言葉では言い表せない想い
「……眠れなかった」
気づくと、私はベッドの中で朝を迎えていた。
結局、桜華さんには連絡をできていない。そのことを追求するような通知もなければ、あれ以降のトーク画面に動きはなかった。
枕元で充電しっぱなしのスマホから視線を背け、枕に顔を押しつけるように埋める。
時刻はいつも学校がある日の起床と変わらない。
桜華さんがどんなスケジュールを組んでいるかわからないが、まだ返事に対する猶予はあると思う。
だけど、いつまで待たせるのも申し訳ない。
たとえどんな理由だったとしても許してくれそうだし、次の機会に回してくれそうな気がする。
その時、どんな表情を浮かべるか。
嬉しさをいっぱいに喜んで、抱き着いてくる。
怒る……のは想像がつかないかな。
哀しそうな素振りで、泣き真似くらいはしそうだ。
楽観的に誘っただけの、ノープランと笑うかも。
他にも色々な表情をみせてくれると思うと、少しだけ胸が苦しくなる。
「……よしっ」
勢いよくベッドから起き上がり、回らない頭を醒ますため洗面所に向かった。いつもだったらルームウェアが濡れないところを、水量を気にせず両手ですくって洗う。
「ん~」
それを何度も繰り返したけど、一向に気持ちがスッキリとしない。
だから今度は、その場でルームウェアを脱いだ。給湯パネルを操作して、水温を高めに設定してお風呂場のドアを押す。いつもは座る椅子を端へ追いやり、シャワーを頭から全身に浴びる。
しばらくそのまま立ち尽くしていた。
「ふぅ~」
大きく息を吸うと、熱気がこもった空気が入り込んでくる。
そのお陰なのか、少しだけ頭の中がスッキリする感じがした。濡れた犬のように頭を振って、滴ってくる水っ気を飛び散らかす。
今日の私は、やっぱりどこかおかしい。
原因は何となくわかってはいるものの、どうすればいいのか。
それくらい、私にとって未知の経験。
「……バスタオル忘れてた」
お風呂場をでて気づく、脱衣所に脱ぎっぱなしのルームウェアと下着。ついさっき私が脱いだ物だからいいとして、肝心な体を拭くことが出来ない。水浸しのまま部屋に向かうのも、たとえ我が家とはいえ色々とみっともなく情けなさが増す。
桜華さんのことをいえないな……。
「すぅ~……ど、どうしよう」
改めて冷静になれた。
◇ ◇ ◇
辺りを見回すと、休日を過ごす人でごった返している。普段利用する最寄駅とはいえ、少しだけ違ってみえた。
日曜日なのに仕事なのかスーツ姿のサラリーマン。私と年は近そうなのに見た目が大人っぽく、明るい色に染められた髪の大学生。今から部活なのか、大きなバックを肩からかける運動部の集団。
それ以外にも、何かしらの用途でここにいる。
そんな私も例にもれず、待ち合わせの場所として指定した。
「ソラちゃん!」
「桜華さん……」
もうそろそろお昼を迎える時間帯。雑踏の中から聞こえた声に視線を巡らせると、人目も憚らずに大きく腕を振る桜華さんがいた。往来の合間を縫うように小走りで、垢抜けた茶色の長い髪を揺らしている。
どこか印象的だったスーツではなく、部屋着でも目にしないカジュアルな服装。
蒼に近いグレーのニットガウンに、黒のタートルネック。スラっとした脚を強調するデニムパンツを、さらに踵高めのパンプスで高身長の女性を演出。……いや、実際に私と比べれば高い方だとは思うけど。
「ごめんね、待たせたよね」
「こちらこそ、連絡が遅くなってすみません」
「それこそ気にしないでよ、私が誘ったんだから……はぁはぁ」
膝に手をついて前かがみになり、急いできたから乱れた呼吸を整える。
私はシャワーを浴びた後、桜華さんに連絡を入れた。お礼とお詫びを兼ねたおでかけの誘いを受け、同じマンションの住人とはいえ駅前での待ち合わせ。時間帯は桜華さんの準備もあるから任せ、今に至る。
……待ち合わせ五分前。ちょっと意外だったかも。
「ん~その顔、意外だって思ってるでしょ?」
「そんなことはないですよ」
視界に入った時計を気にしたのがバレたのか、桜華さんは子供っぽく頬を膨らませる。そんな表情ですら、大人っぽさに隠れた素の魅力に映ってしまう。
対して私は、桜華さんの隣に並んで歩くには服装からして子供っぽかったかもしれない。
胸もとに有名なロゴが印字されたグレーパーカーに、黒のジャケット。桜華さんを真似しようか悩んだが、濃いめの緑ベースに黄色いラインが入った膝下丈のチェックスカートを選択した。あとは、動きやすいスニーカー。
明らかに間違えた気がする。
「ソラちゃん、そんな格好も似合うんだね」
「そ、そうですか」
内心で反省する私をよそに、桜華さんは笑顔で褒めてくれる。
だから余計、恥ずかしくなった。
「それで、これからどこに行くんですか」
「まあまあ、それはついてからのお楽しみだよ」
まるで驚かせようとする子供のような表情と、隠しきれない嬉々とした声音。私がどれだけ探りを入れても、簡単には教えてくれなそうな雰囲気があった。
もとよりそれは、連絡をした時点で訊いている。
けど、教えてくれなかったから念のため。
「じゃ、いこっか!」
「……はい」
当たり前のように私の隣に並ぶ桜華さんは、少し首を上に傾けないと顔がみれない。少しだけ離れて歩こうと思ったけど、自然と繋がれる手。流れるように指先も絡められ、距離が縮まる。
「あれ、イヤだった?」
「……それはいいんですけど、身長差があるなぁ~って」
「ああ、ごめんね……。つい気合が入っちゃって、下駄箱の奥から引っ張りだしたんだ」
その言葉を聞いて、私の背筋に緊張が走った。
「念のため聞きますけど、その後はしっかりと片づけましたよね?」
「う、うん」
露骨に泳いだ桜華さんの視線に、私は自然と息を吐いてしまう。お陰でさっき走った緊張と、無意識に身構えていたのか肩の力が抜けた気がした。
「帰ったらですね」
「はい……」
両肩をすぼめて項垂れる桜華さんを、私は横目で見上げる。声音からどんな表情を浮かべているか想像できなくもないが、つい気になってしまう。
「……ん?」
そんな私の行動を読んでいたのか、桜華さんとバッチリ目が合ってしまった。
反射的にそっぽを向いてみたが遅く、絡められた指先に力が籠められる。
「どうかしたのソラちゃん?」
「いえ、何でもないですよ」
素っ気なく返したのが逆効果だったか、無言で問うてくる視線を肌で感じる。さらに追い打ちをかけてくる繋いだ手を引かれ、近かった距離がさらに縮まった。
「やっぱり無理してきてくれた?」
