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26 モウ・フィー

ここは“モウ・フィー”。

“マイ・ノカス”から北東に4日ほどいった街である。

“マイ・ノカス”のような交易地でもなく、“グラノス”にある衛星都市のひとつにしか過ぎなずない。

だが東西に伸びる公路の一宿場町的存在であったため、宿屋や酒場などの歓楽街が比較的目立つ街だ。

その夜、歓楽街のあからさまにきわどい服を着た娘が音楽に合わせて踊る店に、どこかで見たような男が入り口で立っていた。

4日前にケイバン達に近づき、古城脱出後、いつの間にか姿を消していたアムルであった。しかし見た目は同じなのだが、今は少し違う雰囲気を纏っていた。

そのアムスが躊躇なく店に入り、見回して踊り子に一瞥もくれずに眼帯をつけた男の席に近づいた。

近づいたアムスは眼帯をつけた男に軽く頭を下げて、向かいの席に座る。

眼帯をつけた男はそんなアムスに気遣う様子もなく、ぶしつけに言葉を発した。


「リブル、どのような状況だ」


眼帯をつけた男が相手に聞こえる程度の野太い声で話しかける。


アムスは、リブルという名前に呼応するかのように“はい”と短く答えた。

だがアムスはそこで言葉を打ち切り、給仕人を呼んで麦酒の追加を指示する。

眼帯をつけた男の大きな手には麦酒の入ったジョッキが握られ、残すところあとわずかであることに気付いたからだ。


眼帯をつけた男は満足げに笑みを浮かべて、話の続きを催促した。


「はっ、二人の冒険者と子ども一人がベッキア伯爵とパトキシュア伯爵のエイトラン(傭兵)とザウバー(私設騎士団)に追われている模様。一度は捕縛されましたが、うまく抜け出せました。あと冒険者側には“レイア・ド・アコースギルド”の“シスレィ”が加わっております」

恐縮した雰囲気でアムスが話す。


リブルの話を聞き終え、しばらく腕を組み思考して眼帯をつけた男はその口を開いた。


「冒険者ならば別に問題なかろう。しかし“シスレィ”?・・・聞いたことが無いな。腕は立つのか?」


眼帯をつけた男は一度目を閉じ見開いた後、残された瞳をアムスに向けた。

その瞳は蒼く静かな瞳ではあるが、見たものを射抜くような鋭さがあった。


アムスはそのような目にも臆することなく即座に返事をした。


「はい、集めた情報では、ここ近年アコースで上位ランクの“パーティーになっている模様で、女ばかりの“パーティーだそうです。腕もさることながら容姿も及第点かと……」


確かにアムスは“シスレィ”の戦いを見たわけではないが、その話の裏づけは直にあっているため必要はなかった。

“パーティーの本質を見抜くことは、しばしの時を共に過ごせば容易である。

わずかな時間でも若干年齢が若く経験不足の者もいるが、それを補ってなお余る統率力と技量は見て取れた。

アムス自身の感想としても“パーティーとしては十分に優秀であった。

そして何よりも4人とも女性で、華やかであるところが気に入ったのだった。


「女ばかりの“パーティー?・・・ほう、めずらしいな。お前にそこまで言わせるとは、見てみたいものだの」


やはり眼帯をつけた男の関心もそこに向いた。


“ヴューラー”の中で、女性が特に少なくないとはいえない。むしろ4割ほどは占めていた。それでも一つのパーティーには多くても2人である。

理由はやはり力の面では、どうしても要求される能力が足りないからである。

そのため後衛に回りサポートに徹する者も多く、攻撃型の冒険者はそう多くはなかった。

その為に4人全員が女性というのは稀有な存在であり、ましてや上位ランクの“パーティーであることは、余程の技量を持った“パーティーであるか、ギルドの質が低いかである。

もちろん前者であると理解したのは、揺るがないアムスへの信頼からであろう。


リブルは給仕人が運んできた麦酒を受取ながら声を弾ませた。


「こちら側に引き込みたいぐらいですよ」


それはアムスの本心であった。

また眼帯をつけた男も軽く頷きながら麦酒を受取った。

その表情はいくらか緩んだようだった。


「それもよいかものう。して、冒険者の二人の方は?」


「ソルとケイバンと名乗っておりました」


「ソルに、ケイバン・・・」


眼帯をつけた男は、話をソルとケイバンへと向けた。

アムスが発したソルとケイバンの名を頭の奥から引っ張りだそうと腕を組んで考え込む。

聞かれたソルも当初は見たままを話すつもりであったが、今のこの場ではその気持ちが揺らいでいた。

それは二人ともアムス自身も見定められなかったからである。

冒険者としては優秀であることは分かるが、そのほかの部分が掴みきれなかったのである。

彼らほどの冒険者ならば名が知れるか、その手の噂が流れるはずである。

それが何も出てこないことが奇妙に思われたのである。

その為、今は伏せておくことにした。


「どちらも根無しの冒険者のようでした。何か気がかりでも」


眼帯をつけた男の詮索を中断させようと軽く口を挟む。


それが功を奏したかのように眼帯をつけた男は応える。


「いや・・・。パーティーも付いているとなれば“箱”の当面の心配はなかろう」


眼帯をつけた男もソルとケイバンの名に何か引っかかるものを感じながらも、“箱”という言葉を口に出した。

その言葉に続いてアムスも軽く頷いて見せた。


「はい。ですが、もしものことがれば・・・」


「いや、答えが出るまでは控えよ」


アムスの助力を促そうとする言葉を途中で遮り、眼帯をつけた男は先に釘を刺す。

遮られたアムスは口を開けたまま眼帯をつけた男を見つめていたが、無駄であることを悟ると静かに頭を下げた。


「わかりました、お心のままに」


「うむ、すまぬが耐えてくれ」


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