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19話 東郷セントラルビル(2)

東郷セントラルビル 55階 割烹東郷内。



 個室に入ろうとしない僕たちを、案内した店員が不審がったので一旦個室に入る事にした。


 仕方ないので席に着くことにした。


 席順は、ニィさん、僕、ぼんちゃんの順で座り、対面は雨宮イチゴ、竜宮セツナ、ミドリさんの順だ。


「どうして2人がいるのかな?」


 疑問に思っていた事をニィさんは聞いた。


「なんでって、ミドリから『冒険者ギルドの売店で仕事をしてたら口説いてくる男がいるからどうしましょう?どうしましょう?』って相談されたら、そんな男はコテンパンにしてやる!って思うわけでしょ?

 ましてや、その男がニィニィなんてね。

 私というものがありながら他の女を口説くなんていい度胸だわ」


「別に何も君には関係ないだろ。

 あぁ君たちはそういえばそういう活動もしてたね」


 雨宮イチゴが率いるクラン【ストロベリーウィッチ】は、ダンジョンを探索するのは当然として、女性冒険者のトラブルの相談・解決も行なっていた。

 そして、クランメンバーは全員女性で構成されており、下部クランの【15キャンディー】はメンバーの恋人や夫を含めた男女混成で構成されている。


「女性専用クランなのにニィさんを勧誘してたんですか?」


 僕はイチゴに疑問に思ってた事を聞いてみた。


「丁度枠が空いてからね。それで誘ったのよ」


「私のクランメンバーがストウィに加入申請して断られたと言ってたけど?」


 イチゴの回答にニィさんは指摘した。断られた人というのはマヤさんだろうか。


「違うわよ。女性の為のストウィだけどあの女は無理。

 あんな規格外は私じゃ扱えないわ!

 面倒ごとは抱えたくないのよ。

 私を文化戦争に巻き込むのはやめて!」


 どうやらマヤさんには何かあるようだった。

 僕から見たらいつも寝ている女性なのだが、どんな秘密があるんだろうか。



「ストウィの活動とは違います。セツナと友達だったので話をしてたら、隣で聞いていた雨宮さんが話に入ってきて3人で来ることになったんです」


 とミドリさんがやや遅れて今回のメンバーに至った経緯を語った。


「ミドリと私は同郷なのですよ」


 併せてセツナが補足した。



「そういうことか。

 ストウィの活動じゃないんならイチゴ帰れ。

 そもそもシーズン終了間際に遊んでる暇ないでしょ君」


 ニィさんは雨宮イチゴに帰るように言った。


「酷くない?!折角来たのに!!

 それはいいのよ。

 私のクランのランキングはほぼ決まったも同然だし、今シーズンは4位で終了よ」


 そう言ってイチゴは、スマホを取り出して僕たちにランキングを見せてきた。


▼△ ▼△ ▼△ ▼△ ▼△ ▼△ ▼△ ▼△


順位 クラン名           人数

1位 [BUS]ブシドースピリッツ   [54/60]

2位 [FOX]火狐紅蓮隊       [45/60]

3位 [GRA]Grab the glory      [39/40]

4位 [STW]ストロベリーウィッチ  [38/40]

5位 [HWK]聖白騎士団      [22/40]

6位 [COM]コンパス       [18/20]

7位 [SAN]卍三卍        [18/20]

8位 [PON]ぽんぽこ凛      [15/20]

9位 [15K]15キャンディー    [19/20]

10位 [SIS]Splendid isolation    [6/10]


▼△ ▼△ ▼△ ▼△ ▼△ ▼△ ▼△ ▼△


BUS(ブス)FOX(キツネ)は相変わらず手堅いわねぇ。

 ニィニィのクランも頑張ってるけど届かないわね。

 ニィニィが新人勧誘なんて下っ端仕事なんてしてなきゃ2位になれてたんじゃないの?」


「私の規定ノルマはクリアしてるから、2位になれてないのは他のメンバーのせいだね」


 イチゴとニィさんはランキング表を見ながら変な事を言う。僕たちのクランは【Splendid isolation】で10位だ。

 イチゴの言う、新人勧誘しなければ2位になれるなんて評価はとてもじゃないが買い被りすぎだと思った。


 イチゴは僕の表情を見たのか僕に質問してきた。


「あれ?聞いてないの?

 ニィニィのメインクランは今3位の【Grab the glory】で、そこのサブリーダーをやりつつ、クラン強化の為の新人勧誘と育成のために下部クラン作ってクランリーダーもしてるのよ?

 あんた説明されてないの?」


 イチゴは僕の知らない事を言ってきた。


 ニィさんそんな事言ってたかな。


 うん、言ってないな。


 僕は知らないうちにクランランキング3位のクランの下部クランに所属しているらしかった。


「私には野望があったからね。クランリーダーとして1人で動いた方がやりやすかったんだよ」


「体良く追放されたんじゃないの〜?

