5話 武勇伝を聞いた話
僕がクランに加入がするかどうか悩んでいる理由はマヤさんとぼんちゃんの2人にあった。
僕よりも先に加入しているにも関わらず<脳天割り>のスキルさえ生えていない彼女等は戦闘の度に横になって倒れ込んでいた。
僕は本気で冒険者になろうと思っている。
生半可な気持ちではないし冒険者は死と隣り合わせだ。
それで背中を預ける事になるだろう2人とこんな状態で一緒にやっていけるだろうかと懸念が生まれつつあった。
ニイさんの指導には疑いようが無いし聞けばなんでも教えてくれる。
他の冒険者を知らないがニイさん並みに親身に教えてくれるような機会が最下位の冒険者である僕に得れるだろうか。
パーティは基本同等級で組むのが良いと聞いていた。
パーティへの貢献度や報酬で等級が違い過ぎると揉める原因になるからだ。
噂に聞くが報酬の分配で揉めてクランを追放されてしまうなんてのはよくあることらしい。
この閉鎖的な社会では追放されるなんてのはよくあることだ。
なので本来ならばE級のニイさんとG級の僕が一緒にパーティを組むなんてあり得ないことだった。
2人には悪いが背中を預けて安心できる気がしない。でもニイさんとの繋がりは欲しかった。
ダンジョンの通路を歩きながら僕はどうするのが得かと考えていた。
※※※※
暗い通路を進んでいく。
通路から何かが現れた。
「大ネズミと大ニワトリです!」
とぼんちゃんが敵を識別した。
僕は大ネズミの相手をし、マヤさんとぼんちゃんは大ニワトリとの戦闘を開始した。
大ネズミの突進を小盾で防ぎ、大ネズミへ<脳天割り>を打ち込んだ。
クリティカルだ。
大ネズミは息絶えた。
戦闘を終え二人の方を見るとまだ戦闘は続いている。
ぼんちゃんが盾で大ニワトリの嘴での突きを防いでいた。
ニイさんは後ろで腕組みをして見守っていた。ダンジョンに潜ってからずっとこの調子だった。
「目を突いてくるから抉られ無いように!
前脚で腕を掴まれると千切られるぞッ!防ぐ!防ぐ!そこだ、攻撃!」
とぼんちゃんに檄を飛ばしていた。
そんなに大声を出しているのに潜ってからずっとモンスターはニイさんを攻撃することはなかった。
あとで聞いてみたところ、上手く気配を消せば隠れることが出来るのだという。隠れるとモンスターに気づかれることがなくなって後方腕組みをしていられるという訳だ。
僕は大ニワトリとの戦闘に参加したが、大ニワトリは羽ばたきながらぼんちゃんに向かって嘴で突いてきたり前脚で引っ掛けてこようとするので割って入ることが出来ずなかなか有効打を与えることが出来なかった。
膠着した状況で大ニワトリはぼんちゃんへの攻撃を諦めたのか大ニワトリの背中を叩いていたマヤさんへと突然ターゲットを変えた。
突然向きを変えると思っていなかったマヤさんはびっくりして身を固めてしまい動けない。
危ないと思った僕が見た次のシーンは、ニイさんに両断された大ニワトリの姿だった。
ーーーー
順調に僕達はダンジョンの奥へと進んでいく。時々僕が危ない!と思った時にはニイさんが攻撃をしてくれていた。
奥に進むにつれて大ネズミ1体ではなく複数で出てくるようになっており、疲労が蓄積され集中力が切れてきた僕達はどんどんと苦しい戦いを続けていくのだった。
ニイさんが手助けしてくれる頻度が増えてきたと感じて始めてきた頃にニイさんが口を開いた。
「階段で休憩しようか」
僕達は1階層と2階層の間の階段で休憩した。奥まで進んでいたので戻るよりも階段に行き休憩をする方が早かったのだ。
ダンジョンは積層構造で各層は階段で区切られている。なぜ階段があるのかはわからないが、各層の間にある階段は魔素が無いのだと言う。
モンスターは魔素がある空間が好きなので魔素が無い階段には余程のことがない限りやってこないのだと。
それもあってか階層を跨いで移動するモンスターというのは珍しいらしい。
なので階段は安全地帯とされているので安心して休みことが出来る。
しばらく休んでいると息苦しさも解消され楽になってきた。
ニイさんが教えてくれた。
息苦しさがあるのは魔素のためで酸素がないからではない。
昔の人は酸素がダンジョン内では薄いせいだからだと思い測定器を抱えてダンジョンに潜ってみたものの酸素がある表示はされるのに息苦しいため謎とされていた。
研究が進み魔素という存在があるという仮説を立てたことで色々な説明がつくようになった。
魔素を取り込むと身体が頑丈になったり魔法を使える限界数が増えたりすることが分かっていた。
その現象はモンスターを倒すと起こりやすいことが分かっていた。
ダンジョンのモンスターを倒すと強くなれる。
その為ダンジョンの潜行時間は大事とされていて、総潜行時間で強さを測る目安にもなると。
ずっとダンジョンにいればいいという訳でもないんだけどね、とニイさんは笑った。
