7話 不純な動機(2)
クラン加入登録を終えた僕はニイさんからクランルームの鍵を貰った。
鍵は無くしてはダメだよ。と注意を受け暗証番号を教えてもらった。暗証番号は毎月変更しているらしく今月は『5003』だった。
「もしかして来月は『5004』だったりしますか?」
「よくわかったね。覚えるのが楽でいいでしょ」
それはどうなんだろうか。今は2050年3月なので年月から取って『5003』なら確かに覚え易いが。
装備は置くとしても貴重品は置かないようにしないと、と今後の方針を決めた。
クランルームには持ち物を空いてる場所に自由に置いてくれたらいいよと言うのでスチール棚の空いてる場所に装備を押し込んだ。マヤさんとぼんちゃんは各々場所を決めているのか慣れた手つきで装備を片付けていた。
この後やる事があるから、とニイさんはそのままどこかへ行ってしまった。ぼんちゃんもお疲れ様といい帰って行った。マヤさんと2人きりになった。
マヤさんがごそごそと荷物を触っているのを見ていると視線に気付いたのか話し出した。
「これからお風呂に行くんだよー。場所が分からないなら一緒に行こうよ」
朝のやる気の無かった職員から案内を聞いていたので当然知っていたが何故か場所を忘れてしまったのでマヤさんと一緒にお風呂に行く事になった。一緒にお風呂かぁ。
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一緒にお風呂に行くと言っても混浴ではなかったので更衣室の前でマヤさんとは別れた。
風呂の扉を開けると湯気が出ており見てみると大浴場と小浴場、打たせ湯にサウナもついているようだ。
洗い場にはボディーソープも備え付けられており至れり尽せりだ。
周りには筋肉質な男ばかりで僕の貧弱な身体では浮いてしまうことに気付いた。
さっさと出てしまおうかも思ったが湯加減も良く気持ち良かったので長湯してしまった。
クランルームに戻り扉の隣についている入力端末に鍵を当てたのち暗証番号を打ち込むと扉が開いた。
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扉を開けるとそこには尻があった。
ソファーを仰向けになって寝そべっているマヤさんの尻だ。
マヤさんの格好は上はピンクのモコモコしたパーカーを羽織っており下は薄いピンクのルームウェア用のパンツを履いていた。素肌を晒している健康的な脚に嫌でも目がいってしまう。風呂上りのために触るとスベスベしてそうで石鹸の匂いがしていた。
「おかえりー。長かったね」
マヤさんはこちらに振り向かず出迎えの言葉を発した。疲れていてくつろいでいるのかソファーにうつ伏せになって何か手に持ってそれを眺めている。椅子に座ろうと思い近づいて見るとマヤさんは携帯端末で何かを見ているようだった。
ダンジョン化が起こってからは遺物として知られるそれは軍用品を見つけたり壊れても直して使ったりされてきた小型携帯型情報端末、いわゆるスマホだった。
スマホはダンジョン化以降は製造されていないがこの近辺では旧東京エリアで電源が切れた状態の物が発見されることが多い。
「珍しいですね。スマホ持ってたんですか」
「うん。今日は来てなかったメンバーのゴーゴーくんに貰ったの。最近出席してないけどゴーゴーくん来たらその時橘くんを紹介するね」
こちらの顔も見ずにスマホを凝視して何やら操作している。僕はスマホを持ったことがないのでマヤさんが何をそんなに真剣に操作してるのか分からない。
マヤさんがこちらを向かないので僕は仕方なくマヤさんの尻を見ながら話しかけている。
そういえば今日初めてクランルームに入った時もソファーで横になっていたな。
その時もスマホを触ってたのかもしれないとあの時の体勢を思い出していた。
ふと点と点が線に繋がったが、この椅子に座ると丁度正面にマヤさんの尻が視界に入る。
そうか、ぼんちゃん文庫本読むフリしてたな。と一人で納得しているとスマホを操作しながらマヤさんが話を続ける。話すたびに尻が左右に揺れるので見ていて飽きない。
(フリフリ)
見ているだけじゃ退屈だろうから、
なぜスマホがそのままで残っているのかの説明をしないといけないだろう。
(フリフリ)
ダンジョン化以降はダンジョンから溢れ出たモンスターにより都市に被害が出ていた。
各地では自警団を結成して防衛を続けていたが限界があり防衛出来る地域と出来ない地域が明確になっていった。
(フリフリ)
