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32話 普通の冒険者

 ダンジョン2階層 夢追い人の墓場


 僕たちはダンジョン2階層にある墓場にやってきた。ここはスケルトンが沢山湧き出てくるので、僕たちがスケルトンを倒すにはもってこいの場所であった。


 僕たちはスケルトンとの戦闘は1人で行うことにしていた。


 スケルトンの手には刃こぼれした武器が握られている。スケルトンが使う武器には剣や斧や槍や短刀など様々な種類があった。


 マヤさんがスケルトンの振る剣をパリィしレイピアで突いて刺して倒していく。十体目を倒したところで「終わりー」と言い、戻ってきた。


 戻ってきたのと立ち替わるようにぼんちゃんが前に出てスケルトン達と対峙し、戦闘を開始した。


 棍棒を使うぼんちゃんはスケルトン相手に苦戦をしているようだった。


「梵天丸って貴族の子なのよね? 体調でも悪いの?」


 ぼんちゃんはエリア管理者の八男だ。エリア管理者と貴族は上流階級なので、イチゴのようにまとめて貴族と呼ぶ事が多い。貴族は総じて強いので、イチゴはスケルトンに苦戦するぼんちゃんを見て疑問だったようだ。


「こればっかりは本人の資質かな。まぁ今後の課題ってことで」


 ニィさんはぼんちゃんの技量については特に気にしていないようだった。


 しばらくぼんちゃんが戦闘をし続けて、なんとかスケルトン十体を倒し終えるとゼェゼェ言いながら戻ってきた。


 僕とマヤさんはダンジョン内の魔素に慣れたので平気になったが、ぼんちゃんはまだ息苦しさを感じているようだった。

 ぼんちゃんが慣れて、息苦しさがなくなれば3階層に進む計画なので、まだもうしばらくは2階層でのスケルトンとの訓練は続きそうだ。


 2人続けて戦闘をして、長い間同じ場所にいたせいか、はたまたスケルトンが仲間を呼んだのか、スケルトンの群れが出来ていた。


 僕はスケルトンの群れに突入する前に、帯刀していた<雷切>をその群れの中心の一体目掛けて投げた。


「━━━━<飛剣>」


 その一体に<雷切>が刺さり、刺されたスケルトンはそのまま崩れていった。


 僕は投擲したコースと同じように群れに突入し刺さった<雷切>を引き抜くと、勢いそのままに一薙ぎをし、周囲にいたスケルトンを全て倒した。


 そして僕は離れていて残っていたスケルトンを倒すべく<雷切>を握り直した。




----



 イチゴがダンジョンに潜りたいと言い出したのは、橘について知りたかったからだった。


 セントラルビルの一件で、守矢キリコの空間転送魔法である<狐窓>を自慢のセツナが防げずに、橘が防げた理由を知りたかったからだった。


 表彰式でイチゴは橘に、やたらめったら武装やスキルは公言すべきではないと先輩面をして助言した手前、橘が意味ありげに持っている<雷切>について何なのそれ?と聞けずじまいであった。


 橘は今日これまで棍棒を使っていた。今回はあの剣を使わないのだろうか、とイチゴが諦めていると、橘がおもむろに<雷切>を抜き、スケルトンの群れの向かって投げたのだった。


「な、戦士って騎士までとは言わないけど自分の剣を大事にするものなんじゃないの?!」


「橘くんは自称戦士で、冒険者が本職という意識だから、使えるなら剣を投げるのにも抵抗は無いそうだよ」


「あーね。ニィニィが教えたのね」


()()()に<飛剣>を使ったのを見て橘くんも覚えたかったらしいよ」


 <飛剣>

 本来は手裏剣やダガーを投擲するスキルだ。剣術を極めているニィさんであれば、剣の種類を問わず投擲をして対象に当てる事が出来る。橘もニィさんから教わり<雷切>であれば狙った所に当てれるようになっていた。

 剣を投げるという行為自体が剣術家として批難されるべきという議論が起こり得るが、そこは二つ名≪邪剣≫の名に恥じない振る舞いと言える。



 そして、橘はスケルトンの群れに突っ込み、回転斬りをしてスケルトンを一掃していた。


「げ、あの剣って<死霊特効>の付術(エンチャント)か聖属性でも付いてるの?

