16 マイ・ノカス
4日間かけて、ケイバンとソロは“アコース”の東、ドゥラー山脈を抜け、“マイ・ノカス”に着いた。
“マイ・ノカス”は“シェンツィ・グラノス(熱き国)”と“アイン・ガ・レイア(アイン国家連邦)”の国境付近の町で“シェンツィ・グラノス”領であり、国境の州“デニム・ナーガ”の中の主要都市でもある。
その規模はおよそアコースの倍はあるであろう。
遠くから見ても大きな街である。
また港には何隻もの“バスケス(大型帆船)“が見え、商業的にも賑わい、見た目にもアコースよりも発展している印象を受ける。
ここまでに至る道は山道、間道も併せれば多くのルートがあるが、下手に人影の少ない道などを通れば命の保障はない。
商人や旅人が安全に移動するのであればやはり公道であろう。
アコースから公道を使って行くのであれば、“アイン・ガ・レイア”領国境付近の町の“ムーヒー”に一旦進路を進んで国境を越える必要がある。
それから先は“シェンツィ・グラノス” 領国境付近の町の“ジュイ・ニーザ”を経由して、“マイ・ノカス”に通じる公道が整備されているが、遠回りになるのでその距離およそ500kmにもなる。
そのためケイバン達は、危険なドゥラー山脈の山道を使った。
山道は険しい山道でもあり、魔獣達の闊歩する場所でもある。
ベテランの冒険者でさえ気を緩めることはできない道だ。
そんな道をケイバンとソルは何事もなく4日間で走りぬけた。
国境から続く山地を抜けるとなだらかな斜面が海岸線の手前まで続き、道は街の方へと向かう。
街並みは中心に向かって所狭しと白い壁にこげ茶色の屋根が乗った家が建ち並んでいる。その向うには日の光が反射する海が見え、いくつかの船も行き交っているようだ。
海をバックにしたその風景は、これらのコントラストが絵のように美しく見え、旅人ならば誰もがその足を休め、見とれてしまうほどであった。
街の造りは西に“ブーラ河”が、北から南の“恵みの海”に流れ込み、河口寄りのマイ・ノカス城を中心部に半円状に広がっていた。
また区画整理もされており、“ザシュ・マイ・ノカス(マイ・ノカス城)”を取り囲む様に港や商店街、織物工房郡が配置されており、都市と呼ぶのにふさわしい街並みであった。
さらに街の中に入って様子を伺うと、家の造りはもっと奇妙であった。
壁は白い石を積み上げて家自体が円筒の筒のようで、その筒を横に重ねたような状態であり、その上には薄く切りだした石を円錐状に並べられて造られた屋根はがあった。
この並んでつながった“キノコ(タキーノ)”を連想させるが建物が、いわゆる“タウリ”と呼ばれるこの地方独特の民家であった。
また他の建物には四角いものアコースの街にもあるような建物も見受けられたが、ほとんどがこの形だった。
やがて海岸に向けて、立ち並ぶ“タウリ”の間の狭い路地を抜けていくと、すれ違う人も多くなり、緩やかな傾斜から平地になる頃には道も広くなる。
やがて道端で食材や雑貨などを売る出店のようなものが多くなってきた。
約束の日まで2日以上あるため、ケイバンたちは一旦、街の中心部から外れたところに宿を取り、手分けして街の様子を探ることとした。
「ケイバン、ディバレンスから貰った紹介書もあることだし、俺はギルドを当たってみることにしよう」
「そうしてくれ、私は中心部を覗いてくる」
そういって二人は別れケイバンはそのまま道に沿って街中を行くことにした。
街中は中心部に近づくほど賑やかになる。さすがに馬に乗ったままでいることは難しくなり、途中で降りた。
ちょうど、商店が軒を連れる場所の中心に来たあたりだろうか、大声が上がる。
「どけぇい・・・」
