20話 東郷セントラルビル(3)
東郷セントラルビル 55階 割烹東郷内
僕はイチゴが楽しそうにしているのに安心して、ぼんちゃんとミドリさんと竜宮セツナとの会話に混ざると3人は好意的に迎え入れてくれた。
飲み物を聞かれ、僕は17歳の未成年だからお茶が欲しいと言うと、竜宮セツナは上気したテンションで、犯罪だわー!と叫ぶ。
さっきまでのクールビューティーっぷりはどこに行ったんだろう。
竜宮セツナは頭部に丸まった角が2つ付いており、胸元が大きな谷間を作られた青いドレスを着ていた。
僕が頭の角を見ていると竜宮セツナが尋ねてきた。
「これが気になるの?......ええっと」
「橘です」
「橘くんね。私のことはセツナでいいわ。
角を触ってみる?」
「え!いいんですか」
と恐る恐る触ってみた。感触は押し込むとやや弾性があった。てっきり飾りかと思ったが引っ付いているようだ。
セツナは【竜人】なのかな。
【竜人】、ドラゴンの肉を食べることで身体が竜化してしまう症状を指す。
血液により狂人化する【血液愛好家】のように、体内に取り込むという行為がトリガーになっており、ドラゴンの肉を食べ続けることによって起こる現象の為、症状の回避は可能だ。
しかし復興エリアがまだ安定してなかった頃は時々襲来していたドラゴンを狩り、そのドラゴンの肉が大量に消費されたことから発症者が出ていた。
【竜人】など人体の組織が変わってしまう人達のことを【亜人】と呼び、今でも差別が根強く行われていた、
【竜化】の症状は皮膚の鱗化や角の発現、筋力の増大など様々であり、何が要因でどの部位が変質するのか解明されていない。
それはひとえに<亜人研究機関>で謎の火災事故があり、サンプルが全て焼失してしまったのを機に亜人研究は凍結されていたことに起因する。
「やん!大胆ね!」
触り続けていると角を触られたセツナは嬌声を上げた。
セツナはテンションが高いのか僕の持っていたイメージとかけ離れつつあった。
雨宮イチゴに仕えるクールで理知的なサブリーダーという印象だったが、今の僕の目の前にはハイテンションな酒乱しかいなかった。
「はーい!私の角触ったから橘くんに質問しまーす!」
テンションが高い!
僕は、あ、はいと同意した。
別に変な質問もされないだろう。
「橘くんは恋人はいますか?!」
「いないですね」
年齢(17)=彼女無しだ。
なんだ?僕をバカにしようとしてるのか?この酒乱角女め!
「ふむふむ、じゃ次は年上か年下どっちが好きですか?」
「年上ですかね」
身近な女性だとマヤさんが思い浮かんだので、年上と答えた。
「ひゃー!じゃあ何歳差まで大丈夫?」
「特に無いですね。相手が魅力的なら問題ないかな?」
年上の女性で思い浮かべるとマリアさんが思い浮かんだ。
流石にあの年齢まで離れると難しいかもしれないがマリアさんの性格の良さ、料理の上手さを知ってる身としては相手が魅力的であれば問題無いと思う。
「ッ! えっとね、じゃあ身長は高い方、小さい方どっちが好きかな?」
「高い方ですかね」
僕はイチゴとみゆを思い浮かべた。イチゴは僕より小さくてみゆは同じくらいの身長だ。
背が小さいのと同じぐらいの女にはいい思い出がないので背は高い方がいい。
「!!!じゃあじゃあ胸は大きい方、小さい方どっちがいい?」
「大きい方ですね」
「髪は?」
「短い方」
「性格は?」
「おとなしくて淑やかな性格」
「お姉ちゃんと言ってくれる?」
「お姉ちゃん」
という風に僕はイチゴとみゆに当てはまらない答えを答えていった。
イチゴとみゆをそういう風に見ることができないから仕方ないね。
しかし、こう自分の好みを羅列して行くと僕はマヤさんが好きなのかもしれない。
次にマヤさんと会う時が少し恥ずかしいな。
気づくとキャーっとセツナとミドリさんが騒いでいた。
何をキャーキャー言うことがあるのか。
セツナはクールそうなのにお酒って怖いんだなと僕は思った。酔うと叫びたくなるのかな。なにそれ怖い。
行けるかな。行けるわよ。と何やら相談してる2人。
不思議がってる僕に対してぼんちゃんが耳打ちして教えてくれた。
「【竜人】の角を触らせるのは、気を許した人にしか触らせないんだよ。
そして同意して触るというのは相手の事を嫌いじゃないんですよという親愛の証なんだよ」
いまいち分かってないが、角を触る行為が何かしらの意味があるらしかった。
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「そろそろ、終わりとしようか」
ニィさんが締めの挨拶をし始めた。
「え?ニィニィもう終わり?
じゃあ、この後2人でダンジョンに行きましょう?
ダンジョンで殺し愛いしようよ。
ね、殺し愛い」
物騒なことを言うイチゴに対して、ニィさんはそっけない。
「いい加減にしろ!
この戦闘狂が!
私は快楽殺人者じゃないの!
