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13 ノア

それはちょうど、ソルが“ガッソ”の群れに“バンベル(携帯爆薬の矢)”を打ち込んだころであった。


「いよいよかあ~」


クリスは、ソルの“バンベル(魔弾ついた矢)”に始まった別働隊の攻撃を先ほどの盆を見渡せる場所から見物していた。


すでに盆地内も日の光に照らさ、れ半分以上はその強い日差しが降り注いでいる。

斜光によって山の谷間でも形がはっきりし、草木の色も緑だけではなく微妙な色合いまでもが鮮明となってきていた。

ここからならば“モレイラ”の数でさえも数えられた。

川の下手に目を向ければ川を渡り、すでに戦闘を始めた集団が見えていた。

あの中に“シスレィ”の人達がいることを思うと、クリスは思わず力が入った。

それは、いつかは自分もあの中に“入るのだ”という思いとともに“入れるのかな”という不安もあったからだったのかもしれない。


その興奮のままに今度は自分の父親がいるであろう方向に目を向けた。

ユニ・オ・ロンガ(ロンガの鼻)から先に広がる草の海。

その草原の先には川があり、その手前で2騎のマロア(馬)と二人の影が見えた。

ここからでは表情までは読み取れないが、銀の鎧が光を反射してケイバンだと判る。

そのケイバンもソルの放った爆薬で討伐を始めたようであった。

戦闘はケイバンが右手の下流となり、川岸から湿地との境界で行われるという展開になった。


「そうか、父さんが楔を打ち込む形にして群れを引き止めて、ソルさんがさらに横から奇襲を掛けるのかあ」


適当な倒木を探してそこに座り、ソルが時間差で上流側に展開したことをクリスなりに分析していた。

そこへ聞き慣れない声を耳にした。


「へえ、見事なものだな。」


クリスが振り向くとそこには白いマントを纏った女性の姿が目に映った。


「突然すまない、わたしはノアだ」


ノアと名乗った女性は長い金の髪を揺らせて近づき、その手を差し出した。

手にはそのしなやかな指には似合わない青白い手甲がはめられていた。

この女性も冒険者であろうことを想像させた。


「僕はクリス。お姉さんも参加するの」


差し出された手と握手をしながらクリスは答えた。


「いや、たまたま通りがかったのでだけだ・・・、ま、見物しにな」


女性の言葉遣いではないが、微笑みながら答えるノアに対して少しは安心したのだろうか。

強張っていた表情を元に戻し、盆地を指差してクリスははしゃいだ。


「すごいよね、あれだけの数の“魔獣”をみんなで倒すなんて」

「そうねえ、こんな戦場のような光景は壮観ね。滅多に見られるものではないわね」


はしゃいだクリスの言葉は大げさではない。

大戦の終わった今の時代に、ここまで大掛かりな集団戦はほとんど無い。

ノアはクリスの言葉に共感し、しばし見入っていた。


やがてケイバン達の戦いも佳境に入り、ソルを助けながら“ディ・ガッソ”を討ち取る場面へと進んでいく。

閃光珠が炸裂し、光がほとばしる。

次の瞬間、金属音のようなものが聞こえたかと思うと“ディ・ガッソ”が吹き飛んでいた。

それを見ていたノアは感心したように短く感嘆し、クリスは目を輝かせてノアに訴える。


「あ、今の。すごいでしょ。ぼくの父さんなんだ」

「お父さま・・・。そうか、今のが・・・」


ノアは一瞬表情を硬くしたようだが、クリスの自慢には感心したようにうなづいて見せた。

そして一人ノアはつぶやいた。


「あれは風属性・・・。それも“オゥーガー・ズ・ディレイ(属性効果上級技法)”」


あれだけの閃光珠の後でケイバンの技を見切ったノアである。

やはり並みの冒険者ではないのだろう。

だがクリスにはまだそこまでの気遣いはできない。


「へえ、良く知ってるね。“アイオ・レーン”の尻尾も切れるんだよ。」


“オゥーガー・ズ・ディレイ(属性効果上級技法)”を知っている者に説明は不要であったが、ついうれしさのあまりクリスの言葉が弾む。

“アイオ・レーン”とは、山岳地帯に出現する硬い表皮で身を包んだ“バグスリー(ワニ)”のような上級魔獣である。

非常に硬いため、上級冒険者でも“ディレイ(特別な効果・スキル)”や罠などの工作道具を駆使して、やっと勝てるかどうかという魔獣であった。

しかしその見返りは高く、素材の硬度も高い。

その素材から作られる武器や防具は一般の武具工房で作られるものでは最高級品になる。

また武器や防具には価値を示す呼び名があり、いくつかの等級に分かれていた。


数打ちや名無しと呼ばれる武器は一般工房で作られる。

安価な素材でできた武器を表す称号で、駆け出しの冒険者のほとんどがこれを使っていた。

銘入りと呼ばれるものは、中種以上の“魔獣”の素材など高価な素材を使って、より実践的なものであり、並みの冒険者以上はこのクラスが使っていた。


真打ちと呼ばれるものは特に正式な等級ではないが、一般工房で作られた最高のものや、突出した能力を示した物がそう呼ばれた。

そして中には打った者の名が付いている場合がある。

例えばウェブスターがそうであった。


これは、ウェブスターの一族によって打ち出された武器を表す等級である。

それは下級“オゥーガー”以上の素材を元に作られた武器に送られ名前だ。

これらは素材によりその武器自体に“ディレイ(特別な効果・スキル)”が加わることが常だ。

そのため冒険者自身の能力をも増加させ、大きな力となった。

そしてそれを多くの冒険者が望み、手に入れることは最高の誇りであった。


またウェブスターの一族についてはその出自自体が謎であり、一定のところに留まっておらず、なかなか必要なときに出会うことが難しい。

そのため、ウェブスターから生み出された武器はなおのこと希少であった。

うれしげな表情を見せながら話すクリスに相槌を打ちながらも、ノアは先ほどの冒険者のことを考えていた。


“まさかオゥーガー・ズ・ディレイ(属性効果上級技法)を操るとは“


これがノアの正直な気持ちであった。

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