表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

この気持ちの正体は……?


 人生で、これでもかというくらいカレーを食べたと思う。


「食べ過ぎた」


 ここ一か月を振り返ってみると、こんな生活が続いている気がする。お腹周りや体重が増えていないが気になるが、確認するのが正直怖い。

 と、思いながらソファの上で寝っ転がっている。

 明日、明後日と続くらしいが気にしない。

 だって、ソラちゃんが私のために作ってくれたから。しかもいつもは食べない量をお皿によそっては、帰り際は少し苦しそうにしていた。

 そういったところが可愛い。


「ダメだ、まったく内容が入ってこない」


 社会人になってから観る機会も減り、ソラちゃんに勧められたから流していたドラマ。毎週夜に放送され、有名な俳優さんが起用されているらしい。

 ただどうも、ソラちゃんのことを考えているとどうでもよくなる。

 点けていたテレビを消して、テーブルに置いていたスマホに手を伸ばす。トークアプリを起動させ、何気ない一文をソラちゃんに送った。


《次は一緒にドラマ観よ》


 ついさっき帰ったばかりなのに、こんなしょうもない連絡。

 当たり前のように既読はすぐに付かないが、何故か待ち遠しくてトーク画面を眺めてしまう。時間の経過とともに画面が消灯し、その度に起動ボタンを押して復活させる。

 そんなことをただ繰り返していた。


《何か動画サイトって登録してます》


 すると、ソラちゃんから返信があった。


「……動画サイトって、あれだよね」


 あれこれとネットニュース、特に美容系は友達登録していて情報は仕入れている。あとは電車の広告で流れているモノとかで、私の方から利用しようと思ったことはない。

 そういった関係で知ってはいるが、この家はどうだったか。

 なんせスマホが無料の動画サイトが観れるし、月額を払えば過去の作品がこれでもかと転がっている社会だ。

 聞くところによると、ビデオなんてものもあったらしい。

 リモコンを片手にポチポチと画面を操作し、ソラちゃんが訊いてきたと思しき動画サイトが見つかった。


《ネト〇リなら登録してあるみたい》


 これがいつからかは疑問だが、おそらく義母な気がする。ソラちゃん同様でドラマが好きで、特に韓国のイケメンに熱狂していた。

 てっきりレンタルかと思ってたけど、そういうことだったのか。

 家族団欒の時はゴールデンタイム番組を流し、誰も観ていなければ義妹のお世話をしながら常に点いていたと思う。

 いつ借りに行く暇があるのか疑問が、今さらになって解消された。


《じゃあウチと一緒です》

《機会があればみましょう》


 連続で返された短文に、私はムッとして画面をフリップする。


《来てくれる日、毎回一話ずつ観ようよぉ~》


 実際にご飯を食べてる時はテレビを点けっぱだし、一時間ドラマくらいは観れる。日曜であれば、家事が終わった後はまったりとできるはずだ。テーブルに飲み物やお菓子なんかを準備して、一気観だって可能ではある。

 泣き落としの動物スタンプを連投し、ソラちゃんの反応を待った。


《しつこいです》


 流石にやりすぎたと後悔。

 何故かスタンプどころか、!や?マークを使わないソラちゃん。だから素っ気なく感じ、これを打っている時にどんな感情を抱いているのかわからない。


《探しておきますね》


「……これは、喜んでいいのか」


 好意的なのか、私がしつこくて仕方なくの判断ができない。

 どう返信しようかと悩んでいるうちに、ソラちゃんからの《おやすみなさい》でタイムアップとなった。


「こうなれば、年の近い子に訊くべきかな」


 私とソラちゃんもそれほど変わらないと思うが、社会人と学生だ。これが学生の視点に代わると、おそらく有益な意見を貰えるかもしれない。


「……連絡するのって久しぶりだな」


 トークの最後は半年前で途切れ、会話の切り口に書いては消しての繰り返してしまう。

 なんか、最近も似たことがあった気がするな。

 時間帯的にも明日は学校があって寝ているかもしれなかったが、当たり障りのない一文を送った。


《元気してる?》


 すると、数秒とかからず通話がかかってきた。


「っ!?」


 早すぎたことに驚き、反射的に切ってしまっていた。

 お、起きてるんだ……。

 それから数秒後、何かのアニメキャラが心配そうに覗き込むスタンプが送られてきた。かと思うと、再度通話画面へと切り替わる。


『どうかしたの、お姉ちゃん』


 耳朶を打つ義妹(いもうと)の声に、私の第一声に戸惑ってしまう。


「えっと~うん……久しぶりウイ」


『そう? ……確かに半年近く連絡とってなかったね』


「調子はどう?」


 ただ何気なく問いかけていた。


『こっちは変わりないよ。私が家事をやろうとすると、お母さんがうるさいくらいかな』


「それくらいウイには頑張ってほしいんだと思うよ?」


『そうは言うけど、毎日勉強漬けっていうのもね……』


 声音からして辟易するほどなのか、珍しく義妹が嘆いている。それなりに行動を制限されていることなのかもしれない。

 実際に私よりも頭が良さそうだし、同い年くらいと比べると落ち着いた性格だ。

 なにより、家のことを任せておけるほどに家事ができる。これといって私がお願いしてもいないのに好きな料理を作り置きしてくれるし、洗濯物はいつもフカフカでシワ一つなくアイロンがけまでと徹底的。周りに自慢できるほど気も利くし、素っ気ないけど甘えてきた時なんて可愛くてしょうがない。