無駄な殺人はしないの!私は!」
心なしかニィさんもテンションが高い。
それとニィさんも物騒なこと言ってないか。
会計はニィさんとイチゴが払っていた。
男なんだから女に奢りなさい!というイチゴに対して、唐揚げとポテト食い過ぎなんだよ!と怒るニィさん。
テンションが高いニィさんを見ると案外イチゴと相性いいのでは?と思う僕だった。
「あのぉ、橘くん。
この後って予定あるの?」
酒のせいかしおらしくなったセツナが聞いてきた。
よく分からないが、後ろでぼんちゃんとミドリさんがニヤニヤしていた。この2人はこの2人で何やってんの?
「もうこの後は帰るだけですけど、どうしたんですか?」
「この後2人で飲み直さないかな、って?」
上目遣いで聞いてくるセツナ。だが悲しいかな。僕より背が高いので屈み込んで上目遣いになると目ではなく胸の方に目がいってしまう。
思わず顔を逸らした僕はそのまま断った。
「すいません。明日もダンジョン潜るのでもう寝たいんです」
睡眠を怠るとダンジョンでは命取りだ。
それに今日ダンジョンに潜れてないので明日は今日の分も頑張りたかった。
それに、セツナの言う飲み直しが本当なら、僕の財布はもたない。セツナはこの時点で何本もお酒の瓶を空にしていたのだ。
そんなのに付き合って割り勘ね、となったら最悪である。お断りだ。
「そっかぁ......」
と弱気になって落ち込むセツナ。それを見て僕は、また今度行きましょう。と言うしかなかった。
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東郷セントラルビル 55階 エレベーターホール内
会計が済み、僕たちはエレベーターホールに到着した。
この後は帰るだけだ。
すると、館内放送が流れた。
「えー我々、<中部復興エリア自由解放戦線>は、このビルを占拠した。
そして、このビルの倒壊に十分な量の爆弾を設置している。
我々の望みは、<エリア管理者への挑戦権>である。
無益な殺生は望まない。
要求が通るまでこのビルの人達には人質になってもらう予定だ。
なお、貴族の子供を捕らえているから変な行動をするとまずはこの子供が犠牲になると思え。変な行動は起こさないことだ。
エレベーターを停止し、階段への通路はロックしてある。
繰り返し言うがおとなしく人質としていてくれれば君達には危害を加えない」
館内放送を聞いてか、店から店員や客が出てきてエレベーターのボタンを何度も押すが反応が無い。
どうやら館内放送の通り、エレベーターを停止しているようだった。
仕方ないから待ってみるか、と思い床に座り込むとニィさんとイチゴは何やらやる気があるようだ。
「いやー解放戦線の彼らも食後の運動に良いイベントを用意してくれたものだ。
しかもイベント失敗すると貴族の子供を処刑してくれるらしい。
なんとも素晴らしいイベントじゃないか。
成功すれば貴族に恩を売れて、失敗すれば貴族の世継ぎを減らせる、良いと思わないかい? ぼんちゃん」
ニィさんはテンション高めでぼんちゃんに同意を求めた。
はぁ、と曖昧な応答をするぼんちゃん。
「しっかりしてくれよ、ぼんちゃん。
君は追放されたとはいえ、まだ継承権を持っているんだからライバルは減った方がいい。
まったく私の野望に協力するからクランに入れてくれと言った君らしくないじゃないか。
しっかりしてくれよ?」
テンションが高いニィさんはぼんちゃんを励ます。
ぼんちゃんはニィさんと何やら取引を交わしていたようだ。
「ニィニィの思惑は分からないけど、私は行くわ。
地上で暴れられる機会なんて滅多にないからね。
暴れて褒められるなんて素晴らしいことだわ」
イチゴの中では既に解放戦線相手に暴れて勝利する気満々のようだった。
「姫が行くのであれば私も行きます」
セツナが参加表明した。
「私は荒事は得意ではないので、待ってます」
ミドリさんは参加を辞退した。
単なる売店の職員がテロリスト退治に向かいます、と言うとそれはそれで心配なので、不参加は納得だ。
「橘くん、君はどうする?」
ニィさんは反応の薄いぼんちゃんを飛ばして僕に質問してきた。
「僕は参加します」
僕は参加することにした。困っている人がいるのであれば助けない理由は無い。
人質になっているのが子供であれば尚更だ。
それにニィさんやイチゴが参加するのなら危険はないと思いたい。
「あれ?あんた戦士のレベル2でしょ。
なんか秘策あるの?」
イチゴが僕に聞いてきた。
イチゴにレベルを言った後レベルアップしてるので正しくはレベル3だが細かいことだろう。
「まぁまぁ、地上での戦闘も経験に繋がるから良いと思うよ」
ニィさんがフォローする。
「げ!策もないのに行く気なの?
私守らないわよ?」
イチゴは無策の僕に呆れた様だ。
「橘くんは私が護ります」
セツナは前のめり気味に言った。
「セツナいつの間にそんなことになってるのよ。
まぁいいわ、セツナが守るなら問題ないわね」
イチゴはセツナの様子を見て呆れた。
「ぼんちゃんはどうする?」
ニィさんは改めてぼんちゃんに尋ねた。
「僕は...........行きません」
「まぁ、ぼんちゃんが参加しなくても、『ぼんちゃんの私兵が活躍した』にすればなんとかなるか」
ニィさんは1人で納得していた。
ぼんちゃんの不参加を聞き、僕たちは作戦会議を始めた。




