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11 ディ・ガッソ

ディ・ガッソのイメージはアロサウルスです。

「ふう、さすがにこいつじゃ、一撃ってわけにいかないな。どうせならケイバンのところに行けば良いものを」


対峙する“ディ・ガッソ”を前に愚痴をつぶやくソルの手には、漆黒の“双剣シルヴェスター”が握られていた。

“双剣シルヴェスター”は「マシュタロット」という鉱物から作られ、光を反射しない漆黒の双剣であった。

特に特別な剣ではないが、暗闇での対人戦闘においては利点が多く、その道に通じる者がよく使う剣であった。


「何とか誘い込まんとな。」


そうつぶやき、自分が仕掛けた罠のあるほうへと確認のためか、一瞬目を向ける。

だがその目を離した瞬間に対峙する“ディ・ガッソ”が突進してきた。

“ディ・ガッソ”は目前で体制を変え、低い跳躍で襲ってくる。

気づいたソルは右に飛びかわすが、すぐに“ディ・ガッソ”の尻尾による追撃が襲う。

体勢を崩しながらもこれを剣で受けるが、見事に弾き飛ばされる。

さすがのソルも受身を取り損ねた。


「くつ、・・・」


苦痛に顔を歪め、それでも急いで体勢を立て直そうと顔を上げ、“ディ・ガッソ”のいるほうへと向ける。

しかし、すでに相手は凶悪な顎を半開きにし、猛烈な勢いで間近に迫っていた。


「おいおい、そんなにうまそうなのかね、よだれまでたらして」


そんなつぶやきと同時にわずかに残る生への執着で最後の力を振り絞り、しぶとく握った剣を向けた。

その時、“ビュン”という風音と共に“ディ・ガッソ”が大きく横に吹き飛び、もがく。


「ん・・・。やっと来たか・・・」


ソルは安堵のため息と共に勝利を確信する。

倒れもがく“ディ・ガッソ”がいた場所には、大きな剣を担ぐ見慣れたシルエット、そして“ディ・ガッソ”から離れた尻尾の一部分だったものが留まっていた。

その尻尾の一部分だったものはまだ脈打っている。

斬られてもまだイキがいい。

ソルはこの隙に立ち上がり、腰に付けた袋から黄色い粒を一つ取り出し、飲み込む。

これは“ソマリ”と呼ばれる回復薬の一種である。

一定時間、使用者の痛みを止め、高揚させる効用があるため冒険者には欠かせないものである。

しかし常習性があるので一日に何回も使えるものではない。

ソルはこの“ソマリ”を飲み干し、気分を落ち着かせて立ち上がる。

その間に見慣れたシルエット、ケイバンがソルに近寄ってきていた。

ソルを救った一撃は恐らくケイバンのものであったのだろう。


「おい、ずいぶん苦戦してるようだな」


苦笑に口元を緩め、大剣ジジャニールを肩で担いだケイバンの第一声がこれだった。


「なあに、前菜で満腹なのさ」


ソルが顎で指すほうには、確かに遠く2体の“ガッソ”のむくろ骸が転がっていた。

ケイバンは促され、その骸に目をやりながら答える。


「急いで研いでくれ。俺のほうもそろそろ満腹だ」


そう言って“ディ・ガッソ”のほうへと向き直り剣を構える。

ケイバンは骸の数を見て、ソルの苦戦の理由を悟ったようだった。

さすがに2頭も切れば、いくら“双剣シルヴェスター”とはいえ、その血や油で切れなくなるのは当然である。

“ディ・ガッソ”相手になまくら同然の武器でやりあうことは無謀というほかはない。

しかしそれでも“ディ・ガッソ”相手に戦い抜くソルも、並大抵の冒険者でないことを物語っていた。


「ジジャと違って安物なんでね。ありがたい」


ソルはそういってすぐさま懐から研ぎ石を取り出し、愛剣を研ぎ出す。