 常識的に考えてヘンタイな野望なんて誰も手伝わないわよ」


「いやいやここにいるさ」


 ? どこにいるんだろう。


イチゴの指摘に対してニィさんは軽く無視して僕にサブクランの仕組みについて説明を始めた。


「知っての通り、冒険者の名前は受付がいい加減なせいで、自由に名前を登録する事が出来たのは覚えているかな。

 そして次の問題として冒険者登録を何度も出来るのではないか?という冒険者たちの中で密かに話題になり挑戦する者が出たんだ。

 その結果、同一人物で複数の冒険者名義を取得することが出来ることが判明したんだね」



 ニィさんは説明を続ける。



「複数登録出来る代わりにその都度必要経費は増えていくけどね。

 等級をE級まで上げたらクランルームが使えるようになるのは覚えていることだろう。

 上位の冒険者の腕前なら、サブで登録したその日に規定の納品ポイントを納めて、昇格試験受けたら即E級に上がれるから負担じゃないんだよ。

 確か初めて会った日に1人用のクランルームは人気があるよって言ったような気がするけど、理由はそういうことなんだよね」


 1人用のクランルームが人気がある理由が判明した。


 上位陣がみんな倉庫用にクランルームを取ってしまうから空いてなかったのか。


 個人のサブクランがランクインしてないのは、メインのクランポイントが厳しくてサブクランにまでポイントを回せていないからか。


 ニィさんのメインクランで規定ノルマを達していない人がいるような事を言ってるし上位のクランに所属してしまうとそれなりに厳しいのかもしれない。


「ちなみに私のメイン等級(ランク)はE級じゃなくてA級だよ。

 でメインの名前は<邪竜ニーズヘッグ>と言うんだ。かっこいいでしょ。

 蘇生チケットの時に聞かれるかと思ったけど、100億ものお金はE級の腕前じゃ到底手に入れれる額じゃないよ」


 ごもっともです。と僕は納得したが、<邪竜ニーズヘッグ>がかっこいい名前かどうかには納得出来なかった。

 

 まだ<新高山昇>がメイン名前で<邪竜ニーズヘッグ>がサブ名前じゃないのか。


 そもそも冒険者の名前でなんで神話のドラゴンの名前を使ってるのか。


 冒険者始めたころはそういうのがかっこいいと思ってそんな名前にしたの?


 僕にはそれが納得出来なかった。



「そろそろ何か注文しようか。

 イチゴはイチゴパフェかアイスキャンディのどっちがいい?」


 ニィさんはイチゴに何を食べるか質問した。


「なんでもうデザートなのよ!

 すぐ食べておしまいにしようとするな!」


 とイチゴは怒っていた。


 ふと、隣を見るとぼんちゃんとミドリさんと竜宮セツナの3人が会話していた。


 既に飲み物も頼んでいたようで3人で乾杯も済ませているようだった。


 僕もそっちの会話に混ざろうかな。


 話してみるとイチゴも楽しそうにして精神が安定してるので、イチゴとニィさんの2人でしばらく会話してもらってる方がいいだろう。




----




東郷セントラルビル 地下1階 集中管理室内




 <中央区(セントラル)>で1番大きなビル<東郷セントラルビル>の全機能を管理している部屋は地下1階にあった。


 ビル内を監視するモニターがいくつも設置されており日夜ビル内の安全は保たれていた。


 その多数のモニター前で退屈そうに座っている男が1人、片手で口を押さえ大きな欠伸をしてモニターを眺めていた。


(暇だなぁ。早く終わらねえかな)


 男の監視する仕事というのは大事な内容ではあったが、この仕事に就いてから一度もイレギュラーな出来事が起きたことは無く、平和そのものであった。


 仕事終わりに何をするかを夢の中で考えるのも飽きたので、気分を変えてモニターを眺める仕事を再開した。


 今日は、貴族のパーティーが60階の宴会場で行われているようだ。


(相変わらず羨ましい生活をしてんなぁ)


 男は華やかなパーティーの参加者をモニター越しに見ながら思った。

 パーティーに並んだ食事を見て腹が減るのを感じた。時計を見てもうこの時間かと気づき、男はどれだけ寝ていたかを計算した。


(寝てても金を貰える仕事だから楽で良いけど、こういう上流階級の生活と比べると萎えてしまうよな)


 男は覗く事が好きだったのでこの仕事は天職だと考えていた。

 誰にも気付かれずに相手を観察する。

 そういうのに興奮を覚える性癖だったのだ。


 しかし、自身の生活とは比べられない華々しい生活をしている貴族を見るのは耐えれなかった。


(なんでも貴族の末っ子の誕生日パーティーでお偉いさんが勢揃いだそうで、羨ましいことだ)


 男の半分の年にも満たない子供が壇上に上がり何かを発言してる。

 モニターにはカメラのみで音声は拾えなかった。


(あぁやだやだ、この前みたいに階段でおっぱじめてるカップルとかいねぇかな?)