不安げに揺れる瞳に見据えられ、喉が急激に乾いていく感覚が襲ってくる。
「もしそうだったら、駅前で待ち合わせじゃなくて家の方に行ってます。休日だからジャージだったかもしれないですよ」
まだ指折りの回数しか桜華さんの家で働いていない。まったくもって家事について要領がわからず、動きやすさなどを気にしていなかった。
それがつい最近、学校のジャージが一番だと知ったのだ。
「それはちょっと、困るかも……」
苦し紛れの言い訳にしても、もっと上手い言葉があったと思う。戸惑ったような苦笑いを浮かべる桜華さんに、私は鼻を鳴らして怒った振りをする。
だけど、どこか重かった空気は一瞬で消し飛んでいく。
「そんなお洒落してくれたソラちゃんに、精いっぱい楽しんでもらわないとね!」
「ちょ!? 急に引っ張らないでくださいよ!!」
声を荒げるほど力強かったわけじゃないが、あまりに唐突だったから躓きそうになった。
けど、桜華さんからすればなんのその。私の手を引っ張るように、改札の方へと歩きだしていく。
それにどうにか追いつき、パスケースを取りだす。
ポーン。
「……あれ?」
「いや、改札潜るくらいは手を離しましょうよ」
軽快に鳴った警告音に、桜華さんの行き先をゲートが阻んだ。私は無事に間に合ったが、桜華さんはそんな素振りすらみせていない。
明らかに気持ちが先走り、なんともしまらない出発になった。
行き場を知らされないまま電車に乗り、ぼんやりと外の光景を眺める。車内は休日だからか私服姿が多くも、平日と何ら変わらず座れなかった。
「……」
なのに、桜華さんは気にした様子もなくつり革を掴んでいる。スマホを片手に調べ物をしているようで、真剣な横顔はどこか仕事をしている風。
けど今はスーツ姿じゃないことに、様になっているようでちぐはぐ感じがした。
……いつも、職場に通勤する時ってこうなのかな。
初めはこうなることを予想もしていなかった。だからこうして一緒にいることが増え、私の知らない一面を次々と垣間みている。
それは昨日、優衣ちゃんから明かされた桜華さんの交際関係も含めてだ。
だからって、桜華さんが私の恩人であることは変わらない。そして今後、どういった関係を築いていくか見定める今日。
そのために、おでかけの誘いを受けた。
「……ソラちゃん?」
これといった会話もなければ、私が一方的に桜華さんの横顔をみていた。
それに気づいたようで、桜華さんは不思議そうな表情で瞬きを繰り返す。
ヤバい。これじゃあさっきの二の舞になる。な、何か誤魔化せるような会話は……。
「もしかして、お腹空いた?」
「私は腹ペコキャラじゃありません。……その、真剣に調べものしてるから気になって」
チラリと視線をスマホに向けると、桜華さんは我に返った表情でポケットにしまう。掴んでいたつり革の手を変え、私の方に一歩近づいてきた。
「ごめんね、せっかくのデートなのに」
「デ、デートって……大げさですよ」
「ちょっとした言葉のアヤだってばソラちゃん。……まあ、間違いではないんじゃない」
そういって私の手を握ってくる桜華さん。あまりにも自然で、細い指先が絡まってくる。
「……あの、何か勘違いしてませんか」
何やら生暖かい視線が癇に障り、私は念のため釘をさしておく。
「え、違った?」
「別に寂しいから構ってほしいわけじゃないですからね」
「……ごめん、そうなのかなって」
真顔で驚いてみせた桜華さんと繋いだ手が、少しだけ離れていく気配を感じた。
違う。いや、意味としては同じかもだけど……そんなつもりはないんです。けどここで必死に説明するのも言い訳っぽいし、どうすれば……。
私は必死に脳をフル回転させて、浅く下唇を噛んだ。
「ソラ――」
「別に手は、このままでいいです」
桜華さんの戸惑った声音を耳に、私の方から手を握り返す。たったそれだけのことなのに疲労感と、少しだけ体温が高くなっていく気がした。私自身も何がしたくて、正しかったのかわからず頭の中はグルグルしている。
「そっか」
それでもどこか嬉しそうに囁いた桜華さんの声に、気持ちが落ち着いていく。
再び握り返された手に力が籠められ、さっきとは違った沈黙が訪れる。けどそれは息苦しいとか、気まずい感じはしない。
まるで最初からこうなることで納まり、それを無意識に私が求めている。
……そんなことがあるのだろうか。
「次で降りるよ」
「……はい」
電車の動く音にかき消されそうな、桜華さんのか細い声が耳に届く。周りに聞こえていないのだろうけど、私にだけ向けた一言がくすぐったい。
ゆっくりと速度が落ちていく感覚の中、私は少しだけ桜華さんとの距離を詰めて立った。
それから停車するまで会話はなく、ドアが開くと手を引かれるがまま歩きだす。
やっぱり、昨日から私は変だ。
少し前を歩く桜華さんの後ろ姿をみつめ、その答えを求めてついていく。
降りた駅名は知っていて、何度か夢凪に連れられて楓を含めて遊びに来たことがあった。そうなると、最寄りから十数分とかかっていない。体感的にもう少し長く感じたが、気のせいだったようだ。
「ん~ソラちゃんはお腹空いてないようだけど、私が何も食べてないんだよねぇ~」
「そうなんですか? ……それならまあ、どこかに寄ってもいいですよ」
「ホント! あっ……いや、違うんだよ。元もとソラちゃんを連れてきたいカフェがあって、パンケーキとかって好きじゃない?」
「むしろ、好きな友達がいるんで連れてかれます」
もちろん、そこには楓も含まれる。お金のかかる趣味ではあるけれど、学校帰りに三人で寄ることはあった。一見ただのパンケーキなのに、お店によってトッピングが違って盛り付けも様々だ。夢凪が興奮気味に写真を撮る理由は、わからなくもない。
「よかった。まだ時間にも余裕があるし、行かない?」
「そうなんですか? ……まあ、興味があるので行きます」
予想通り桜華さんの中でプランがあるようで、言葉の引っかかりが気になってしまった。
「じゃ、さっそく向かおう!」
そんな私の勘繰りが意味を成すのか不思議な、桜華さんの気が抜けるかけ声。本当はノープランの可能性もあったが、嬉々とした姿を目にして短く息を吐く。
「桜華さん。大人なんですからはしゃがないでください」
「もぉ~ソラちゃんはノリが悪いなぁ~」
さっきから余計なことばかり考えている。だから気が散って、頭の中を一人で堂々巡りが続いて楽しめていない。
なんかそれは、桜華さんに失礼な気がした。
桜華さんのようにコロコロと感情豊かにはいかないだろうけど、素の私で楽しもう。