これは特にソルの剣がなまくらということではない。

大剣ジジャニールが特殊なのである。

大剣ジジャニールは斬るときに風属性を纏う為、その負担が少なく研ぐ必要性が少なくてすむのである。

二人がそんな会話をしているうちに“ディ・ガッソ”もようやく立ち上がり、怒りか威嚇のためか口を大きく開き、一唸りをする。


「さあ、遊んでやる」


言葉と同時にケイバンは“ディ・ガッソ”に向けて突進する。

“ディ・ガッソ”もこれを見て、突進にし、ケイバンにその顎と前足の鈎爪を突き出してきた。

これを受け、ケイバンは突進した勢いにまかせて、上段から剣を振り落とす。

斬撃の衝撃波も併せての攻撃だったが、一瞬早く“ディ・ガッソ”もかわす。

ケイバンは前転し、その勢いで跳ね起きて“ディ・ガッソ”を向く。

しかし目を向けた瞬間には“ディ・ガッソ”が接近してきた後であった。

ケイバンは形勢が不利とみるや剣先を突き出すが、“ディ・ガッソ”はかまわずその大きな顎で襲う。

その顎はケイバン自身ではなく剣を咥え込み、ケイバンの腕にその体重がのしかかる。


「口でくわえるとは、なんとも無礼……」


ケイバンが歯を食い縛りながら、最後は言葉にならない文句を言ったその時に“ディ・ガッソ”が悲鳴を上げ、横に大きく飛び下がる。


「ギャヒッ!」


「これでアイコかな」


“ディ・ガッソ”のいたあたりには漆黒の双剣を握ったソルが苦笑いでいた。


「いや、まだこちらのほうに借りは残っているさ」

「そうだな」


二人で交わした言葉に、第三者にとってどんな意味があるのかは分かり得ないが、二人にはその言葉で十分だった。

“ディ・ガッソ”はいったんケイバン達に向いたが、その場から後方へジャンプする。

どうやら体勢を整えるつもりのようだ。

左足の付け根から血を流しながらその場で足を掻き、攻撃態勢をとる。

そしてまたもや咆哮を上げ、突進を開始した。



「ソル!」

「おうよ!」


二人は示し合わせたかのように視線を交わし、ソルが腰の袋から茶色く突起物のある拳ほどの塊を取り出す。

その突起物をちぎり、正面に迫る“ディ・ガッソ”に対して投げつける。

それと同時にケイバンは先ほどと同じく剣を後方へ引き、目をつむる瞑る。

ソルの投げた塊は、“ディ・ガッソ”が10mほど手前まで来たときに鼻先で破裂し、その煙で

あたりは真っ白な世界に包まれた。

一瞬にして“ディ・ガッソ”はその場でパニックとなる。

この時、世界を光に包んだものは閃光玉である。

その威力は眼に頼る生物ならば数秒はパニックになる代物だ。

この閃光玉は大陸中央の国、「シェンツィ・グラノス(熱き国)」で産出する鉱石“アグマイア”を必要とするので、この地方では貴重で高価なものだ。


「尊き牙に身を晒せ! ふん!」


破裂音の直後ケイバンは目を見開き、溜めた力を一気に剣に伝える。

体を回転させ、剣速を加速させて一気に右下から斜め上へと斬り上げる。

斬り上げられた大剣ジジャニールは、耳を塞ぎたくなるような高い音とともに一陣の疾風を走らせたかと思うとその延長線上にいた“ディ・ガッソ”の動きが止まった。

遅れてケイバンとソルの後ろから猛烈な風が吹き抜ける。

その風に煽られてか“ディ・ガッソ”が崩れ落ち、落ちた瞬間全身から体液を噴出しながら動かなくなる。


「久々に聞いたよ、その声を・・・。“すべてを破断するジジャ・ニール(ジジャのアギト顎)”とはいったもんだな、はは」

「ああ、こいつのおかげさ、今まで生きていられるのも・・・」

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