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27話 東郷セントラルビル(10) 気づいた頃にはもう遅い

 キリコは手組みを完了し、橘を覗き込んだ。


 セツナが間に入り、<七里(しちり)結界>を使用し守ろうとする。

 

「<狐窓(きつねまど)>!」


 キリコがスキルを使用するよりも早く、ニィさんは左へ、イチゴは右へと床を蹴って飛び、効果範囲から逃れた。


 セツナは誤った。普段であれば、イチゴと共に右へと飛んで逃げて次の手でイチゴの攻撃を支援すべく動いていたはずだった。


 セツナはキリコの<狐窓>により消失した。セツナの<七里結界>は、防御壁内の距離を七里(約28km)まで拡張することにより、物理攻撃、投擲攻撃、魔法攻撃を距離減衰させることで対象への攻撃を防ぐ防御スキルだ。

 しかし、距離減衰の無い妖術には無力であった。


「セツナのアホーー!!」


 イチゴはセツナの様子がおかしいことには気づいていたが、自身を犠牲にしてまで守るとは思っていなかった。そこまで入れ込んでいたのか。

 しかも、一回防いだらオッケー、ではなくまだまだスキルは使ってくるのだから事態は好転しておらず、むしろ悪化している。


 イチゴは横っ飛びでの着地と共に血の翼を出し、勢いを殺さず前方へと駆け出した。

 ニィさんもイチゴの動きに合わせてかキリコ達との距離を詰めるべく前方へと駆けていた。

 橘も走り出した。


 

(敵は3方向に散らばった。まずは前方の男を飛ばしても左右の対処はまだ間に合う)


 橘、ニィさん、イチゴは3方向からそれぞれ近づこうとしている。


 彼らが近づこうとしているのは、ダンジョン内ではなく魔素の薄い地上戦ならではだ。

 魔素が薄い地上では、遠距離を攻撃する魔法スキルは激しく減衰する。

 そのため、地上戦では近接戦闘が基本とされていた。

 もっとも妖術が使える妖術士のキリコたちは元々魔素が無い旧日本統治時代で戦ってきた者達の技術を継承しているためこの限りでは無いのだが、キリコとコノエは主だった攻撃スキルを持たず、戦闘担当をミコトに任せていた。


(コノエの<狐狗狸さん(こっくりさん)>の助言では、冴えない男に気をつけろと言っていた。恐らく前方の男のことだろう。手に持っている武器はなんだ? 形状からしてエンチャント武器か? 何が付与されているか分からない以上先に飛ばすのが正解か)


 キリコはコノエのスキルを信頼していたため、3人の中で橘を一番の脅威だと判断した。


 再び、キリコは手組みをし橘を覗き込んだ。


「<狐窓(きつねまど)>!!」


 しかし、先程のセツナのように橘が消え去ることはなく、橘は何の変化もなく走ってきている。


「な、なんで?!」


 キリコのスキルが不発に終わり、思わずキリコは声を発した。

 それと同時にキリコの右手に激痛が走った。


「んんん〜〜ッ!?!?」


 見るとキリコの右手に、ナイフが刺さっていた。


(これはパーティのナイフ!?)


 宴会場の各テーブルには料理が残されていた。当然、その中にはスプーンやフォークや()()()も含まれている。


「━━━━<飛剣>」


 そのナイフはニィさんのものだった。


 駆け寄る最中にテーブルからナイフを回収していたのだ。


 二投目のナイフは、キリコではなくコノエへと刺さる。ヒィと声を上げたコノエはそのまま痛みでうずくまった。

 近接戦を想定していたキリコは動揺した。不発したのは偶然で再び橘を飛ばすべきか、投擲してきているニィさんを飛ばすべきか。


「私を忘れてんじゃないの〜??!! セツナを返しなさいッ!!!」


 キリコが肉薄してきたイチゴに気づいた時にはもう遅い。血の拳骨はすでにキリコの顔面を捉えていた。



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