ずんずんと先を歩く桜華さんを追いかけ、少しだけ小走りで隣を並んだ。
……どれだけ楽しみにしてたんだろう。
まるで私のことをいないかのように、桜華さんは人混みを進んでいく。
だけど、しっかりと手は握られたまま離れる様子はなかった。
それから数分歩き、休日ともあって店の外にできる列に並んだ。
「すごい人気なんですね」
「……うん、ちょっと予想外だったかも」
列をなす顔ぶれは女性の割合が高く、チラホラといる男性は付き添い。もしくは恋人の彼女さんが隣にいた。
私と桜華さんは、どんな風に見られているのだろうか。
ここに来るまでの道中、テンションが高かった桜華さんの表情は眉間にシワが寄り。露骨にブスッとしているのがわかる。
「こんなに並ぶんだったら予約でもしておけばよかった」
「そうですか? 私はこういった時間好きですよ」
「……そうなの」
「ええ、まあ……」
瞳を丸くさせる桜華さんの表情から、ありありと意外そうな驚きが汲み取れる。その逆で、私としてもやっぱり同じ気持ちを抱いてしまう。
「桜華さんは苦手ですか?」
「どうなんだろう?」
何故か自分のことなのに、不思議そうに首を傾げる桜華さん。
「ただなんだろう。せっかくソラちゃんに楽しんでもらいたいのに、待たせるのが申し訳ないかなって思ったんだけど……イヤじゃない?」
「はい」
即答した私をみて、桜華さんの眉間からシワが消えていく。表情も真顔に近いほど、呆然と列の先をみつめだす。
「どうかしました?」
「うんうん。ソラちゃんがそれでいいなら、大丈夫……」
何がとは問わず、私は大人しくお店に入る順番を待った。空いた時間を利用して、スマホでホームページを検索する。
どうやらつい最近オープンしたようで、目ぼしいレビューが見当たらない。こういった場合、流行に敏感な夢凪の行動を参考に別のアプリをタップする。複数のSNSアカウントを持っているわけでもなく、唯一ダウンロードしたトリマークのアプリ。ハッシュタグ検索でお店の名前を打つと、続々と写真がアップされていた。
つい数分前、明らかに店内の顔も知らない誰かが投稿している。
「桜華さん。お店の中はこんな感じっぽいですよ」
みやすいように画面を正面に、桜華さんと一緒に写真を眺める。
「……へぇ~キレイだね。って、え? 結構量あるね……」
「二人でわけましょうか」
食に関しては、桜華さんと色々な橋を渡ってきた。
お礼をしたいと招かれ、デリバリーされてきた数々の料理をフードファイト。結局食べ切れず、後日に持ち越したデザートの多く。
他にも、カレー事件も記憶に新しい。
それに家事をするようになって、桜華さんがどのくらいの量を食べるか掴みつつある。たぶん私も、桜華さん並みに食べれる方ではない。
そんなことを話しながら、次々と投稿された写真を色々と眺めた。
「こういうのも……ありだね」
「楽しいですよね?」
覗き込む形で桜華さんへ視線を向けると、表情には明るさが戻っていた。
そこから一〇分と待たず、私達は席に案内されてメニューを吟味する。
「あ、サイドメニューのこれも美味しそう」
「けど桜華さん。これ眺めてると、どっちがメインかわからなくなりますね」
見開きのページが数枚続き、パンケーキ一つをとってもトッピングでバリエーションが増える。それだけでは飽き足りないのか、メインになりうる料理に目がいってしまう。豊富な料理負けずと、飲み物もお洒落な名前が綴られていた。
……もしかして私、あの有名なコーヒー店に来ちゃったか?
いつもは夢凪の付き添うで、勧められたから一緒に注文してもらうことが多い。だから改めてカタカナを前にすると、どんなメニューか想像できなくて頭を抱えてしまう。
「とりあえず、このおススメにしよっか」
「……そうですね」
それは桜華さんも一緒だったのか、メニューで一番に目についたプレートを注文した。
私は飲み物だけにして、取り分け皿もお願いする。
「ソラちゃん、こういうお店慣れてないの」
「私はそうですね。……桜華さんこそ、どうしてここを選んだんですか」
「……時間がなくて色々と調べてたら、最近オープンしたってお店だって知ったからかな。ほら、ソラちゃん達の世代的に好きかなぁ~って」
しどろもどろで、居心地が悪そうに落ち着きがなくなる桜華さん。
「まあ、人それぞれですからね」
特に夢凪をみてると、こういった流行は勉強になることが多い。
ただそれでわかったのは、私と桜華さんは似た部分がある。それにプラスして、桜華さんは相手のことを楽しませたい気遣い上手。
今回は私であり、急ながらもプランを考えてくれたのだろう。
けどそれで、桜華さんは楽しめているのか。
「桜華さん、そんなに気を遣わなくていいですよ? 実際にこういうのも、おでかけの醍醐味ですから」
「……うん。勉強になったよ」
おでかけの部分を、桜華さんみたくデートとはいえなかった。喉もとからでそうになったけど、言葉にするのが妙に恥ずかしくて呑み込んだ。
どこか今日は、桜華さんに余裕のようなものを感じられない。私も他人のことをいえないが、ちょっと意外な一面を何度も垣間見ている気がする。
それから運ばれてきたプレートを前に、私と桜華さんは笑ってしまった。
一言で表すに、写真と料理が一致しないほど量が多い。
「私とソラちゃん、こういうのばっかりだね」
「それは同意します。……けど二人でなら、いけそうな気がしますね」
首を縦に振る桜華さんに、私は分厚いパンケーキをナイフとフォークで切りわける。他にもトッピングされた生クリームや果物を別皿に、第一弾として桜華さんの前に置いた。
「食べよっか」
「食べましょう」
ちょっとお昼を過ぎた時間帯。私の小腹は空いていたが、あまりの重量感にかなり苦戦した。それと違って桜華さんは、本当に朝から何も食べていないようで助けられた部分がかなり大きい。
このお店に来たお客さんは、いったい何を求めてここに来るのだろうか。
「ねえねえソラちゃん。『あ~ん』してくれない」
「……まあ、一口だけでしたら」
「えっ!?」
強請るように甘えてきた桜華さんに、私は少し小さめにパンケーキを切りわけていた。フォークで刺して、テーブルに零さないように手を添える。
「……桜華さん?」
「あ、うん。……ありがとう」
さっきまでのハイテンションがしおらしく、周りの視線を気にしたように見回す。表情からも緊張を色濃くさせながら、恐る恐るといった口を開いてきた。
……え、何。桜華さんの方からお願いしてきたよね?
