇宙に連れていく!」
「なんで? うわーー!!」
あらー! 王太子まで。たまにはこんなざまぁもいいわよね。ざまぁ完了です。
「じゃ、私はこの人を」
「僕はこのかたを」
「俺はコイツを」
「ばってんがおいどんも」
あらあら、なんかみなさんムカつきすぎて、王族のかたがたを連れ去ってしまったわ。
私の回りにはほとんどの人がいなくなったところにクラウンが近づいてきた。
「どうやら王族や貴族のかたがたが連れ去られ、計算してみますと、お嬢様に王位継承権が回ってきたみたいです」
「え? だって私、公爵の娘なだけだけど?」
「はい。王家の血統が残ってるのお嬢様だけなので」
「あらま、じゃあ私は女王?」
「はい」
「ではクラウン。女王の命令よ。私の夫となりなさい」
「女王の命令とあれば仕方がありません。このクラウン、陛下に一生お仕えいたします」
というわけで、私は新国王として大好きなクラウンと一緒に国を盛り上げていくこととなりました。どうぞよろしく!