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いつまでも、これからもずっと……

 週が明けた月曜日、私はいつも通りに目が覚めた。けたたましく鳴るスマホを手探りで止め、お布団の誘惑に負けて身体を埋める。

 だけどそれも数分で終わり、お母さんの声に叩き起こされた。

 寝惚け眼を擦りながら脱衣所の洗面台で顔を洗う。

 結局のところ、昨日は帰った後は真面目に学校の課題を片づけた。しかも今日の授業予習をするまでの集中力が続き、程よい充実感のある休日だったと思う。

 こんなこと楓に自慢したら、驚かれるんだろうな。

 どこかぼんやりとした頭でリビングに向かい、朝食を黙々と食べる。

 それから三〇分ほどかけて登校準備を済ませて家をでた。エレベーターに乗って、エントランスホールを通り抜ける。そこから歩き慣れた住宅街を進み、利用者で溢れる最寄り駅の改札にパスケースをかざした。満員に近い電車に揺られて、学校までの移動時間をSNSの巡回をして潰す。


「あ、ソラちゃんおはよ~」

「おはよう颯来」

「おはよう、ユナに楓」


 珍しいことに登校時間が重なった友達の二人組。改札を抜けた駅前には、私達同様に学校に向かう生徒が多く、その中でも目を惹く明るい茶色髪を揺らす女子生徒。フワッとした髪もそうだが、同い年とは思えない女の武器を携えて駆け寄ってくる。

 その対照的な黒髪の女生徒は、変わらずマイペースな歩調。それだけなのに、凛とした雰囲気は大人顔負けの落ち着きよう。私の腰に抱き着いてきた相方の首根っこを掴み、力強く引き剥がしてくれた。


「夢凪、人前ではしゃがない」

「ぶぅぶ~これはちょっとしたスキンシップだよ~」

「まあまあ二人とも、立ち話もなんだし学校行こ」


 見た目や性格が違うのに、仲の良い姉妹のようなじゃれ合い。もちろん楓が姉で、夢凪が妹ではある。

そんな幼馴染二人に、私はスマホを取りだす。


「そうだユナ、このお店知ってる? パンケーキ屋さんなんだけど」

「ん~……ああここね、最近できたってみたけど……えっ、ソラちゃん行ってきたの?」

「まあ、ちょっと訳あって」

「へ~」


 夢凪に倣って画面を覗く楓からの生返事。どこか視線も生暖かく、つい最近も似たことがあったのを思いだす。


「へぇ~訳あってねぇ~」

「ユナ、今はまだダメだよ」


 含みある口ぶりに、私は鞄にしまっているお土産に後悔する。


「ちなみにだけど、水族館のお土産も――」

「「訳ありねぇ~」」


 声をそろえる楓と夢凪に、私は今度こそ覚悟を決めるしかなかった。


「その、同じマンションに住む女の人。駅前でナンパされて困ってるのを助けてくれて、そこから知り合ったの」

「颯来がナンパ? 最近の話なの」

「もぉ~ソラちゃんってば、警戒心ないんだから心配だよ」

「いやだって、ナンパされるなんて思ってもみなかったんだもん」


 心配してくれる二人に、私はあの時の話を聞かせる。終わりには楓からは防犯グッズをいくつか勧められ、夢凪からは男避けコーデのレクチャーを受けた。

 二人にはまだ、いわなくてもいいよね?

 お陰でナンパから助けてくれた女の人、桜華さんに関して特に触れられなかった。

 そんな感じでダラダラと話しながら学校へと向かい、変わらない学生生活を送る。


◇    ◇     ◇


 昨日の予習もあってか、今日の授業はよく理解できたと思う。……ただ、それくらいしないとついていけない現実。それほど勉強が好きじゃないことから、そんな生活が続くとも思えない。


「じゃ、また明日ね」


 放課後となり、楓と夢凪は駅の改札で別れる。

 そこから朝と同じように電車に揺られ、最寄り駅へと真っすぐと向かう。寄り道することのない放課後は時間を持て余し、気づいたら帰路に就いている。


「ソ~ラちゃん!」

「おっ桜華さん!?」


 ぼんやりと最寄り駅の改札を抜けて、人の流れに身を任せる形で吐きだされる。流れのままに駅前を歩いていると、聞き慣れた声に肩を叩かれた。

 まさかの事態に驚きすぎて、声量の調整できずに声を張ってしまう。

 確かに同じマンションに住み、この駅だって利用しているのを知っている。ただ、お互いの生活時間の関係から合わないと思っていた。


「そ、そんなに驚かなくても」

「ああ、ごめんなさい。普通に驚いちゃいました……」


 仕事終わりなのか、スーツ姿の桜華さんは瞳を丸くさせていた。つい一か月前だったらこういうことはなく、それどころか会話すらないただの他人としてのそれぞれ過ごしていただろう。


「一緒に帰ろう」

「……まあ、構いませんよ」


 赤信号なので横断歩道前で立ち止まり、当たり前のように隣に桜華さんがいる。


「ねぇ~なんか冷たくない」


 階が違うだけで帰るマンションは同じで、誘われた私からすれば断る理由もない。それだけなのに、桜華さんからの構ってほしいオーラ。さりげなくだが、いつの間にか指先を絡めてきていた。


「ホント、ソラちゃんってドライだよね」

「そんなこと生まれて初めていわれましたよ」


 不満を口にする桜華さんは頬を膨らませ、寄りかかるように体重をかけてくる。普通にしているだけでも身長差があるのに、少しだけ踵の高いパンプスを履く桜華さんを見上げてしまう。


「……桜華さん、髪に何かついてます」

「え、どこどこ?」


 私が取ってあげると手招きをすると、前屈みになる桜華さん。

 これでようやく、私の顔と同じ高さに桜華さんがくる。その隙だらけの横顔に、私は軽く唇を押し当てた。


「人前でイチャつくとか、いくら心臓があっても足りませんから」


 信号が青に変わったことを知らせる音が鳴り、人の流れが再び動きだす。それに倣う形で私も一歩を歩踏みだしていた。


「……桜華さん? 帰りますよ」


 放然とした様子で立ち尽くす桜華さんの手を引き、私は何事もなかった風を装う。

 本当はかなりの勇気を振り絞ったからか、鼓動がやけに早くて上手く呼吸ができない。

 まだ少しお互いの距離感や、立ち位置は手探りの状態ではある。早急に関係を変えたいわけでもなければ、始まったばかりだから私達なりに歩んでいきたい。


「ソラちゃん、ズルいよ……」


 桜華さんの不満や抗議に近い囁きを耳に、私は微かに口角を上げて笑みを浮かべる。


「桜華さんには振り回されてばっかりですからね。……ちょっとした仕返しです」


 出逢いからして偶然で、今後どうなっていくかわからない。だけど今だけは、この関係がずっと続くことを信じて進んでいきたいと思う。


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