「うん。……美味しいね」
テーブルを挟んでいたから浮かせていた腰を落ち着かせ、桜華さんは顔を俯かせる。
「桜華さん、私にはしてくれないんですか?」
「んっ!?!!」
まるで喉を詰まらせたような、声にならない驚きでテーブルが揺れ。激しい物音に店員さんを始め、周りからの視線が集まった。
「ソラちゃん、今日はどうしたの?」
「ノリですかね」
「そ、そっか。じゃあ、一口だけ……」
私の行動を真似してか、桜華さんもフォークにパンケーキを刺して片手を添える。だから腰を浮かせて、私も一口頬張った。
「……並んだだけのかいはありましたね」
口の中に広がるパンケーキの甘さ、厚みがあるのに噛むたび消えていく。生クリームも相まってか、一層甘く感じた。
◇ ◇ ◇
「それで、次はどこに行くんですか」
お店をでた私は、次の目的へ案内されていた。隣を歩く桜華さんを横目に訪ねるも、応えてくれそうな様子はない。
けど、表情から伝わってくることが一つある。
「私が一番好きなとこ」
そこがどのくらい好きかは定かじゃない。たださっきより足取りも早くて、経験はないが大型犬に散歩をされている気分だ。
まあ、腹ごなしにはいいかもしれない。
それからさっき降りた駅の前を通り過ぎ、とある建物へと入っていく。チラリと看板が目に留まり、定番ながらもまたも意外だった。
「桜華さん。そんなに水族館が好きなんですか?」
「……ダメだった?」
自然と遅くなった歩調がようやく合い、私は桜華さんを見上げて笑いかける。
「そんなこと言ってないですよ。ただ、水族館って静かなイメージがあるじゃないですか」
「ソラちゃん。……それって私に、遠回し的な嫌味を言ってるのかな?」
「イヤだって……ごめんなさい、怒りました」
ムスッと唇を尖らせる桜華さんは、露骨すぎるほど怒った様子。
これもまた、意外な表情だ。
ただそれすらも、少し子供っぽくて笑ってしまいそうになる。
「あ~ソラちゃん。私のことバカにしてるでしょ~」
「そんなことないですよ?」
「ホントに~」
疑うように顔を覗き込まれ、私は少し後退ってしまう。
たとえ同性とはいえ、顔との距離が近すぎる。慣れないことに怯んでしまう私に、桜華さんは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ほら、これしきの事でソラちゃんは驚いた。けど私は、大人だから驚かないもん」
「な、何ですかその理屈」
顔の熱が急に上がっていくのがありありとわかった。これが表情にでていないことを祈りたいけど、桜華さんの口もとは弧を描いている。
もしかしてだけど、耳まで赤く染まってたりしないよね?
せめてもと顔を俯かせるも、桜華さんとは手を握ったままだ。
「それもこれも、ウイがちっちゃい頃に泣くのを宥めるのに最適だったんだけどね」
あんなしっかり者な優衣ちゃんの小さい頃。あまり泣きじゃくる姿が想像できないけど、桜華さんがしっかりとお姉ちゃんをしていたのか不思議だ。
後退った私を引き寄せるように、近づいてきた桜華さんの手が頬に触れた。
「だから慣れてるけど、ソラちゃんだからかな……」
「っ!?」
ゆっくりと顔を持ち上げられ、私の瞳に映った桜華さんは赤く染まっていた。
「なんかあれだね。楽しすぎてはしゃいでるのかも」
「それはそれで、大人しくしてくれないと困りますね」
その手綱を握る意味合いではないが、桜華さんの手に少しだけ力を籠めた。
「……行きましょうか」
「そうだね。予約時間近くなってるし」
手首に巻かれた細いチェーンの時計を目に、桜華さんに手を引かれる。私が握ったつもりだったけど、今日は誘われた立場だからお任せするしかない。
まあ、周りに迷惑かけるようなら逆になりそうだけど。
ちょっとした喧嘩のような、ただのじゃれ合い的なやり取り。唐突だったけど、桜華さんの言う通りテンションのせいかもしれない。
それに、少しだけ安堵した気持ちがある。
水族館まで数分歩き、できる列の脇を通り抜けて受付に向かう。それから桜華さんが何かしらの手続きを済ませると、すんなりと館内へ通された。
◇ ◇ ◇
建物内だけあって外の喧騒はなく、静かな空間を薄暗くライトアップされている。入り口直ぐの水槽を前に、私は足を止めていた。決して見惚れてるわけじゃなく、普段からあまり来ないから楽しみ方がわからない。
「ソラちゃん?」
桜華さんに声をかけられ、私は肩をビクつかせてしまった。
「あ、すみません。改めて水族館に来たんですけど、ここにいるだけで満足してました」
「楽しんでもらえてるなら、私は嬉しいよ」
ほんの小さな水槽を眺めているだけで、しばらくその場に立ち尽くす。そんな私を桜華さんは先を急かさず、隣で静かに付き合ってくれた。
それからゆっくりと館内を巡りだす。
いくつもある水槽の前で何度も足を止め、泳ぐ魚たちを目で追いかける。
ただ、その繰り返し。
「私以上に楽しんでるね」
どれくらいそうしていたのか、丸く切り取られたガラスの向こうで漂うクラゲ。前かがみの体勢が辛くて、しゃがみ込む形でその場に張りついていた。
唐突に声をかけられ、私は首だけを動かす。
「はしゃぐほどではないですけど、そうですね」
「耳を傾けてくれるだけでいいからさ、私の話聞いてくれる?」
展示場が暗がりだから、桜華さんの表情はよくみえない。
だけど、声音に真剣みがあった。
「私とウイって、ソラちゃんからみてどう?」
要領を得ない質問に、私は首を傾げてしまう。
「年の離れた姉妹なんだけど、性格がまったく似てないですかね」
「そうだね、ウイはしっかり者だから」
苦笑交じりに桜華さんは続ける。
「実際にさ、姉妹だから性格が似るとは思わないんだよ」
それはまあ、私とお姉ちゃんもそうだ。
「事実、私とウイに血の繋がりはないんだ。戸籍上っていうのかな、お父さんとお母さんも同じ。岬家の中で、私だけが違うの」
急な身の上をカミングアウトされ、かける言葉がみつからない。このことを桜華さんは出逢って日の浅い私に、どんな気持ちで打ち明けようとしているのか。
「ごめん。急だったから戸惑うよね……」
「お、桜華さん!」
気づいたら、私は周りの迷惑なんてお構いなしに声を張っていた。
さっきまで斜め後ろに感じていた桜華さんの気配が遠ざかりそうになり、咄嗟に立ち上がって手を伸ばす。
若干の立ち眩みによろめき、体当たりする形で桜華さんにしがみつく。
「だ、大丈夫?」
「ちょっとふらついただけです。……桜華さん。えっと、あのぉ~その……」
支えられて感じる温かさと微かに息遣い。
それだけなのに、私の鼓動が早くなっていく。
「謝るくらいなら全部聞かせてください。桜華さんのこと、もっと知りたいです」
「ソラちゃん……」
頭の中が真っ白な状態で考える余裕はない。
だから私の素な気持ち。
桜華さんのことを知りたいと、最初に助けられた時に抱いた興味。他人でしかなかった、駅前でナンパされて断れないただの女子高生。もしもあの時、桜華さんに助けられていなかったらどうなっていたのだろうか。
自分の身を危険にさらし助けた理由。
広いあの家に一人で身を置く意味。
相手の思考を先読みするような言動。
そして今、身の上を打ち明けた振る舞い。
ただ何となく一緒に過ごしてきたが、訊くのが怖かった桜華さんの内面部分。私もそうだけど、桜華さんにはどこか見透かされている気がしている。
「もちろん私のことも知ってほしいです。だからその――」
「もういいよ、ありがとう」
私の体を支えるには大げさな両腕を腰に回し、優しく抱きしめてきた桜華さん。身長差があるにも拘らず肩口に顔を近づけてきて、耳もとで囁くか細くも熱気を孕んだ声音。
「桜華さん……」
それが余計に怖くて、胸の内側を締めつけてくる。
だから、離すまいと桜華さんの上着を掴む。
「大丈夫だよソラちゃん、私はここにいるから」
暗がりでお互いに表情がみえないのに、まるで私の心を読んだかのような口ぶり。挙句子供でもあやす感覚なのか、さらに抱き締めてくる。
「けど今は、水族館を楽しもう」
「……桜華さん。私のこと子供扱いしてますよね」
「そんなことはないよ?」
口ではそう否定してくるが、背中に回された手は優しく撫でてくる。
けど、それもイヤじゃない。
いつからかわからないが、私の中で桜華さんに対する基準が甘くなっている気がする。
……いや、元からか?
