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29話 狸寝入り

 東郷セントラルビル 60階 宴会場



 ミフネと楽しく談笑していて、粗方今回の出来事を話し終えたと思ったら、ミフユがじゃあ私はこの辺で、といい立ち去って行った。


「ねぇ、今の女誰?」


 後ろからイチゴの冷たい声がする。


「ん? さっきの人は<ブシドースピリッツ>のミフユという人ですよ」


 僕は振り向いてイチゴにそう答えた。


 イチゴの後ろにセツナがいて何か言いたげであった。 


「何話していたの? 言いなさい!」


 イチゴは僕の首に腕を回すなりヘッドロックをかけてきて僕の頭はイチゴに締め付けられた。


 胸が、胸が当たっているって! 慌てて僕はイチゴに答えた。


「ただの世間話だよ。ほんとに何も変なことは話してないよ」


「本当かしら? ねぇセツナ?」


 僕が回答したからかイチゴのヘッドロックから解放された。外観年齢12歳の当たる胸もないイチゴではあるが、健全な男子たるもの過剰な接触にはドギマギしてしまうものだ。


 その後もイチゴ達から何を話していたのか執拗に聞かれたのだが、本当に世間話なので何度も同じやりとりをする羽目になった。


「で、何でBUS(ブス)の奴から橘が話しかけられるのよ。あの女何色目使っているのかしら」


 イチゴはブシドースピリッツのことをブスと呼んだが、クラン名はアルファベット3文字で表記されることが多く、その3文字で呼ぶことが多かった。


 クランランキング順に読み方を並べるとこういったようになる。

[BUS(ブス)]ブシドースピリッツ

[FOX(フォックス)]火狐紅蓮隊

[GRA(グラ)]Grab the glory

[STW(ストウィ)]ストロベリーウィッチ

[HWK(ホワナイ)]聖白騎士団

[COM(コン)]コンパス

[SAN(サン)]卍三卍

[PON(ポン)]ぽんぽこ凛

[15K(イチゴケ)]15キャンディー

[SIS(シス)]Splendid isolation


 ただ人によって呼び名はまちまちで、イチゴのようにブスと呼んだり、ブシスピと呼んだりと様々なのでその時その時の空気感で使い分けるといいだろう。


「どうしてそんなに目の敵にしているんですか?」


「はぁ〜? 誰も目の敵になんてしてないわよ。

 ただね、FOX(きつね)から逮捕者が出た以上、弱体化は免れないわ。

 そうなるとBUS(ブス)の一強となるわけよ。来シーズンは荒れるわね」


 イチゴはSTW(ストウィ)のクランリーダーらしく、クランランキングについて気にしているようだった。


 はて、そんなにクランランキングが大事なのだろうか。

 なぜかランキング3位のGRA(グラ)の下位クランである10位のSIS(シス)に入っていることになった僕にとってはランキングの大事さが今一分かっていなかった。


「ランキングって大事なんですか?」


「そりゃそうよ。なんて言ったってランキングで報酬が変わるからね」


「鍛冶屋チケットのことですか?」


「それもあるけど、1番はクランリーダーへのクラン武器の報酬ね。

 高レベルの鍛治職は忙しいから仕事を依頼できないんだけど、ランキング報酬としてクランリーダーにクラン武器の一振りを作成依頼が出来る権利が与えられるわ。

 当然、依頼の権利だけだから代金は用意しなきゃダメだけど」


「クランリーダーだけってズルくないですか?」


「冒険者なんていう自由人をまとめて、管理しているのだからそれぐらいは正当な報酬よ。

 リーダーとして優秀じゃなければランキング入りは出来ないからね。

 それに何度もランキング入りしたら、リーダー用以外にもメンバーに渡せるからね」

 