当時の自衛隊基地があった地域は防衛出来ていたが、商業地区や住宅街は防衛機構などなかったのもあるし人が大勢いたのでモンスターの餌場と化してしまっていた。
人的リソースに限りがあることから日本政府は断腸の思いで防衛ラインを設定し撤退戦を行った。
これにより人類生存圏とモンスター生存圏が明確になった。
(フリフリ)
人類生存圏にもダンジョンがあったがダンジョン内のモンスターを間引いておけば外に溢れてくることがないと判明した為冒険者ギルドの運用が始まった。
当然捨てられた土地の人達は奪還するように猛反発をしていたが日本政府はある案を実行した。
土地の名前を無くしたのだ。
頻繁に旧土地に縛られた争いが起こっていたために復興エリア内皆が同じ仲間だという意識づけが必要なのであった。
(フリフリ)
例えば、北部復興エリア1、2といった風に北部、中部、南部などというように大きく分類して命名されている。
ちなみに僕達がいるのは中部復興エリア3である。
(フリフリ)
復興エリアを徐々に大きくしていくことが目的であり日本全土の奪還が悲願でもあった。
復興エリア外の捨てられた土地やダンジョンにはモンスターが闊歩しているがその分リターンは大きいとされている。スマホなどにモンスターは関心を示さないのでそのままの状態で残っているのだ。
なので復興エリア外を活動のメインにする冒険者もいる。
(フリフリ)
「そのゴーゴーさんは外に出てるんですか?」
「ええとね、確か、『大学の卒業旅行で地元のダチと北部復興エリア3に行ってくるわ』って言ってたかな?
チーズケーキのお土産をお願いしておいたんだよね。
美味しいらしいよー」
「ちなみに今日会えていないもう一人の方はどんな方なんですか?」
「さぁ私が入る前から幽霊メンバーになってたみたいだから分からないなー。
まぁでもこのクランって毎日の出席ノルマもないしクランポイントのノルマもないから問題ないんじゃないかなー。
ニィニィの目的も在籍メンバーを増やす事だって言い切ってたもん。
ここはまったりクランだから良いよね。こうやって電気使っててもニィニィが支払ってくれるし。他だったら割り勘だよ、そんなの払えないよねー」
ニイさんがクランリーダーをしているこのクランは『まったりクラン』と呼ばれる運営方式が採用されていた。
普通のクランでは毎日出席が義務付けられておりクランポイントのノルマも決められているところが多かった。
クランポイントとは、モンスターを倒して納品する事で換金以外にクランポイントと呼ばれるポイントが与えられる。
そのクランポイントはクラン毎に集計されており決められた期間毎のポイントの多さでクランの順位を決めていた。
上位に入賞したクランとそのクランメンバーには恩恵が与えられるので多くのクランは入賞を目指していた。
なので、クランポイントのノルマのためにダンジョンに潜っているとさえ言われるブラッククランも存在していた。
そういえば3月だから月末には四半期(注:三ヶ月毎)のランキングが発表されるのか。
このクランだと入賞は無さそうだな。
最下位の等級が3人、旅行で遊びに出かけてる奴と幽霊メンバーじゃいくらニイさんが強くてもクラン入賞は出来ないな。
ランキング入賞出来そうなクランにしとけば良かったかなぁ。
入ったばかりなのに図々しい事を考える僕であった。
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「マヤさんは家に帰らないんですか?」
壁に掛けてあった時計を見たら18時を過ぎていた。少し尻を長く見過ぎていたようだ。
「私ここで寝泊りしてるんだよ。ニィニィが空いてる場所なら好きに使って良いって言ってたからねー」
マヤさんは僕が考えていたことを実践していた。好きに使ってもいいというのは装備のことだよと言われても僕は “空いてる場所は好きに使っていいと言われましたよ" と言い張るつもりであったので先を越されてしまった。
一緒に寝るわけにもいかないし安アパートに戻るしかないか。
僕はマヤさんに家に帰ると告げ出て行こうとしたら、
「おつかれーまた明日ねー」
マヤさんは起き上がってこちらを見て手を振ってくれた。やっぱ可愛いなぁと心が癒された。
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お金がもったいないので6キロ歩いて帰った僕はそのまま疲れて眠りこけてしまった。
カーテンや蛍光灯を付けてないけど明日付けよう。
布団を買えてないからそのまま寝た。
その夜、僕はレベルアップした。
僕のレベルは1から2にあがった。




