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30話 冒険者を始めた僕が成り行きで入ったクランが実は最強クランだった件

 翌日、僕がクランルームへ行くと既にニィさんとぼんちゃんがいて、マヤさんも起きていた。


「おはようございます」


 僕が挨拶をすると、おはよーとマヤさんが返してくれた。

 うん、可愛いなぁ。声を聞くだけで朝から元気が出てくる。


 僕達は四日前の騒動の後から毎日ダンジョンに潜っていた。

 ニィさんに稽古を付けて貰っていたのだ。


 今日も僕達はダンジョンに潜る約束をしていたのだった。

 

 僕は定位置となった僕の荷物置き場へと行き装備を取り出していると、クランルームの扉が開き、聞き慣れた声がしてきた。


「邪魔するわよ〜」


「お邪魔します」


「やぁよく来たね。いらっしゃい」


 僕が仕切りから顔を出すと、そこにはイチゴとセツナがソファに座っていた。

 

 ソファの主だったマヤさんは追いやられて、所在なさげに丸椅子へと座っていた。


「初期ルームはこの人数じゃ狭いわね」


「慣れれば快適だよ。あっちのルームじゃ広くてかえって落ち着かないさ」


「ふーん、そういうものかしら」


 ニィさんとイチゴが会話していた。


 僕が戻ってきたのをニィさんが確認してか、ニィさんは話を切り出した。


「さて、橘くんも戻ってきたことだし、これからの話をしようか。

 みんなも知っての通り、私たちはセントラルビルの一件で貴族に名を売ることが出来た。

 これによってぼんちゃん経由で、貴族から小さな困りごとの相談を受けることが出てくるようになった訳だね。

 この小さな困りごとの解決というのは私たち冒険者にとっては端金ではあるが、困っている人を助けるというのは大変素晴らしい事だと思うので受けていこうと思う。

 とまぁ、これは建前だけど、実際はぼんちゃんを次の<エリア管理者>にする為に貴族の中に入っていくことが目的だね」


 ニィさんは、突拍子もない事を言い出した。

 やり方は違えど、言っていることは先日倒した<中部復興エリア解放戦線>と同じことだった。

 ぼんちゃんが<エリア管理者>になるというのは、中部復興エリアの全権を握るということだ。

 そんな発言をすればたちまち密告され投獄されてしまうだろう。

 だが、この中には密告するような人物はいないようだった。


「......そんなことが出来るんですか?」


「『出来るんですか?』じゃなくて、やるんだ。

 橘くんだって、男なら一度は夢見るだろう、世界征服、国家転覆をね」


「夢見ませんよ。そんな恐れ多い」


「欲の無い男だなぁ。着々とピースは揃っているというのに」


 ピース? どういうことだろう?