 実質1人でランキング入りしたニィさんは破格なのではないだろうか、と僕は思った。


「クラン武器で何を依頼するんですか?」


「バカね、そういう個人の武装やスキル構成はトップシークレットなのよ。

 そんな質問したら笑われるわよ」


「え?!」


「......? 何よ?」


「いや何もないです」




 僕は思いっきりミフネに雷切のことやニィさん、イチゴ、セツナがどういう戦闘をしていたか語ってしまっていた。

 むむむ、いや、大丈夫か。あんな可愛い子がスパイみたいなことをするわけがない。

 むしろ僕が自分から話していたんだった。うん、彼女は悪くない。

 それにニィさん達は有名人だ。スキル構成ぐらい知られているだろう。

 今度ミフネと会ったらとりあえず他人に言わないで、と頼み込むしかないか。




ーーーー


 中央区大通り



 パーティーが終わり僕たちは帰路についた。

 ニィさんはぼんちゃんと話があるからと言い、2人でそそくさと先に帰って行った。


 残されたのは僕とイチゴと、酔いどれているセツナだ。


 あの後、セツナが異常なハイペースで酒を飲み続け潰れてしまった。

 そんなに飲み足りなかったのだろうか。



 イチゴが背丈が違いすぎるからセツナを運べ、と指示してきて僕はセツナをおぶって運ぶことになった。



「......」



「......」



「............」



 会話で出てこない。


 僕は背中に当たる感触へ全神経を集中させているためイチゴと会話している余裕はなかった。


 イチゴの方はというと僕に興味がないのかスタスタと歩いていく。


「ここよ」


 しばらく歩いていると、大きなタワーマンションの入り口でイチゴがここだと言った。

 僕の安アパートとは大違いだ。



「私とセツナはここで一緒に住んでいるのよ......」


 イチゴは何かを言いたげだったが、意を結したのか口を開いた。


「......橘、あんた部屋上がる?」


「へ? 何で?」


 イチゴの提案は意味が分からなかった。女2人で住んでいる部屋に上がったらよくないというのは僕でも分かる。ましてや深夜だ。そんな疑問を発すると腹部に衝撃が走って吹き飛ばされた。


「ぐふっ!」


 ズサササササァァァァァと蹴られたが倒れることはなく立ったままで両足の靴底が地面を削っていく。

 蹴られた衝撃で背からセツナが顔から落ちていた。


「ギャ!」


「あら驚いた。道路まで蹴飛ばすつもりが耐えたのね。もしかしてレベル上がった?」


「くぅっ、えぇあれから三日経ってるんでニィさんに頼んで特訓してもらってました」


 あの事件では僕だけが何も活躍できていなかった。

 ニィさんには雷切でタゲが取れたからそれだけで大活躍だったよ、とフォローされたがそうじゃない、僕はもっと強くならなければという決意が生まれていた。

 そこで、ニィさんに頼んで2階層でのレベリングを手伝ってもらっていたのだった。


 そのおかげで魔素の込められていないイチゴの通常の蹴りに耐えれたのだが、ニィさん曰く出会ったら逃げろと評されるぐらいヤバい女だというのを急に蹴られたことで再認識した。


「レベルが上がっても女心が分からないんじゃ意味ないわね。セツナ、狸寝入りはもう終わりよ。起きなさい」


 セツナがスクッと起き上がった。なんだかムスッとしているようだった。


「橘くん、姫は力ずくで無理やり押さえ込まれるのが好みです」


「ちょ! 何言って......」


「姫はよくレディコミでそういうジャンルをよく読んでいます」


「待ちなさい、それは漫画だから読んでいるだけでそれが好みなんかじゃないわ!」


 イチゴは慌てて弁解するが、セツナがムスッとしているのは僕がイチゴに理不尽に蹴られたから怒っているのだろうと思えた。


 ただ、等級(ランク)Aの冒険者を押さえ込むなんてそれこそ同じ強さの等級(ランク)Aじゃないと無理じゃないか?と思うわけだが、なるほど、それでイチゴはニィさんに絡んできていたのか、と納得した。


「もういいわよ。帰るわよ」


慌ててイチゴはセツナを引っ張り、オートロックの自動ドアが開いた中へと入っていった。


「また明日。おやすみ」


 イチゴとセツナはそう言い残して廊下の奥へと進み消えていった。


 また明日? 会う約束してたかな?


 疑問はひとまず置いておいて、僕はタワマンから歩いて安アパートへと帰って行った。

TIPS【現時点の各人の状況】


ニィさん&ぼんちゃん

・今後の目的の為の根回しで忙しい。(28話)


セツナ

・橘と両思いだと思っている。(20話)

・それなのに橘がセツナを無視してミフネと仲良くしていて嫉妬した。(28話)

・竜人で酩酊耐性があるにも関わらず酒を飲んで酔い潰れた。狸寝入りはしておらず顔から落ちたことで目を覚ました。(29話)


イチゴ

・セツナの橘への想いを知る。(27話)

・セツナからセツナと橘が両思いだというのを聞く。(27話〜28話の間)

・橘がセツナを軽んじている態度を見て、大事な友人であるセツナの為に仲を取り持とうとするも橘の対応にイラつく。(29話)


・好きな人がマヤだと自覚する。(20話)

・セツナとイチゴへの感情は普通〜友人レベル。共闘したので恐怖心は薄れていた。(29話)

・強くなることが第一優先。(29話)


ミフネ

・???

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