 男は始まったばかりだと思われる宴会場を映したモニターへの興味を失い、階段を映しているモニターに注目した。


(週末の夜だ。ぼちぼちしたら見れるかもしれない)


 男は週末に階段のモニターを眺めるのが趣味だった。




----




 男が階段のモニターを監視していたところ、中央管理室の扉をコンコンッとノックされたのに気づいた。


(誰だ? 高橋のヤローがまたカードキーを忘れたのか? 懲りない奴だ)


 先週にカードキーを忘れた同僚の事を思い出した。


 カードキーを忘れて大騒動になり減給となったのだ。

 

 大騒動に巻き込まれた身としては、家に忘れた時はノックして知らせてくれ、と同僚に伝えていた。


 その大騒動のせいで、セキュリティーレベルが上がって時間労働外にセキュリティ講習への参加や安全意識のレポートなんて課題が出たりと迷惑を被っていた。


 再びそんな迷惑を被るぐらいならノック一つで開けてやろうという男の親切心だった。


「てめぇー!高橋!良い加減にしろよ!

 カードキーぐらい首にぶら下げとけ!

 だりーことさせんじゃねーぞ!」


 と扉を開けるや大声で怒鳴った。



(怒鳴ってやったぜ。

 こうすればあのアホもビビって次からは忘れないだろう)


 と声を出した後に男は気づいた。


 目の前には目的の男はおらず、いるのは杖をついた腰を曲げた老人のみ。


(マズったな。始末書ものか?)


 地下1階の中央管理室は本来用事がないと訪れない場所、エレベーターは繋がっておらず階段でしか降りて来れない場所にあるのだが、観光客が物珍しさから階段をうろつき時々やってくる事があったのだ。


 観光客に怒声を発したとバレれば始末書ものでは済まない。


 クビになるかもしれないと、先週受けた研修の内容を思い出して、より深刻な考えをした男は優しい声で老人に尋ねた。


「どうされましたか?

 道にでも迷われましたか?」


 腰が曲がった老人は反応がない。



 男は不審に思った。


(そういやこの爺さん、どうやってここに来た?

 俺はさっきまで階段を見てたはずだが......?!)


 胸元に下げたトランシーバーを掴もうと手を動かしたと同時に男の意識は刈り取られ、その場で倒れた。


 トランシーバーは動作していない。




 腰の曲がった老人は男に向けていた杖を下ろした。


 老人は中央管理室に入りながら腰を伸ばして杖を机に置いた。


 老人の後からは武装した男たちが4人入ってきた。


 老人が使った杖は仕込み杖だ。


 仕込み杖にはテーザー銃が仕込まれていた。



 テーザー銃。


 ダンジョン化前の合衆国で採用されていた警察官向けの銃である。


 先端から2つのトゲが付いた電極を撃ち出し、対象を感電させ対象を無力化させる消音性に優れた非殺傷武器であった。


 ダンジョン化した現在では入手することは困難であり、遺物として扱われていた。


 老人が変装を解いていくなか、他の武装した男たちは倒れた管理人を引きずって部屋の奥に移動させ縛ったり、黙々と箱型の装置を取り出したりと、何かの準備を進めていた。


 男たちの武装はいずれも遺物とされる合衆国で採用されていたであろう銃火器類であった。



 意識の失った管理者の胸のトランシーバーが音を発した。


「......カラスマさぁーん、すいませーん。

 カードキーを家に忘れてきちゃったので......一旦家に帰るので少し残業してもらってもいいですか?......」


 問いかけをしてきたトランシーバーを見つめる武装した男たちの内の1人が管理者のネームプレートの漢字の上に書かれたアルファベットを見て、倒れた管理人向けの連絡だというのを理解した。


 老人の変装をしていた男がトランシーバーを拾い応答した。


「てめぇー!高橋!良い加減にしろよ!

 カードキーぐらい首にぶら下げとけ!

 だりーことさせんじゃねーぞ!」


 と先程と同じ声色で怒鳴りつけられたトランシーバーの相手は、はいぃぃと反応したのち何も応答しなくなった。


「モニターを監視しろ。さっきの奴が近づいてきたら拘束しろ」


 と他の武装した男達に指示を出した。



 老人に変装していた男は、別のトランシーバーを取り出し通信を始めた。


「こちらアルファワン、ポイント到達。

 定刻通りミッションを開始する」

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― 新着の感想 ―
[一言] 邪魔だからと処分してしまわないあたり、テロリストに矜持を感じてしまう不思議。
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