 何となく、期待する理由もわからなくもない。

 それが実の娘か、そうでないかは定かじゃないが……。


『――ちゃん。……お姉ちゃん? それで何か用があるんでしょ?』


「あ~うん、そう! ちょっと訊いて――」


『掃除道具なら玄関前の扉だよ』


「もう! それくらい覚えてるってばぁ!」


 先日まで段ボールの山で埋まっていたことは口にしないでおく。


『ル〇バの保証は切れてるから――』

「ストップ、ウイ! 家のことを訊きたくて連絡したんじゃないの!」


 つい声を荒げてしまうほど、通話越しの見えない波が押し寄せてくる気配を察知した。月に数回と家事をしに来てくれるとはいえ、私以上に家のことを何でも知っている。

 記憶が正しければ3、4歳くらいまでしかいなかったはずだ。

 最初は壊れたモノだと思っていた掃除ロボだが、今は活発的にリビングを動き回ってくれている。

原因は散乱したゴミに道を塞がれ、充電ができなかったから。

 その事実に、あの時のソラちゃんは呆れた顔をしていた。

 ……懐かしいな。


『なに? 急に笑って……怖いよ』


「ごめんごめん、ちょっと思いだし笑いしてた」


 現実に引き寄せるほどの冷たい声音に、私は誤魔化すように声を張った。話を戻すように短く咳払いをして、ようやく本題に入る。


「好きなドラマってある?」


『……ドラマ?』


「そう、ドラマ」


『…………』


 長い沈黙ののち、低く呻くような唸り声が聞こえてきた。

 えっ、そんなに悩むほどなの!?

 大抵のことは何でもこなせる万能かと思い込んでいたが、どうやら苦手なこともあるようだ。

 そんな驚きを隠せないまま、スマホを耳にあてていた。


『ごめん、せめてどんなジャンルがみたいか絞ってくれる』


「あ、そういうこと」


 ようやく反応があったかと思えば、どうやら私の要望が雑だったようだ。

 ただ、そんなことを今さらになって気づく時点で察しられてるかもしれない。

 どこか呆れるようなため息に続き、内心で申し訳なさしかなかった。


『もぉ、そういうところ変わらないんだから』


「ごめん、私が逆でもその反応だったかも」


 優しい声音に隠れる不満げな口調に、キッチンでよくみた困った顔を思いだしてしまう。


『無難に放送されてるドラマでいんじゃない? この時期からだと途中だけど、動画配信サイトにでも一話からアップされてると思うよ』


「そういえば、ウチのテレビに登録されてたの気づいた?」


『え、うん』


 どうやら私だけが気づいていなかったようだ。

 そうなると、月額は誰が支払っていたのだろうか?

 ル〇バといい、動画サイトに加入されているTVと。私が気づいていないだけで他にも何かありそうで、ソラちゃんが知ったらどんな反応をするだろうか。


『……それだけ?』


「うん」


『ふ~ん』


 ……おや? 何か機嫌を損ねるような発言したか。

 クールなイメージが強い義妹だが、それはどこか私に呆れている。もしくは、手がかかるから姉とは思われていないと感じていた。

 けどさっきのは、そういった類とは違う気がする。


「ウイ? どうかした」


『どうかしてるのはお姉ちゃんじゃない』


 容赦のない言葉にたじろいでしまう。

 抑揚もなければ冷たく突き放す。久しぶりながらも楽しいはずが、冷や汗を流すほどの手の平返しをされるとは思ってもみなかった。

 今どきの子って難しいっ!!

 最初は最近のおススメドラマを知りたくて、半年ぶりに連絡することに尻込みしていた。それもただの杞憂で、口を開けば変わらず話すことができていたと思う。

 なのにこれだ。


『お姉ちゃん』


「は、はい」


 ソファで横になり寛いでいたが、素早く身体を起こして背筋を伸ばした。


『新学期も始まって落ち着いたからさ、今週末にでもそっちに行くね。何となくだけど、家のこととかやってなさそうだし』


「へぇ?」


『じゃ、おやすみ』


 言葉の意味を理解してなお、私は間抜けにも耳を疑ってしまった。

 一方的に切られた通話に訊き返せるわけもなく、トーク画面に戻ったスマホをみつめる。受話器マークのアイコン下に使用時間が表示されるだけで、後に続くような補足事項はないようだ。


「とりあえず週末か……」


 これといって用事もなければ仕事は休みだ。


「んん??」


 と思っていたが、週末の金曜日に予定が入っていた。

 いったい何だったかと思いだせず、画面をタップして眉間にシワを寄せてしまう。


「……忘れてた」


 スマホを投げる形で手放し、ソファにだらしなく寄りかかる。

 しばらくの間呆然と天井を眺め、どう乗り切ろうかと思案していた。


「一か八か、ソラちゃんを頼ろうかな……」


 明らかに家事以外で、ほぼプライベート案件でしかない。雇用の条件として定めたどころか、それですら勢い任せだったから曖昧なままだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