24 エグゼバ・ファマリース
「見事な“オゥーガー・ズ・ディレイ(属性効果最上級技法)”。風の属性か? まあ、もうよい。ここでお開きだ。これで取り調べの手間が省けた。“ジュイ・ニーザ”の傭兵とはいえ、ミリスは公職を担う身。それを襲うとは、明らかにわが国への反逆であるな」
教会の方ではなく、森に通じる小道の方から大声で叫ぶ者がいた。
それまで戦いに集中していたケイバン達が一斉にその声の主に目を向ける。
森の中からいくつかの影が現れる。
暗闇から星明りの下に現れたのは豪華な装いの集団であった。
その身は金や銀の装飾品であろう、なびくマントや兜からは星明りが反射し、キラキラ光っていた。
これで怒鳴り声や下品な笑いがなければ正義の騎士団であったであろう。
そしてケイバンが目を凝らすと見知った男が先頭であった。
紛れもない、白地のマントと銀の鎧を纏った男、エグゼバであった。
その後には盾に赤地に白の“マイ・ノカス”の紋章を携えた集団が続いていた。
「ははっ、反逆とは、おおげさな・・・。反逆だってよ、ケイバン、どうする?」
露骨なでっちあげに、横でケイバン達の戦いを観戦していたソルがエグゼバにも聞こえるように大きな声で問いかける。
ケイバンもミリスに向けた剣を解いて、エグゼバに向き直る。
「なんのことだかわからんが、おもしろい。たかが“グラノス”。我が願いは“ジジャの首”なれど、この国が反逆に値するか我が剣で推し量ろう」
当然のごとくケイバンは、“大剣ジジャニール”をエグゼバに向ける。
「“ジジャの首”とは呆けたか?しかし、たかが“グラノス”とは、侮辱にもほどがあろう・・・、よほど命がいらぬとみえる。かかれぇ!」
ケイバンの言葉を世迷言とし、エグゼバは突撃を命じた。
ここで言う“ジジャの首”とは“エル・ドゥ・オゥーガー(八大オゥーガー)”であるジオ・ジジャ・ネイル(疾風竜)を指しているが、エグゼバや一般的な認識としてすでに“ジジャ”はこの世にはいないとされている。
だからケイバンの言葉をエグゼバは馬鹿にしたのだが、ケイバン本人にとってはいたって真面目な話であった。
「おいおい・・・、敵さんを怒らせてどうすんだよ」
これを見たソルは、おどけた調子でケイバンをなじる。
だが慌てた様子も無く、むしろ楽しんでいるかのようでもあった。
またケイバンはその問には直接答えず、“大剣ジジャニール”を中段に構え大きく息を吸い込む。
「ソル、“ディレイ(属性効果技法)”を撃つ。その隙にクリスを連れて行け」
そう言うが早いか“大剣ジジャニール”を大きく左に回転させた。
ソルは頷き、敵に捕まったままのクリス奪還のタイミングを図る。
ミリスは負けたショックか、痺れがとれないのか、いまだに手足をついたままこの様子を静観していた。
その時、マロア(馬)のいななきと共に4騎のマロア(馬)がエグゼバ達の後方より現れ、そのまま騎士団の中へと疾駆する。
「うぉおおお!」
「うわぁああ!」
4騎のマロア(馬)は数人の“エグノア”の騎士を跳ね飛ばし、慌てふためかせた。
そして4騎の中の一人が叫ぶ。
「ケイバン様」
「むん!」
その聞きなれた声にケイバンは“ディレイ(属性効果技法)”の動作を停止させた。
4騎のマロア(馬)はモデナ達、“シスレィ”であった。
4騎の後ろには2騎のマロア(馬)が引かれていた。
「分けぇぇい!」
大声と同時にケイバンは、手振りで前を開けるように指示する。
“シスレィ”達はそれを察し、急ぎマロア(馬)の方向を変え、ケイバンの前を空ける。
ケイバンはおもむろに半身を開き、腕を後方にずらし、剣先を地に着け、顔だけを相手に向けほぼ体が横を向いた状態になる。
「む」
まだ混乱している“エグノア”の騎士達に叱咤していたエグゼバだったが、ケイバンの異様な構えに警戒心を沸き立たせる。
「“ディレイ”か」
“エグノア”の騎士たちの中で何人いたであろうか、同様に警戒したものが。
だが、“シスレィ”達による混乱は、その名が示す“そよ吹く風”どころではなかった。
「道は開けてもらう、ふん!」
未だ混乱収まらぬ“エグノア”に向け、ケイバンは溜めた力を一気に剣に伝え、後ろから左上方へ振り上げ、そのまま後方へとまわし、剣速をさらに加速させ、右から真上へ切り上げる。
「こっちだ!」
“大剣ジジャニール“が振り切られたのを見て、ソルが“シスレィ”達に合図をする。
そして“シスレィ”達が連れてきたマロア(馬)にすれ違いにそのまま乗ると、クリスの元へ疾走した。
切り上げられた大剣ジジャニールは、耳を塞ぎたくなるような高い音と共に一陣の疾風を走らせたかと思うと、烈風が真っ直ぐ騎士団中央のエグゼバに砂塵を巻き上げて向かう。
「そんな!・・・ばかな!・・・“エル・ドゥ・オゥーガー”級だとぉおおお」
烈風はその延長線上にいたエグゼバ・ファマリースと騎士数人を巻き込み、マロア(馬)ごと吹き飛ばす。
エグゼバ達は後方に飛ばされ、残された騎士達はそれぞれ目を覆っていたり、地に伏せてたり、あるいは呆然としていたりしていた。
エグゼバは“エル・ドゥ・オゥーガー”級と言ったが、今の技は力を解放した“オゥーガー・ズ・ディレイ(属性効果最上級技法)”にしか過ぎない。
エグゼバの知識の足りなさが招いた誤解だ。
そんなことに気も留めず大剣を振り抜いたケイバンは、エグゼバ達の大半を戦闘不能にしたことを確認するかのように大きく一息つく。
次いで振り向くと、クリスを抱きかかえてマロア(馬)に乗るソルや“シスレィ”が近かよってくるところであった。
クリスは眠らされているようだ。
そこへソルが親指を立てて、“大丈夫”という意味であろう、そんな仕草をした。
ケイバンはその様子に安堵し、近くに未だ片膝を着き、悔しそうに睨むミリスに目をやる。
「まだ、首はやれんよ。やるべきことがあるのでな。だが、相手にはなってやろう、人質ぬきでならな」
そう言葉を残し、チェシャから差し出されたマロア(馬)に乗り、“エグノア”の騎士達のうめき声をあとに反対の方へと走り去っていった。
そしてケイバンたちが去った後、森の中でエグゼバ・ファマリースの怒声が響き渡った。
この話でいったん一区切りとなります。
この続きは60話くらいまではフレームは作っていますので、
しばらく時間を頂いた後、再開をしたいと思います。