「ソラちゃん、そろそろ離れてくれる」
「そ、そうですね」
たとえ暗がりとはいえ、少なくとも私達意外の来場者もいる。いつまでも抱き着いているわけにもいかず、桜華さんから離れた。
こういうところなんだろうな、桜華さんが私のこと子供扱いするの。
それからまた、ゆっくりと水族館を巡った。
とまあ、楽しい時間が過ぎるのは本当に早い。
もう一周くらいはしたい気持ちはあったが、時刻はすでに夕方を迎えていた。急いで帰宅する理由はないけど、私がいつまでも居続けてしまいそうな気がする。
誘われた立場としては、充実のいく堪能できた一日だった。
そして今、お土産コーナーに立ち寄っている。
目につく水族館にいた生き物のぬいぐるみやキーホルダー。日常的に使えそうなボールペンからマグカップなど、所狭しと商品が陳列している。
ただ私は、買うつもりがない。
理由は色々とある。
ぬいぐるみは年齢的に子供っぽいし、大きさによっては持ち帰るのが一苦労。生活用品の一部分として使えるグッズは魅力的だが、どこかピンとこない。
「ソラちゃんは何か買わないの? 欲しいのあったらいって」
「ああ、私は大丈夫です」
「ええ~何かない? ほら、記念的な感じでさぁ~」
「……記念ですか」
ちょっとした修学旅行の感覚に近いのか。桜華さんはカゴを片手に、あちこちと商品を手に吟味している。特に小さめのぬいぐるみを前に、難しい表情を浮かべていた。
優衣ちゃんにあげるんだろうな。……なら私も、楓や夢凪に何か買っていこう。
桜華さんの部屋を出入りする限り、ぬいぐるみのような物を目にしていない。無難にクッキーなど日持ちする物でもよさそうだが、優衣ちゃんが次いつ来るのか。
お土産コーナーをふらり、私はあてもなく巡る。
「……」
不意に目についたそれを手に、桜華さんの姿を探した。
レジからは死角で、それほど並ばずに会計を済ませられる。カフェや水族館の支払いはすべて桜華さん持ちだったから、手持ちのお小遣いには手をつけていない。
「記念じゃないけど……、これにしよう」
人目を盗むわけではないが、桜華さんにみつからないようレジに向かう。桜華さんからの変な勘繰りを避けるため、楓や夢凪とお昼休みにでも食べられるクッキーの箱を一つ。
「すみません。これだけラッピングってできますか」
「かしこまりました」
大げさすぎるかもしれなかったけど、桜華さんの言葉を借りよう。レジ奥にポップされていたラッピング用紙にそれを包んでもらい、会計を済ませてその場を離れた。
「あれ、自分で買っちゃったの」
「ま、まあ、友達用ですから。桜華さんは優衣ちゃんにですか」
「そう! 何がいいか悩んだけど、意外とウイってぬいぐるみとか好きなんだよ」
小さくて抱えられるペンギンのぬいぐるみ。真面目な印象が強い優衣ちゃんだけど、それを持つ姿を想像すると普通に可愛らしかった。
「ソラちゃんは自分用で何もいらないの?」
念を押すように訊いてくる桜華さんに、私は首をただ横に振った。
どこか納得がいかない様子の桜華さんだったけどレジへと向かい、会計が済むのを出口で待つ。
……み、みられてないよね?
私の会計が済んだタイミングだったから、驚きと不安で鼓動がやけに早い。一度気持ちを落ち着かせるため、ゆっくりと深呼吸しながら桜華さんを待った。
それから私たちは、水族館を後に帰路に就く。
「……話、私の家でいい?」
「はい」
夕方の混み合う電車に揺られながら、短めに小声でやり取りを交わす。それ以降の会話はなく、夕陽の染まる街並みを車窓から眺めた。
お互いに荷物で片手が塞がり、つり革も掴んでいるから行きとは違う。
ただ、肩がぶつかる近さで寄り添い合っていた。
◇ ◇ ◇
帰宅して第一に、玄関の惨状を目の前に頭痛を覚える。
「桜華さん……」
「ごめんね、本当に急いでたんだ」
ひとまず散らかっている靴を一緒に片づけ、リビングで一息吐く。帰りの電車からマンションまでも会話はなく、景色を眺めるふりで時間は潰せていた。
だけどこうして、閉鎖された部屋に入ると空気が変わった気がする。
私の方から桜華さんのことをもっと知りたいと踏み込んだ一歩。緊張がないわけじゃないけど、タイミングを見計らってしまう。
「ソラちゃん、お腹空いたぁ~」
「……そうですね」
そんな桜華さんは通常運転。玄関の片づけを済ませた途端、着替えなんて済ませずソファでうつ伏せに寝っ転がる。
挙句、夕飯の催促だ。
独り身構えている気がして、肩を落として生返事をしてしまう。
「ちなみに今日、日曜日ですよ」
「うぅ~ソラちゃ~ん」
「ダメです。ほら、起きたら手を洗ってきてください」
まるで幼子のように呻き、桜華さんはソファで両膝を抱えて丸くなる。間に顔を埋めていた肘掛けのクッションを挟み、テコでも動かないという強い意志。
ホント、困った人だな。
それでも甘やかすわけにもいかず、ソファの背もたれ側から抗議がてら覗き込む。
「歩き疲れたぁ~」
「じゃあ、そのまま寝ます? だったら私は帰りますよ」
「……ソラちゃんのイジワル」
そう言って頬を膨らませ、クッションを盾に抵抗する構えを解いてくれない。
それすらも計算なのか、私が帰れない理由を知っている桜華さんの強み。だから落としどころをみつけるしかない。
声もかけずソファを離れ、キッチンの方へと向かう。
おお、こんなに作り置きがあるなんて。……優衣ちゃん恐るべし。
冷蔵庫を開けて、積み重なる保存用タッパーの数々。手当たり次第に興味が向いたタッパーを手に中身を確認する。みるまでもなく予想通りのおかず達は、バリエーションが豊富だからどれを食べようか悩んでしまう。
手を加えられた魚の切身や野菜と鶏肉の煮つけ、わざわざひき肉から混ぜたと思しきハンバーグ。他にも煮つけと同じはずの切身は焼かれ、ほとんどが温めるだけの料理済み。偶然スーパーで鉢合わせた私だからわかる、どれもあの時に買い込んでいた食材ばかり。全てがこのため用なのか、桜華さんが一人で食べるには量が多い気もしなくはない。
私の考え過ぎでなければ、二人分を用意してくれているようにも思えた。
……この数字は何だろう。
つい優衣ちゃんの凄さを目の当たりに、タッパー側面に目が留まった。小さめに切られたラップの上、油性ペンの黒で書かれた整数。一から始まり、四で終わっている。
「一から使えばいいのかな?」
どんな思惑かわからず、私の直感を信じて数字の『一』と書かれたタッパーを取りだす。それをレンジで温め、適当なお皿に盛りつける。
これくらいなら、仕事で家事が疎かな桜華さんでもできそうだ。問題の洗い物は考えないものとして、私がしようと思っていたことが施された環境。
逆に、それだけ桜華さんは優衣ちゃんに甘えていることになる。
「桜華さん、ご飯できましたよ」
「はぁ~い」
ほとんどは優衣ちゃんが作り置きしてくれた物で、私は温めただけ。そこには触れるどころか、桜華さんは気にした様子もなくソファから起き上がる。
キッチンとリビングを何往復かし、私は桜華さんと食卓を囲んだ。
「……ソラちゃん。その箸、ウチにあったっけ?」
「さっきの水族館で買ったんです。気に入ったというか、こういう機会が多いからマイバシ的な感覚ですかね」
「へぇ~」