賑わう人垣がざわめきと共に割れ、我先に人が道の端に寄っていくのが見える。
人垣よりも一段高い位置に馬の首と鎧を着た者が見えた。
『ほう、あれが“マイ・ノカス”の騎士団か』
兜の下に骨太そうないかつい顔立ちと見下すような冷たい目をした男を先頭に10騎ばかりがその後に続く。
どれも皆、鎧やマントに光を反射させ、遠目にも装飾をちりばめた重甲冑であることがわかった。
ケイバンにしてみれば、なんと実用性がない下品な甲冑ということになるのであろう。
「店主、つかぬ事を聞くが、あの先頭が隊長なのだろうか?」
ケイバンは先頭の長い槍を携えた男を指差して、傍で果物を店先に並べていた店主に聞いた。
人が端に寄せられ、ひしめき合った道端であわてて売物を店主は必死に守っていた。
「ああ、そうだよ。親衛隊“エグノア”のエグゼバ・ファマリースさあ」
「親衛隊? 店主、あれが私設騎士団というのか。随分、派手だな」
「だろう。領主様の趣味なのか、奴らの趣味なんかわからんが、着飾らんと威張れないらしい。おいっ! こらっ! 押すな、こらっ!」
先頭以外の騎士は防具を統一し、三角の旗を槍の先に結び旗めかせ、盾には赤地に白の“マイ・ノカス”の紋章が彫られていた。
アコースに私設騎士団はないが、少なくとも“アイン・ガ・レイア(アイン国家連邦)”で見られる私設騎士団でさえもここまで派手ではない。
他の国でさえもここまで派手なものは見たことがなかった。
「なんじゃ、お前さんこの街は始めてかいの?」
「今日着いたところだ」
「お前さんも領主様の所に仕官かの? 最近、おおいからのう」
確かにこれだけ私設騎士団が派手ならば懐の暖かい領主であろう。
これならば仕官したがる奴が押しよせてもおかしくはない。
そんなことを思いながらケイバンは話を続ける。
「いや、北へ向かう途中だ。そんなに多いのか仕官の者が?」
「ここ何ヶ月かの間だがの。ここのところ奴らのような者を増やしているそうだ。しかし、たいがいは“狩り”をしばらくさせられてるって話だ」
「そうだろうな、そんなに多ければ、“狩り”ぐらいなものだな」
仕官を望む者とはいえ、私設騎士団もいろいろである。
“狩り”でふるいにかけることは妥当なことだ。
もともと“狩り”自体が騎士の能力を測る目安の一つであることを考えれば当然であろう。
「確かにそうだろうが、消えた奴が多いって聞くがな。俺たちには“狩り”なんて到底無理だからわからんが、危険なんだろ? 見たところあんたも“冒険者”か“傭兵”みたいだが」
マント姿に首襟から飛び出している大剣の柄を見て、店主はそう思ったのであろう。
しかし、“冒険者”でなく、“せめて国家騎士ぐらいのお世辞ぐらい言ってもいいものであろう”とケイバン自身は思ったが、さすがに無精ひげ姿では“冒険者”と言われただけでも十分であろう。
「まあ、端くれみたいなものだ。・・・“消えた”というとどのくらいだ?」
「さあ、10人ぐらいだろか、俺も噂で聞いただけだからなあ」
「10人・・・。それは多いな」
確かに多い数字である。
“狩り”自体、相手が相手だけに命を落とすものだが、10人は多すぎる。
「だろ、だから噂になっているんだよ。何かのとんでもないのが出てるって」
「とんでもないか・・・」
そうケイバンはつぶやき、一瞬、オゥーガー(竜種)という言葉がケイバンの頭に浮かんだ。
しかし、オゥーガー(竜種)ならば大騒ぎになっているはずである。
今はそんなことには構っていられない。
それよりも私設騎士団員を増やしていることが気にかかっていた。
ケイバンは軽く礼を言って人並みにもまれながら、その場を後にした。




