36話 弁護士になろう
「私、弁護士になる!」
「2回も言わなくていいよ。聴こえてるよ」
僕が怪訝な顔をしていたから聴こえていなかったと思ったのか、イチゴは弁護士になると再び言った。
「なんで急に弁護士になるの?」
マヤさんの疑問はもっともだろう。
なぜならこの世界ではエリア管理者の支配により知識層が粗方居なくなってしまったからだ。力が全てなこの世界で弁護士なんて生き残れるはずもなく、絶滅危惧種となっている。
ちなみに絶滅危惧種になってしまった要因は、被弁護人の逆恨みから相手陣営による嫌がらせなど多岐に渡る。
そもそもエリア管理者が死刑と言えば死刑なのでそれに反論する弁護士は生き残れるはずもなく、裁判というのも形式だけの処刑イベントと化していた。
「キリコと約束したからね。明日から裁判の用意とか色々するのよ」
キリコは、セントラルビルでエリア管理者に喧嘩を売った人物だ。
キリコに異界送りにされたセツナを救う為、イチゴはキリコの減刑もしくは無罪判決を勝ち取ることを約束していたのだった。
「あれって有効だったんですか? てっきりその場限りの口約束だけかと思ってました」
「姫はこう見えても義理堅いのですよ。約束をしたら姫からは絶対破らないんですよ。
私の時も姫は約束を守ってくれたんです」
セツナが何かを思い出しながら言う。この二人には昔何かあったようだ。
「死者もいなかったしキリコに殺意が無かったとして許して貰おうかと思っているの。
助けた私が被害者にお願いし回ったらきっと許して貰えるわ。
そうすれば被害者がいなくなってキリコは無実になるってわけ」
僕は被害者がいなくなる、というのはどっちの意味だろうかと考えた。
知識層がいなくなって久しく、正しい裁判というのは誰も分かっていなかった。
みんな雰囲気で裁判をしていた。
エリア管理者を介さない裁判の場合、「こいつは悪い奴だから死刑!」となると「ちょっと待った!」と雇われた弁護士が言い、そのまま口論に発展し乱闘が起こり、最後に立っていた方が正しいというのが一般的な裁判の流れだ。
弁護士に必要な能力は我を通す胆力と最後に立っていればいい強さが求められるので、イチゴに適任かもしれない。
「本当に裁判するの? 相手はエリア管理者の陣営になると思うんだけど」
「裁判が始まる前に被害者達に会ってお願いするつもりよ。
流石に裁判になったら向こうも強い弁護士を雇うだろうしそれまでに解決したいわね」
どうやらイチゴは裁判が始まるまでに落とし所を作るようだった。どうやるか検討もつかない僕はただ単に大変そうだなぁと思った。
「じゃあ明日クランに行ったらしばらく休むこと伝えておきますね」
「頼んだ!」
イチゴはそれで満足したのかトレーを持ち上げ返却口へと向かっていった。
そうこうしている内に全員食べ終えていた。
僕たちも続いて返却口へと向かった。
ーーーー
昼食も終え僕たちは適性検査の受付会場へと来た。
マヤさんの職業の適性を調べるためだ。
混雑していなければ予約がなくてもすぐに検査が受けられるそうだけどどうだろうか。先を進んでいたイチゴが職員と何やら話している。
「空いてるみたいよ。さっさと入りなさい。時は金なりよ」
イチゴは職員に代わってマヤさんを部屋へと案内する。お節介もここまでくると清々しく感じる。
マヤさんを案内し終えたイチゴは満足した顔でウンウンとうなづき、私たちはこれで帰るわと言い立ち去って行った。
イチゴの見立てでは適性は魔法使いか司教、もしくは戦士らしい。
僕にはどういう判断でそうなのか分からなかったが、上級者特有の何かがそう捉えるのだろう。ちなみに現時点でのマヤさんは僧侶の職に就いている。
結果が気になるが残された僕は待っててもしょうがないので家に帰ることにした。
あ、その前に売店で装備を見てから、孤児院に顔でも出そうかな。
【TIPS:弁護士】
弁護士や裁判という単語が出て来ており混乱するかもしれないが、この世界では厳格には違うけれど江戸時代の「仇討ち法」、「助太刀」の意味合いが近い。
双方から助太刀を選出して競わせて生き残った方の意見を尊重させる。
この場合返り討ちにあった方の遺族による「再敵討ち」は江戸時代では禁止であるが、この世界では二審、三審と何度でも裁判を行うことが出来る。
ただし返り討ちを出来るぐらいなので当然強く大抵は皆殺しにされて一審で終わってしまいます。
橘やイチゴは江戸時代のことなど知らないので裁判や弁護士と言っています。