どこか気の抜ける感心したような桜華さんの声を耳に、私は自慢げに胸の前で掲げる。
水族館で観た生き物たち描かれ、色や柄が多くてちょっと悩んだ。だけどまあ私は、一目みて青い海を漂う半透明な存在――クラゲが描かれていた物を手にした。
「子供っぽいですかね?」
「そんなことないよ。私も想い出だって言ったし、ソラちゃん……クラゲ好きなんだね」
「……やっぱり子供っぽいって思ってますよね?」
確かにクラゲを眺めてるだけで癒されたし、そんな時間は苦じゃなった。いつまでも水槽の前に張りついていたかったけど、それ以外の理由もある。あの暗がりの影響か、少しだけ素の部分を桜華さんにみせたと思う。
思い返しただけでも、かなり私らしくない行動だったかもしれない。
桜華さんもあの時を思い出したのか、柔らかな笑みを向けてくる。
それがちょっと気に触れたけど、私はもう一組の箸をテーブルに置いた。
「ちなみにこれ、桜華さんにどうかなって選びました」
無難というか、水族館の生き物達からの桜華さんを照らし合わせた。
ピッタリと箸同士を合わせると浮かび上がる、白と黒が印象的なペンギン。水槽の中を泳ぐ元気な子もいれば、岩場からピクリとも動かない子など。コロコロと変わる桜華さんの表情のようで、私が一番に感じて選んだ。
「……使っていいの?」
「洗い物をしてくれる条件なら」
これが私なりの、桜華さんに対する落としどころ。
それもこれも、私が桜華さんと一緒にいたいと思ったから。こうして家を出入りし、家事をするだけの関係でもよかった。
ただそれだけなら、お揃いのような物を選んだりしない。
不思議そうな表情から一転、桜華さんはわざとらしく頬を膨らませた。
「わかった。ソラちゃんに準備は任せっぱなしだったし、洗い物くらいはするよ」
「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか」
険しく眉間にシワを寄せる表情は珍しく、少しだけ心の中がざわついた。
「怒る? そんなつもりはないんだけど、ただ……ソラちゃんも私の扱いが上手くなったなぁ~って」
桜華さんは用意した元の箸から、私がプレゼントしたのへと持ち替える。
「……それだけですか?」
「そう。まるでウイみたいでさ、そのうち尻に敷かれるのかなぁ~って」
「そんなつもりはないですよ」
実際に血の繋がない姉妹とはいえ、桜華さんと優衣ちゃんは明らかに立場が逆転している。年上だとか年下は関係なく、どれもこれも気持ちのありようで変わりそうな気がしなくもない。
どこか気まずくなる空気だったが、桜華さんは両手を合わせる。
「理由はどうであれ、ソラちゃんが私のために選んでくれたことが嬉しいかな」
「それなら……良かったです」
笑顔でそんなことをいわれたら、ちょっと心が痛い。
今回は上手くいったとはいえ、元もとは適当に理由を考えて渡すつもりだった。
それに今日、多分だけど桜華さんとの関係が少しだけ変わる。その度にこれを目にして、思い返すかもしれない。
それがどんな形になろうと、私なりにも心の落としどころになる。
「ソラちゃん、肩肘張らなくていいんだよ?」
「そ、そんなつもりはないですよ」
まるで私の心を見透かした口ぶりに、桜華さんは煮つけの身をほぐし始める。
「それで、私のことを知りたいっていうけど……大まかなことは水族館で話したと思うよ」
「それは……はい」
短く返事をすると、桜華さんは不思議そうな表情で一口身を頬張る。
確かにこの家――岬家のことは表面的に色々な事情を抱えているとわかった。それじゃない、私が知りたいのは桜華さんのことだ。
「正直、家事が出来ないのにどうして独りで生活してるんですか? それにこの家だって、広すぎますよね? たとえ血の繋がらないとはいえ、家族……優衣ちゃんに対して気を遣ってたり……あとは、どうしてあの時私を助けてくれたの――」
「待って待って、一度の質問が多いから。順を追って訊いてくれないかな?」
慌てた様子で私の言葉を遮り、桜華さんは半笑い気味に口角を上げていた。
……しまった。何から訊こうとか考えてなかったや。えっと~どうしよう。
ほぼ見切り発車に近く、漠然とした知りたいという興味の中身は空っぽに等しい。
「とりあえず、食べながら考えてもいいよ? それで思いついたら訊いて、冷めちゃうし」
「……いただきます」
桜華さんの大人なの対応に、私は静かに首を縦に振った。
口の中に広がる煮つけの甘しょっぱさが程よく、ご飯と一緒に食べるのにちょうどいい。それを喉に詰まらないように味噌汁で流すと、ようやく一息吐けた。
「一番に気になったのは、私を助けてくれた理由ですかね」
「まあ、そうだよね」
食べる手を止めない桜華さんは、困ったような表情で笑う。
「手短に伝えると、あの時のソラちゃんが私と重なったからかな」
「私と桜華さんが?」
「そう。自分のいったこともない場所で、独りになって考える。だけどどこに行けばいいかわからないから近場を選んで、何かあってもいいように人の多いところでぼ~っとするだけ。……そうしていればいつか思いつく、今を変える何かが考えつくかもしれないってね」
決して茶化すわけでもなく、真剣な表情に混じる自分を嘲る声音。
だけどそれが、出逢う前の私が取った行動と当てはまっていた。
お父さんとお母さんは強く薦めはしないものの、おそらくお姉ちゃんと一緒の大学に進学してほしい筈だ。けど、現実的に私の成績では難しい。今から猛勉強すれば結果が変わったとして、私がそうしたいのかわからなくなった。
桜華さんにも、そんな時期があったんだ。
似た既視感に、桜華さんを真っすぐと見据える。
「私さ、物心ついた頃からホントの両親と一緒にいた記憶がないんだ。気づいたら顔も名前も知らない子達が周りに大勢いてさ、そこで働く大人たちと生活してたの。まだ上手く言葉を話せない年下から、年は離れたお兄さんやお姉さんばっかり。……その内の私は一人だった」
桜華さんの抑揚もなければ、事実だけを滔々と口にする様子。
私は話の腰を折らないため口を紡ぎ、静かに耳を澄ませた。
「生憎と日本の義務教育制度のお陰で学校には通えたけど、しだいに私が置かれている環境は周りとは普通じゃないってことに気づいたんだ。だけど子供の私には何もできないし、どうしようもないことだって思ってた。そんな小学校を卒業する頃にさ、岬家の夫妻――今のお父さんとお母さんが引き取りたいって申し出てくれたの」
ただぼんやりと過ごす私と、桜華さんは小さい頃から色々とみて知ってきた。……そんなの全然、私なんかと似てなんかいない。
口もとに手を当てる桜華さんは、どこか躊躇うように視線を彷徨わせる。
「理由は……うん。夫妻は子供に恵まれなかったからで、せめてもと私だったらしい」
知識としてはそういったこともあり、上手くいかなくなる家庭もあるらしい。
「それで卒業のタイミングで引き取られ、中学からは岬家の子として知らない土地で過ごすことになっただ。けどその数か月後、ウイの妊娠が発覚したの。だから元居た場所に戻されるかと思ったら、家族として一緒にいてほしいって頼まれたんだよ」
本当にどうしようもなく、桜華さんがどうこうできるわけのない偶然が重なった。
リビングに視線を向け、ゆっくりと見回す桜華さんの横顔は柔らかい。