「潜行時間を記録するためにも日記を書いたほうがいいよ」
とニイさんがアドバイスしてくれた。
確かに潜行時間を記録しておけば自分が今どれぐらい強くなっているのか判断しやすいな、と僕は納得してこれからは日記をつけようと思った。
「モンスターを倒すと身体が1段階強くなる。ある人に言わせるとモンスター化して身体が変容していっているらしいんだってね。
ただ、魔素を取り込める身体の容量は1階層でも深層でも同じ人間であれば取り込める量に変わりがなく、深層でモンスターを倒して一気に強くなるってのは身体が取り込めきれなくて無理なんだ。むしろ深層にいる方が息苦しさを感じるのが大きくなるデメリットがあるから1階層で息苦しさを感じないようになるのがまず一歩だね。
身体が段々と強くなっていくと一度に取り込める魔素の量が増えていって息苦しさが無くなっていくよ」
「それがレベルアップですね」
「そう正解。橘くんは今日でレベルアップしていると思うから今夜が楽しみだね。
レベルアップは寝ないと発生しないからさ」
レベルアップは、魔素を一定量身体に蓄えるともっと魔素を取り込めるようにと身体が変容することだと言われている。
レベルは冒険者ギルドで能力検定試験を受ければ判るが、それには体力テストや心理テスト、血液検査、果ては水晶に手を当てたりカードを透視させられたりといった風に項目が多く、色々とテストを受けないといけないから頻繁にやる人はいない。1年に1回など定期的に受けている人が大半だそうだ。
魔素をあとどれぐらい取り込めるのかは教会にいくと神父が教えてくれる。
信仰系魔法で相手の状態を調べることが出来る魔法があるため、「汝は残りいくらでレベルアップするであろう」と無料で告げてくれる。
教会の魔法の良さを広めるために無料でしているとのことだ。
ではどうやってレベルを記録しておくかというと、身体が変容すると成長痛のように身体が痛くなるのでそれを記録するのだ。
朝起きたら日記に「僕はレベル1からレベル2に上がった」という風に書いて忘れないようにしよう。
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「私が棍棒を初めに勧めたのは使いやすくて覚えられるスキルが優秀だったからだけではないんだ」
休んでいるとニイさんは棍棒を勧めた理由を語り出した。僕が剣の方がいいのではないかと疑ったのを気にしているのかもしれない。
モンスターの血液には魔素が含まれている。剣を使うとモンスターの返り血で血を浴びることになる。
そうなると、段々と魔素まみれの血液が好きになっていく、この状態異常が『血液愛好家』だ。
こうなってしまうと血液好きがエスカレートしていき、凶暴性と加虐性が増していき知性が低下し好戦的になるという。
毎夜徘徊して血を求めるようになり、血を飲み始めてレベルアップしてしまうと吸血種族へと変容してしまう。
魔素を沢山蓄えてそんな狂乱状態でレベルアップしないといけないので回避できる現象ではあるが、そうなってしまうとまともな人間にはもう戻れない。
血を愛し血と共に生きる種族へとなる。
「だからあんまり流血武器は使って欲しくないんだよねぇ。
確かに吸血スキルを極めると強くなるんだけどね」
と言うと? 僕が気になって次の言葉を促す。
「吸血系スキルが生えるとモンスターの血で能力を取り込めるようになる。
つまり一時的なバフの恩恵が受けれるんだ。これが強い。
ドラゴンなら竜の力、属性持ちならその属性のスキルが得られたり、取り込むモンスター次第では筋力や敏捷性や賢さなど上げれるから戦況に応じた対応力がでかいんだよねぇ。
例えば血液パックやボトルに血液を入れて持ち歩いておけばいざという時にその血液を取り込んで強くなれるんだ。
血液で武器を作り出したり相手に噛み付けば体力回復できるし、噛み付いて血液交換で魔素のリンクを張れれば操ることだってできる。
その操った人やモンスターがさらに噛み付いて隷属ネットワークを拡大していけばもう誰にも止めれないよ」
とニイさんは思い出し笑いをしながら言った。
「戦ったことあるんですか?」
と僕が尋ねるとニイさんは笑いながら答えた。
「昔にね。スキルでハメられる前に速攻で斬ってやったよ。
いくら強くてもコンボ始動前なら楽勝だったねフフ」
調子が出てきたのか他にも血液ではなく金属鉱石を取り込んでいくと適合率が上がって機械化兵手術の成功率が上がる話や、そんな機械化兵とロボットのコンビと戦った話や、金属さえ一刀両断できる侍の話や不死化した魔導士との戦闘などを語ってくれた。
流石にE級でそんな凄そうな敵たちと戦って生きているとは思えないので冒険者ギルドの有名な話を自分の体験談のように話してくれたのかなと思うようにした。




