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25話 東郷セントラルビル(8) 死ぬ気で頑張れ

 武藤(むとう)が目を覚ますと、どうやら自分のヘルメットを外されたようだった。

 周りを見渡すと他の仲間も横たわったまま目を覚ましておらずヘルメットを外されていた。

 誰も拘束はされていないようだ。


 痛みで身をよじると、声が聞こえた。


「あ、やっぱり野良パーティーで組んだ人ですよ。覚えてます?」

「前に助けた子か。なるほどなるほど、情けは人の為ならず、という訳だね。

 人を助けることで私にとって良いイベントを起こしてくれるという訳か。

 人助けはするもんだねぇ」

「助けたことで被害が出たっていう罪悪感なんてのは出て来ないんですね」

「橘くんも変なこと言うねぇ。それを言うなら君も共犯だと言うのに。

 何にでもポジティブに考えるべきだよ」


 武藤はこの2人が誰だったかに思い至った。

 敵地の中を気にすることなく雑談する2人を見て、僅かに希望が見えた気がした。


「あの!! 俺は前にパーティーを組ませてもらった戦士です!

 騙されてこんなことをしてしまって、本当はやりたくなかったのに無理やりやらされて、助けてくれませんか?!」


 と武藤は大声で懇願した。

 蘇生チケットをタダでくれるお人好しだ、おそらく助けてくれるだろう。


「橘くん、彼以外にも知っている人がいるか見てくれないか?」

「分かりました。見てきます」


 橘は返事をし背を向けて離れていった。


 離れたのを確認してから語り掛けてきた。

「あぁ良いとも、良いとも助けてあげるとも。

 ただし、そうだな............。あの彼を殺したら助けてあげよう。助かりたいのだろう?」


「へ?」


 武藤は疑問をそのまま声に出した。


「エリア管理者への反抗は大罪だ。

 まして子供も捕えてるしね。

 見せしめとして盛大に処刑されるだろうね。

 娯楽の乏しいこの世の中だ。

 さぞ盛り上がることだろうね。

 最も君は騙されて参加したとこのことだし彼の仲間だったとも言うし、助けてあげようというわけさ。

 彼を殺して彼に成り代わってここから脱出する手助けをしてあげよう。

 私は親切だからね」


(何を言ってるんだ?この男は?

 しかし助けてくれるとも言うこの男を信じるべきか)


 武藤は混乱しながらも引き続き話を聞いた。


「掴んで床に頭から投げてもいいし、目を抉ってもいいし噛みついてもいいし、金的で潰して動けなくしてから殺しても良い。

 とにかく何が何でも殺してみて。

 殺したら君を助けてあげよう。

 さ、頑張れ、頑張れ」


 親切な冒険者は俺を立ち上がらせ、周りに聞こえない小さな声で語りかけてくる。

 立ち上がった武藤は背中を押された。

 体に電流が走ったかのように何かが流れた。

 武藤は押されて前につんのめったが、そのままの勢いで泥棒に向かった。

(何故だか力が湧いてくる。

 殺せば助かるんだ。やるしかない。殺す、殺す、殺すぞ)


「橘くーん、ごめーん。逃しちゃった。

 どうやら橘くんを殺そうとしてるみたいだから気をつけて」



ーーーー



 私は雨宮イチゴたちが暴れたおかげであまりにも暇だったので橘くんのトレーニングをすることにした。


 顔見知りの人間が殺そうとしてきた時に彼はちゃんと対処できるだろうか。それが知りたかったのだ。


 闘争心とは素手の殴り合いでこそ、養うべきだ。


 こればっかりはサンドバックだけでは得られない。相手を殴る、蹴るが抵抗なく出来てこそ次へと進める。


 橘くんは2階層のスケルトン相手にもマヤ、ぼんちゃんと3人でではあるが問題なく戦えるようになっている。


 そろそろ『人間を平気で殴れるようになる』という次のステージに移ってもいいと考えた訳だが。


 そういうこともあって合コンのあと、繁華街に橘くんを連れて行こうと考えていたのに、解放戦線が良いことをしてくれるから手間が省けた。


 なおかつ、知り合いでありレベル的にも丁度いい。


 橘くんはやれるだろうか、僕には出来ませんと手が止まりあの戦士に殺されるだろうか。


 私は戦士に<筋力増強>のスキルをかけた。


 これで戦士の筋力は1段階上がって橘くんよりも素手では強くなったはずだ。

 暗示により戦士は橘くんを掴むだろう。

 殴りかかるよりも掴む方が相手は軽視するから、掴むことには成功する見込みが高い。

 その後は投げ、極め、当て身、噛みつきなどで何かしら優勢になりそのまま殺せるだろう。

 程々に死にかけたら治癒して戦闘の初動の大事さと、覚悟のスイッチの入れ方を教える事にしよう。


 私が成り行きを見ていると近づいてきた戦士相手に、橘くんは自然な動作で腹部に棍棒をフルスイングして戦士を一撃で行動不能にしていた。

 思えば橘くんは、大ネズミ相手にも躊躇せず戦えていて、その為スキルの覚えも早かったな。


「知り合い相手でも敵であれば葛藤なく殴れるタイプか、いいね。橘くん強くなれるよ」

「それ、褒めてるんですか? あまり嬉しく無いような」


 私の褒め言葉に、橘くんは褒め言葉なのか、皮肉なのかどっちなのか判断ができず曖昧に答えていた。


「今わざと逃しましたよね? ニィニィ様?」

「なんのことかな? 彼は運が良いから逃げれたみたいだね。

 でも橘くんの方に走っていったのは運が悪かったね」

「まぁそういうことにしておきましょう。

 次同じような事があったらニィニィ様でも許しませんからね」

「へぇー、何をしてくれるのかな?

 それと様は要らない」


 竜宮セツナが近くにやってきて私を非難してきた。

 私は大事なクランメンバーである橘くんに強くなってもらおうと思って行動をしているのになかなか理解されないものだ。


 竜宮セツナの方を見ると両手に気絶させた解放戦線を持って引きずっていた。


「それ使()()んだから、さっさとセツナこっち来なさい」

「姫、すみません。今行きます」


 イチゴがセツナに声を掛けて、倒した解放戦線を一箇所に集めていた。

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