「そういうことね。呆れた。

 私たちを、名義だけ梵天丸の私兵にしたという話だったのに、頭数に入れているのね。

 報酬を最大化するためとか都合の良い理由を並べていたけど、ただ私の体目当てだったのね」


 イチゴは何かに気づいたかのように呆れて言った。


「え? どういうことですか?」


 僕は今ひとつピンと来ていなかった。


「橘くん、解放戦線がなぜ失敗したか分かるかい?」


「えぇと、管理権を賭けての決闘をしようとしたからですか?」


 僕は<エリア管理者>は管理権を賭けての決闘を行い、その勝者が<エリア管理者>になるという脳筋ルールを思い出していた。

 確か、旧日本統治時代に当時の支配者層にそんな決闘ルールをふっかけてボコボコにして今の管理者達が君臨することになったはずだった。

 旧日本統治時代は選挙という多数決ルールで支配者を決めていたそうだが、今は最も強い奴が支配者という単純明快なルールに置き換わっていた。


「その手前の話だね。彼らには単純に根回しが足りなかった」


「ぼんちゃんの血筋と、隷属ネットワーク......」


 口数の少なかったマヤさんが口を開いた。


「正解。まぁ、まだあるが」


 ニィさんが意味ありげにマヤさんを見て、話を続ける。


「ぼんちゃんは東郷家の八男で、当然継承権を持っている。

 決闘ルールは当時の支配者を族滅させる方便だったから、向こうは決闘を仕掛けても無視するだろう。

 なので、狙うは根回し、票集め、貴族の御用聞きをしつつ信用を得て地位を高めつつ実権を握る。

 反対派は.......」


「私の<血液支配>って訳ね。

 私なら出来るけど、それをやろうと口に出そうとした時点でニィニィ捕まるわよ?」


 イチゴは暗に通報するぞ、と脅す。


「いいや、君は出来ないね。

 ストウィのメンバーの事を思えば、出来ないはずだ。

 彼女らの立場を守りたいなら、私について来てこのエリアの実権を握って仕組みを変えた方が良い。

 そもそも解放戦線を倒しに行ったのも貴族とのコネクションを強めて彼女達を守れる確率を高めたかったからだろう?」


 ニィさんはイチゴに手伝うことのメリットを話した。


「..................考えておくわ......」


 イチゴは長考したのち、僅かに答えた。


 イチゴはメリットとデメリットを考え、メリットが勝ったようだった。イチゴがクランリーダーを務めるクラン<ストロベリーウィッチ>のメンバーに何があるのだろうか。



「私の夢は、全人類を私の妹にすることだ、まずはこの冒険者ギルドからと考えていたが、妹とはお兄ちゃんに庇護されるもの、つまり復興エリアの実権を握れば、それすなわち市民が妹となるわけで手っ取り早い訳だ。分かるかい?」


 その理屈だとぼんちゃんがお兄ちゃんになるのではないだろうか、と僕は思った。

 ともあれニィさんは、特定の人を妹にして幸せになるのではなく、妹という価値あるものが沢山あればより幸せになれると考えているようだった。


「ちょっとよく分からないんですが、ぼんちゃんはそれでいいの?」


 僕は訳が分からなくなってきた。叛逆を考えているこの男の言うままに進んでも良いのかと、ぼんちゃんに意見を求めた。


「僕は、役に立たずと言われて育ってきました。そんな家族に復讐ができるのならニィニィが何を目標としていても構いません」


 ぼんちゃんは割と家族に黒い気持ちを抱いているようだった。


 ニィさんの目的とぼんちゃんの目的が上手く噛み合っているという訳か。


 イチゴは既にニィさんに同調している。


 そうであればと思い僕はセツナに尋ねた。


「セツナ、このままだとイチゴは犯罪者になるよ。それでも良いの?」


「橘くん、私は姫と共に歩んでいく事を誓いました。なので姫がどんな道を行こうとも私はついて行きます。

 それにニィニィ様と姫の力があれば、実現はそれほど難しいものだとは思えません」


 セツナの身内贔屓な評価はさておき、これで意見を言っていないのは僕とマヤさんのみとなった。


「マヤさんはどうなんです? おかしいと思いませんか?」


「私はよく分からないけど、行く当ての無かった私を拾ってくれたから、ニィニィについて行きたいかなって思うよ」


 マヤさんもニィさん派だった。


 いくら材料が揃っていても今の支配者であるエリア管理者に歯向かおうなんて考えるのは馬鹿げている。僕は自分の考えを言った。


「すみません。僕はついていけないです。エリアの実権を握るとか支配するとか意味が分からないです。冒険者になろうと思って冒険者ギルドに来て、成り行きで勧誘されてこのクランに入っただけなんで、エリア管理者になるとかそんなスケールの大きい話はついていけないです」


 僕が離脱の意を表明すると、周りの人の目が怖く感じた。

 そうか、僕が離脱すると僕から密告されると考えてしまうのか。


「火狐紅蓮隊」


「え?」


 ニィさんは突然クランの名前を言った。


「解放戦線で中核を担っていた犯人が所属していたクランだよ。個人の犯行として処理されるようだけど、実際には火狐紅蓮隊としての関与がったのかを調べられている。そのせいで、火狐紅蓮隊のメンバーは散り散りになって行方をくらませているそうだよ。そんな事をすると尚更怪しまれるっていうのにね」