「それからウイが生まれて、しばらくは四人で過ごしてたんだけどね。私のおじいちゃんにあたる人がさ、ウイの妊娠がわかった瞬間に喜びのあまり郊外に家を建てたんだって。その好意を無下にもできず引っ越す話をされた時にね、私は悩んだんだ。このまま一緒にいていいのかなって」
この十六年近く生きている中で、一度たりとも抱いたことのない感情。たとえどんな形とはいえ、その相手が家族となると複雑どころか、私にはとって未知の領域でしかない。
「その時の私とソラちゃんが雰囲気っていうのかな。似ているような気がして、ナンパされて連れてかれる間に割って入ったんだ」
戻された視線を真っすぐと、桜華さんは笑いかけてくる。
「結局私のエゴだよね。ごめんね、大それた理由がなくて」
「そんなことないです。……今でも助けられたことには、感謝してますよ」
でなければこうして出逢い、一緒に食卓を囲んでいない。
語り終えたかのように桜華さんは言葉を区切り、黙々と箸を動かしていく。
今の話を聞いて桜華さんがどういった決断を下し、この場に居るのか想像してしまう。
この話をもしも優衣ちゃんが知ったら、どう思うのだろうか。少なくとも桜華さんの口ぶりから、引き取ってくれた夫婦からは歓迎されていた。それは今でも変わらずで、家族として思っているのではないだろうか。
であれば、この家を引き払って無理にでも一緒に住む形をとる。
そこを曲げず、桜華さんの意志を汲んでくれたのだろう。
……そうなると、だ。過去に付き合ってきた人たちは、どう繋がるのだろうか? 優衣ちゃんの口ぶりから、この家に出入りをしていたわけではなさそうだ。
であれば、相手の家か外で会っていたことになる。
「桜華さんは、寂しさを埋めるために他人を求めてた?」
「……ソラちゃん?」
話からして高校、もしくは大学生くらいの頃には一人暮らしをしている。家事をどうしていたかわからないが、付き合っている相手があの悲惨な光景を目の当たりに正気でいられるか。
特に夏ともなれば、目も当てられないだろう。
それに過去を振り返ってみれば、同じマンションに住んでいて異臭騒ぎのようなものはない。少なくとも、何かしらの方法で家事をこなしていたことになる。
「ソラちゃん。……だ、大丈夫?」
「ふへ? な、何がですか」
「ぶつぶつと独り言みたいなこと呟いてたけど……私がなんだって?」
心配そうな表情で顔を覗かれ、テーブルを挟んだ距離だから腰を浮かせて距離も近い。
「……っ!?」
どこからを指し示すのかわからないが、桜華さんを心配させる程のことを私は口にしていたことになる。しかも無意識だから、勝手な妄想を含めて纏まらない言葉に違いない。
恐る恐る桜華さんに視線を向け、どうにか笑みを繕って問いかけてみる。
「ちなみにですが、何って言ってました?」
「……私が寂しさを埋めるためとか、なんとかって呟いてたと思うけど」
よりにもよって一番聞かれたくないことだった!
だってそれって、私がただ過去に付き合ってきた顔も名前も知らない相手を変に意識していることになる。しかも付き合うどころか、桜華さんと同性である時点で同じ土俵に立てない。ただの重いヤツで、面倒くさい限りだ。
これは、そう! 優衣ちゃんが口にした『恋人』って単語に引っ張られてるだけ。だから気になって、桜華さんのことを知ろうって思ったんだ。
……それはそれで、何も変わらないんじゃないか?
「お~い、ソラちゃ~ん。本当にどうしたの?」
「ちなみに聞きますけど、過去に誰かと付き合ったことってありますか?」
さっきより桜華さんの顔が近いことに動揺して、咄嗟に口からでた言葉。のど元過ぎれば何とやら、本当にただの面倒くさい女でしかない。
「……恥ずかしながら、誰とも付き合ったことはないよ」
しかも、懇切丁寧に答えてくれる桜華さん。明らかに唐突な質問の意図がわからず、表情も真顔に近かった。
ええい! こうなったら、桜華さんにどう思われてもいいから全部聞くしかない!!
半ばやけくそになりながら、私は心の中で自分を叱咤する。
「昨日の帰り、優衣ちゃんに付き合ってるのかって訊かれたんです。今どき同性愛とか不思議じゃないし、なぜか急にお願いされて……それから~」
つい昨日のことなのに、一周回った衝撃でよく思い出せない。
「話が見えないんだけどソラちゃん、とりあえず落ち着こうか」
「そう、ですね」
やっぱり私は、昨日から調子がおかしい。
原因は明らかに、優衣ちゃんが私のことを恋人だと勘違いしたところからだ。
冷めてしまった煮つけの身をほぐしながら、私は一度心を落ち着かせる。よく染みた甘しょっぱい味は濃くも、是非ともレシピを教えてもらいたい。
「……それで、そのぉ~優衣ちゃんが、私のことを恋人だって勘違いしているようなんですよ。しかも同性愛に関してもおかしくない、どころか認めてる節があって……はい。桜華さんはその辺、どう思ってますか?」
冷静に私は優衣ちゃんの言葉を纏め、慎重に桜華さんへ訊ねる。
桜華さんの考える表情は真剣で、眉間にまでシワが寄っていく。
「もしかしたらウイ、私が仲良くしてた子の話を聞いてそう思ったのかも」
「そんなことあります?」
どんな曲折があれば、友達の話を恋人の惚気だと勘違いするのだろうか。
何かを思い出したかのように笑う桜華さんを、私は不思議なものを見る視線を向ける。
「まあ、過去に何度か告白されたことはあるよ。その相手がよく話す人とか、相談事を持ちかけてくる間柄でさ。少なくとも厚意、これは好きじゃないよ。誰もが思う気持ちを抱いてたし、普通に仲の良い友達だったかな」
……告白はされたことがあるんだ。けど、付き合うことはなかった。……なんでだろう。
その経験が無い私からすると、やっぱり桜華さんは少しだけ大人だ。
「んで私は、その頃からここで独りだったわけ。まあ、週末になればお母さんが家のことしに来てくれてたんだけど……」
何故か恥ずかしがる桜華さんだが、今さらな気がする。
「それでお母さんが家事してる間、私がウイの遊び相手。その時に話してたのを聞いて、私に恋人がいるって勘違いしたんじゃない? まだ小学校に上がる前だったと思うし、私も何となぁ~く内容はわからなくてもいいからウイに聞かせてたかも……」
「小さい優衣ちゃんになって言う話を聞かせてるんですか」
想像したくもないが、恋愛絡みとなるとドラマのようとはいわず色々ある。……あくまで私の中での恋愛事情だ。
そうなると現状の優衣ちゃんは、桜華さんの話を真に受けたままになる。
「だからうん、ソラちゃんが気にすることじゃないけど……もしかして、変に意識させちゃったのかな?」
「なんですかその物言い。……まるで恋愛経験が豊富だっていう嫌味ですか」
「ええ、まさかの逆ギレ!? だってそういうことでしょ。きゅ~に私のこと知りたいとか、過去の交友関係なんて訊かないと思うよ?」
妙に鼻にかかる口ぶりに、私はムスッとした態度で接する。
「じゃあ仮にそうだとしますよ。私が桜華さんのことを恋愛対象として好きで、付き合ってくださいって言ったらどうするんですか?」
「いいよ」
「即答!?」
驚きすぎて声を荒げてしまった。桜華さんも揶揄った様子はない。
……え、この場合どうなるの?