 <筋力増強>の付術(エンチャント)とかそういうのとは違う威力が出てるんだけど」


「あぁ、あれは<魔力阻害>だよ。

 スケルトンみたいな魔素で動いているモンスターだと斬られただけで即機能停止するね」


 魔力で動いているモンスターは<魔力阻害>により魔素が散ってしまうことで行動不能となってしまう。それにより容易に倒す事が出来る。

 しかし、デメリットとして、通常モンスターを倒したら、そのモンスターが持っていた魔素を取り込んで冒険者は強くなっていくのだが、魔素が散ってしまうので取り込むべき魔素が無くなり倒しても強くなることがないという点があった。


「それって倒してもレベルアップしなくない?

 強くなる為に訓練してるのに魔素が取り込めないじゃない」


「橘くんは2階層が息苦しくなくなったから、2階層にいる間はとりあえず剣術の技量を上げる為に、あの剣を使うそうだよ」


「それでも魔素がもったいないわ。初心者ならいかに早くレベルを上げて肉体を強化していくのかってのが大事なのに。

 セツナも見てないで何か言いなさいよ」


「はわわ、橘くんカッコいい......」


「!?」


 セツナは橘に見惚れていた。


 セツナがダンジョンに潜ってからずっと無言だったのはそのせいだった。


 クランルームではキリリとしていたが、橘がいない状態ではセツナは常時おかしくなっていた。


 夜、一緒に寝る時にセツナが寝落ちするまで、橘の良い所を延々とセツナから聞かされ続けたイチゴは、これもなんとかしないといけない問題の一つと考えていた。

 おかげでイチゴも橘の良い所を挙げろと言われればいくらでも言えるようになっていた。

 寝不足気味で、夢でさえ橘が出てきてうなされる様になってしまったので、早々になんとかしたかった。


「セツナ! 冷静になりなさい。

 あんな動き、普通の冒険者そのものよ。

 あれがカッコいいわけないわ」


 イチゴにとってセツナは大事な友人であり、イチゴは【血液愛好家】の症状によって日夜血を求める吸血種族となっていた。

 その為、絶えず狂気と吸血衝動に悩まされていたが、セツナと一緒にいる時だけはなんとか落ち着けるようになっていた。

 そんな大事な友人の想い人であるから悪く言うべきではないが、言うべきことは言う、それが、女イチゴの生き様だった。


 イチゴから見ても橘は普通の冒険者の動きをしている。

 スケルトン達の剣戟を防ぎ、斬り倒す。いささか攻撃力が高すぎる気もするが普通の動きをしていた。


「そういえばアイツって冒険者始めて日が浅かったっけ」


「橘くんは冒険者始めて十日ぐらいかな?」


「正しくは九日だよー」


 マヤが訂正の為に口を挟む。


「マジぃ?」


 イチゴの言う普通の冒険者の動きとは、等級(ランク)Aのイチゴが見て普通の動きだということだ。


 そんな動きを、始めて九日の最下層の等級(ランク)Gの冒険者がしているのだ。


「センス良いと思うよ。彼。

 教えたら直ぐに覚えるし教えがいがある。

 それとも、そこまで教えて伸ばせられる指導者の私が凄いのかな?」


「冗談は寝て言いなさい。

 <飛剣>なんて教えてないで真っ当なスキルを教えてやりなさい。

 それこそ、ニィニィじゃなくてHWKにでも預けて真っ当な騎士にしなさいよ。

 あっちだって人材不足だし泣いて喜ぶんじゃない?」


「えー、嫌だね。

 折角手に入れたピースだ。

 野望の為に有効活用させて貰うよん。

 人を育てて強くするってのは面白いものだね。

 興味がなかったがこれはこれで面白いものだ。

 それに橘くんには主だった目的が無い。

 自分の意見がないから言う事を聞かせやすくて、とても良い」


 イチゴはクランルームでのニィさんと橘のやり取りを思い返していた。


 イチゴであれば、橘をイチゴケに加入させて匿うことも出来たはずだった。

 それをしたくなかったのは、イチゴケがストウィのクラメンの配偶者や彼氏などの加入を許可しているクランであるので、イチゴが橘を加入させると、セツナと橘の仲をイチゴが認めたと捉えられかねず、大事な友人であるセツナを橘に渡してなるものか、という言語化し難いモヤモヤとした気持ちもあり、そのような行動に移せないでいたのだった。


「ニィニィ、そんな事ばかりしてたらいつか橘に刺されるわよ」


「その時はイチゴが先に刺されるんじゃない?」


 ニィさんはイチゴに笑って言った。

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