「何が言いたいんです?」


「火狐紅蓮隊のメンバーは私たちを激しく恨んでいる。逆恨みって奴だね。

 そんな恨みを晴らす相手を選ぶとしたら、等級(ランク)Aの私たちより等級(ランク)Gの橘くんを選ぶと思わないかい?」


「それならぼんちゃんやマヤさんだって同じじゃないんですか?」


「いやいやそれは違うよ。私たちから抜けると言った橘くんと、私たちの仲間であるぼんちゃんとマヤじゃあ違うよ。私がぼんちゃんとマヤを守るからね。

 等級Gの橘くんはどうやって火狐紅蓮隊から身を守るつもりなのかな?」


 ニィさんは僕の身について脅してきた。

 しかも、ニィさんが傷つけるのではなく他者が傷つけてくるのだから、ニィさんを通報して投獄しても意味がない。

 一体どうすればいい?


「一体どうすればいい? そう考えているね。

 答えは簡単だよ。私たちと一緒に『全人類を妹にする』という野望を目指すしかないんだよ?

 君の身を守ってくれるコネなんてあるのかい?

 身を守るための用心棒を雇う金はあるのかい?

 だから、一緒にクラン続けようよ」


 守ってくれそうなコネなんて今の僕には無かった。

 ふと脳裏にミフネの顔が浮かんだ。

 エリア管理者の四女で、クランランキング1位のクランに所属している女冒険者だ。

 一度しか会っていない男の事を守ってくれるだろうか。

 この場を凌ぐには今は参加するふりをしてやり過ごすしかない。

 ミフネに頼るのは落ち着いてからだ。


「分かりました。このままクランを続けさせてください。だからそんな怖い顔をしないでください」


「やだなぁ、そんな怖い顔をしてた? いつも通りだよ。

 良かった。良かった。

 橘くんが抜けるなんて言い出してびっくりしちゃったよ、私。

 という訳でみんなの意見も聞けた事だしクラン活動を始めよっか」


 ニィさんはいつもの調子に戻り、僕たちはまた再びいつものクランルームの雰囲気に戻った。先ほどまで話していたことなど無かったかのように。




 その後、僕はイチゴとセツナに今日クランルームにやってきた理由を聞いた。


 イチゴとセツナは自身の下位クランに所属させていたサブの名義を僕たちのクランに移籍させていたのだった。


 貴族にぼんちゃんの私兵として紹介した手前、同じクランにいなければ格好がつかなかったためだ。


 こうして僕たちのクランには、イチゴとセツナが加わるようになった。


 ふとニィさん、イチゴ、セツナを有するこのクランは最強なんじゃないかと、僕は思った。


 剣術の他武器術を極め、格闘戦では触れた相手に無条件で勝てるニィさん

 血液による肉体の強化と、血液を媒体とすることで周囲の生物を支配し、それらから連鎖的に支配していくことによる場の制圧力を誇るイチゴ

 竜人という圧倒的な肉体性能と、支援及び防御に優れたスキルを有するセツナ


 この3人が揃えばどんな相手が来ようとも倒せるんじゃないかと思った。



 浅い冒険者生活の経験ではあるもののニィさん達のいるこのクランが負ける姿が思いもつかなかった。




 そう、冒険者を始めた僕が成り行きで入ったクランは実は最強クランだったのだ。



タイトル回収回です。




TIPS【エリア管理者と貴族】


復興エリアは日本の各地に点在しており、エリア管理者は各復興エリアに1人存在する。とても強い。

貴族は復興エリアを管理運営している人たちで利権を握っている。強い。エリア管理者の取り巻きなだけなので血の繋がりは無い。


エリア管理者は決闘ルールで代替わりをしていくが、外部からの申し込みは無視をしており事実上世襲制になっている。

ただし、エリア管理者の子供たちは血を継いでいるのでとても強い。

本来ならぼんちゃんもとても強いはずだが、持ち前の心の優しさで力を出せていない。

橘のように知り合いでも気にせずフルスイングできるようなメンタルを持っていないと、到底エリア管理者には成れないのだ。

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