澄ました表情で夕飯を食べる桜華さんに、私は目すら合わせられずにただ戸惑う。
「私も胸を張ることじゃないけどさ、ソラちゃんと一緒で恋愛なんて未経験。過去に付き合ってほしいって言われたことはあったけど、どうして私なんだろうって不思議だったんだよね」
……今、マウント取られた?
箸を置いた桜華さんは、微かに口角を上げる。
「だってこれだよ? 家事はお母さんどころか、妹のウイや赤の他人でしかないソラちゃん任せっきり。そんな私を知らない他人に告白されても、多分だけど幻滅されそうなんだよね」
「まあ私も、桜華さんの第一印象は跡形もないです」
「それでもソラちゃんは、私から離れていかなかった。見捨てずないで一緒にいてくれる相手から付き合ってほしいって言われたんだよ……ううん、違うかな。ソラちゃんだから付き合いたいのかも」
恥ずかしそうに照れた笑みを浮かべられ、ソワソワと落ち着かなくなる桜華さん。
そんな様子を目の当りに、私の鼓動がさらに早くなっていく。呼吸の仕方も忘れそうになるほどで、どれだけ体育の授業で動いてもなったことはない。
ああ、そっか。この気持ちが……そうなのかな。
何の確信もなければ、未知の体験で戸惑いしかない。
だけどこの、胸の奥から湧きでてくる温かな感覚は――、
「好きです。……桜華さん、私と付き合ってください」
自然とでた言葉に、私自身も驚いてしまった。
「その、不甲斐ない私でよければ喜んで」
けどそれ以上に、桜華さんの嬉しさを前面に曝けだす表情。何度も目にしてきたコロコロと変わる一面とは違い、どこか毅然としながらも照れの部分を隠しきれない微笑み。
ただそれだけなのに、湧きでる気持ちがさらに溢れてくる。
「不甲斐ない部分は、しだいに直してくれると助かります」
何を、とはあえて指摘しないでおく。それくらいは桜華さんでも自覚あるだろし、私も付き合っているとはいえ甘やかすつもりはない。
「え~ソラちゃんのイジワル~」
子供のように頬を膨らませ、テーブルの下で落ち着きのない両脚が暴れている気配。こうも不満を態度にまでだされると困ってしまうけど、一段階グレードアップしただけに過ぎない。
だから私は、できる限り態度を一貫して接する。
「洗い物、お願いしますね」
かれこれと話しているうちに時間も経ち、夕飯はすっかり冷めている。作ってくれた優衣ちゃんには申し訳ないが、冷めても美味しく頂けました。
「ふぅ~美味しかった」
食後で膨れたお腹を落ち着かせるため、ソファの背もたれに身体を沈ませ寛ぐ。我が家とまではいかないが、同じマンションだけあって間取りは一緒だ。特に観るでもない点けっぱなしのTVを眺めつつ、キッチンの方へと耳を澄ませる。
カチャカチャと聞こえる食器を洗う音。
そう。私の本日最後の使命として、桜華さんがしっかりと洗い物をしたのを見届けないと帰れないのだ。
「はかどってますかぁ~」
「頑張ってまぁ~す」
見届けるといっても、付きっきりでいられるのも気が散りそうなきがした。だからさっきから似たやり取りを繰り返すだけで、食器の割れる音はまだ聞こえてはいない。
どうやら無事に帰れそうだ。
「ソラちゃん終わったよぉ~」
「じゃあ私は帰りますね」
水の流れる音が止み、近づいてくる桜華さんの気配にソファから立ち上がる。
「もう帰るの? まだ一緒にいようよぉ」
「いようって……帰ってきた時、歩き疲れたと言ってませんでした?」
「ソ~ラ~ちゃ~ん」
行かないでと抱き着かれ、左右に身体ごと揺さぶられる。
……これは、早急すぎたのではないだろうか。
前面に押しだされる、ほぼ幼児退行に等しい言動。夕飯を食べている時だって、脚を絡めてこようとちょっかいをだされ。同じ夕飯メニューなのに理由もなくシェアしたがるなど、とにかく手に負えなかった。
「帰りが遅いと両親が心配するので」
「じゃあ明日は?」
「……」
平日だから学校はあるが、桜華さんの家に来る日ではない。
ただ、付き合い始めたばかりではある。
私の顔を覗き込んでくる桜華さんの目がみれず、身体を無理やり引き剥がす。
「明日は、学校の課題とかを片づけたいのでダメです」
「じゃあ明後日」
間髪入れない桜華さんに、私は大きく息を吸って吐きだす。
「この家に来るのは火曜と木曜、それと日曜日だけです」
それだけを言い残して、私はその場を足早に退散する。そうでないと帰してもらえないどころか、桜華さんのペースに振り回されそうな気がした。
適当に靴を履き、マンションの細い通路を躓かないように走る。エレベーターの上ボタンを連打するも遅く、普段は使わない非常階段を昇った。
「桜華さんに悪いことしたかな」
私としては、まだ一緒にいても良かった。
だけどやっぱり、距離感というものがまだわからない。桜華さんからのスキンシップが多目にはなったものの、私からどう接するべきなのか。
「……誰だろ」
ポケットに入れていたスマホが震え、私は気になって取りだした。
《友達へのお土産忘れてるよぉ~》
そんな一文に続き、何故か顔の横で掲げてみせつける桜華さんの写真。その表情が嬉しそうで、余計に取りへと戻りづらくさせる。
けど、せっかく買ったんだし月曜日には持っていきたい。
「戻るか」
私はスマホをポケットにしまい、短く息を吐く。潰れた踵の部分をしっかりと履き直し、薄暗い非常階段をゆっくりと下る。
どうにも締まるどころか、肝心なところですらだらけてしまう関係性。
それですら私達らしくもあり、こういうのが続いていくような気がした。